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勇者の二軍  作者: せき
第二章 二軍、魔界へ
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16話

 侍セキ自身に思い当たる節はあるにせよ、言葉で説明することは覚束ない。龍の文様が病や呪いの類いでないのならば、ひとまず棚上げして差し支えないだろう。

 そう段階を踏んで結論づけるまでもなく、魔物使いヌランは侍セキに見向きもしていなかった。

 ダイスが固まったように、全く動かないのだ。しがみついて、必死に呼びかける。


「ねぇ、ダイス、どうしたの? 返事しなよ!」


 ダイスの生命力は四人と同じように全快している。にもかかわらず、その表皮は黒ずみ、かさかさに乾燥して固まっている。

 魔物使いヌランの声に、三人もダイスに歩み寄る。


「ダイスちゃん、どうしたの?」


 心配そうに覗き込む戦士ルイに、魔物使いヌランは首を左右に振る。


「わからない。全く動かないし、反応もないんだ」


「もしかして、変態じゃない?」


「へ、変態でござるか?」


 裸の上半身でのけぞる侍セキを、賢者イオナは一蹴する。


「ばか、動物が著しく姿を変えて成長することよ。青虫がさなぎになって、蝶になるようなね」


 その説明になるほどと頷くのは戦士ルイと侍セキのみで、魔物使いヌランの表情は沈鬱なままだ。


「違うと思う。もしそうなら、中ではめちゃくちゃに動き回って、触れているだけでも熱が伝わるはずだから。今は、まるで死んだみたいに冷たいんだ」


 魔物の専門家に否定されれば、賢者イオナとて肩をすくめるしかない。そして、結論が出ないのなら、どうするかを決めるのが彼女の職務だ。


「よし、とにかくここを出るわよ」


 言うや、賢者イオナは離脱の呪文を唱え、洞穴の最奥を後にした。




 転移の呪文で集落に戻ると、魔物使いヌランは外で待つダイスの元へ一人飛んでいった。

 後から追いかけた三人は、暗雲の下しゃがむ小さな背中を見つけて歩み寄る。


「どう?」


「かわらない。困ったやつだよ、ほんと」


 言葉とは裏腹に寂しそうな表情を浮かべる魔物使いヌランに、賢者イオナははっきりと切り出す。


「どうする? 野に放つ?」


 魔物使いヌランは、賢者イオナを振り仰いだ。能面のような無感情。それが、勇者代行として、賢者イオナが選択した顔だった。


「いや、連れて行く」


 首を振る魔物使いに、腕を組む賢者。


「どう見ても足手まといになるだけだと思うけど。他のモンスターを仲間にするほうが建設的だとは思わない?」


「ああ、建設的だね。でも、それは僕の流儀じゃない。僕は、自分の流儀を守る」


 立ち上がって、やや高い位置にある賢者の瞳をまっすぐに見つめ返す。


「何よ流儀って」


「困っている良い魔物には、手を差し伸べる」


 そう答える魔物使いヌランの瞳に、一切の揺らぎはなかった。

 賢者イオナは肩をすくめて、唇の端をほころばせる。


「良いわ。仲間モンスターのことはあんたに一任する。でも、どうやって連れて行く気?」


 その言葉に、魔物使いヌランはダイスを背負うことで答えた。その姿に、賢者イオナは改めて大きく肩をすくめる。


「ヌランくんって、けっこう力持ちだよね」


「うむ、立派でござる」


 微笑む戦士ルイに、頷く侍セキ。誰もが魔物使いヌランに暖かい視線を投げかけていた。


「よし、いよいよね。突入するわよ、ウエストパレス!」


 その言葉に、三人が拳を突き上げて応と返す。

 しかし賢者イオナは、片手を控えめに掲げつつ危惧していた。

 洞穴の探索を経て、ダイスという貴重な戦力を失った。

 その分を埋めて補えるだけのものを、一行は得たのだろうか。


 だがその心配は、すぐに杞憂となった。


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