純平の過去 4 『ぐちゃぐちゃ』
ぐちゃぐちゃだ。
前も後ろも右も左も愛も勇気も正も悪も。
わからない。わからない。
身体中を駆け巡るこの気味の悪いものはなんだ。
頭の中を支配しようとするこの感情はなんだ。
わからない。わからない。けど、歩く。
行き着く先は1つだけ。
いつからか心の拠り所になった彼女の元だけーーー。
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「純……平……?」
気がついたら辺りは真っ暗で何時間歩いたかわからない。
名前を呼ぶその声で僕はやっと正気に返る。
僕は瞬時に顔を上げると情けない声で彼女に語りかける。
「僕……わからない。 お願い、僕を助けーーー。」
言葉は途中で途切れる。
顔を上げた先に待っていたのは純平の想像した笑顔なんかじゃない。
ぐちゃぐちゃの泣き顔。
「なんで、泣いてんだ……?」
彼女はなにも答えない。
わけがわからない。
辛いのは俺なのに。
助けて欲しいのに。
大丈夫っていって欲しいのに。
なんでおまえが泣いてんだ。
なんでおまえが苦しそうなんだ。
なんでなんでなんでなんでなんでなんで
「答えろよ!!!!!!」
大声で叫んで息を荒げる。
おまえは十分幸せじゃないか。
ふざけるな。
泣きたいのはーーー
「ママが……死んじゃったの……」
彼女は言葉を詰まらせ、時に鼻をすすり、涙ながらに絞り出すようにそう言った。
「は? なんで。あんなに元気だったじゃん」
「ママ……殺されたの……私……」
そこまで言って心が耐えきれなくなったのかまともに話ができなくなった。
仕方ないから落ち着くまでいつもの公園で休もうと連れて行った。
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無言の時間が過ぎた。
僕はもうどうすればいいのかわからなかった。
そこらかしこからパトカーのサイレンが聞こえる。
一体この辺でなにが起きているのか。
「……少しは落ち着いたか?」
「……うん。」
「そっか。」
それ以上の言葉をかけてやる余裕のない自分をすごくダサいと感じた。
「私ね。 ママを殺した人の顔見たの。」
「な!? ほんとか!」
「うん。でも見たことない人だったし、私怖くて。」
「あまり覚えてないってことか。」
そんなもの分かったところでどうしようという訳でもないが。
「手と足、バラバラにされた。」
「お母さん?」
「うん。手と……足……ゲホ。ゲホ。」
呼吸が乱れる。
「お、おい。無理すんな。」
手と足……バラバラ……?
その言葉に何度もおばさんの死体がフラッシュバックする。
まさか、同じやつが殺したのか……?
ベンチにうずくまる少女を見て僕はグッと拳を握る。
溢れようとしてくる涙を必死に堪え、心の中で嘆くように何度も繰り返す。
ふざけるな。




