純平の過去 3 『目撃、悲劇』
「私ん家においでよ。」
初めてのゲームセンターでいろんなゲームをして楽しんだところで突然少女はそんなことを言い出した。
「はあ?」
「お風呂貸すし、ご飯あげるから。」
「……ふざけんな。そんな情けなんていらねぇよ。」
「いいじゃん、来てよー。」
「行かん。」
「来てー。」
「行かねえ。」
「来いよ!!!!」
突然大声を出す少女に純平は目を見開く。
顔は怒ってるようで、今にも噛み付いて来そうな目つきだ。
「い、行きます……。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ただいまー。お母さん、友達連れて来たー。」
「あら、そうなの? いらっしゃい。 あっ!もしかしてあなたが純平君かな?」
「あ、はい、そう、です。」
「やっぱり〜! すずが最近純平君の話しかしないから会いたかったの、さあちょっと汚れてるけど入って入って。」
優しそうな人だ。公園暮らしの汚らしい僕を見てもこんなにも暖かく迎えてくれる。
安心してそう思わせてくれるのが何よりも嬉しかった。
そして母親という生き物を見ると、どうしてもおばさんを思い出す。
おばさんは酷い人だったし、楽しい記憶よりも苦しい記憶のほうが断然多い。
けれど生まれた瞬間から母親も父親もいなかった僕にとってはおばさんは母親だ。
「純平君、お風呂湧いたから入っていらっしゃい。」
「……はい。」
おばさんは今どうしているだろうか。
逃げ出した僕のことをどう思ってるだろう。
怒ってるかな、悲しんでるかな、親不孝者だって嘆いてるかな。
ーー僕のことなんか忘れちゃったかな。
風呂から上がると見覚えのない服が用意してあった。どうやら近くに店があり、急遽買いに行ってくれたらしい。
受け取れないと言ったが、いいからと着せられその上ご飯までご馳走になった。
「純平、お口に合えばいいんだけど。」
「……すごく、おいしい、です。」
「ほんと! よかった〜。」
おばさんは元気かな。幸せかな。
もし帰ったらまた酷い仕打ちを受けるだろうか。
もし帰ったら暖かく迎えてくれるだろうか。
もし帰ったら……
ダン! という音を立てていきなり純平は立ち上がる。
「どうしたの?」
少女の呼びかけに言葉数少なく答えた。
「決めた。 おばさんに会ってくる。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ほとんど家から出してくれたことはなかったけど、やはり家の近くになると懐かしいと感じる。
ここを離れてまだ一年あまりなのに。
ここにくると決めたときすぐに出発しようとしたが、夜に歩くのは危ないし警察に補導されちゃうからと一晩泊めてもらった。
さらに送ってあげると言われたが、自分で行かないと意味がないからとさすがに断わった。
本当にいい人だった。
「……おばさんにあったらまずなんて言おうか。」
近づくたびに不安が募る。
本当に大丈夫か、行かないほうがいいんじゃないのか。
何度もその思いを振り切る。
「もうすぐだな。」
純平は覚悟を決めて走り出した。
角を曲がって2件目がおばさんの家。
角を曲がって2件目がおばさんの家。
ーーーー角を曲がって
ーーーー2件目が
純平は立ち尽くすことしかできなかった。
「……へ?」
家の前に、大量の血が飛び散っている。
その赤色は純平の目を、脳を、全身を強く刺激する。
頭の理解が追いつかない。
倒れているのは誰?
認識するのが怖い。
なのに目は勝手に動き出し、
それを認識してしまう。
「……おばさん?」
女性が倒れている。 心臓付近にぽっかりと穴が開いて、両手両足がバラバラになっている。
顔は、よく知っている。
何度も純平を苦しめた顔、けれど純平にとっては唯一の家族の顔ーーーー。
「ーーーーッ!!! おばさん!? おばさん!!!!」
なんで なにが だれが どうして
瞬間、恐怖が体を支配して何度も何度も嗚咽した。
目からは絶え間なく涙が流れた。
大嫌いだった人。
今更になって気づく。
ーーーー大切だった人。
「うわあああ!! うわあああ!!」
逃げなきゃ。 何故だかそんな衝動に駆られて純平は無我夢中でその場を走りさった。
その途中いくつかパトカーのサイレンを聞いた。
ところどころに立つ看板には世田谷の文字。
朝5時から8時間歩き続けて八王子の少女の家からこの街、世田谷まで来た。
疲労と衝撃で我を忘れていたからか、何もないところで思い切り転ぶ。
純平はしばらく立ち上がらずにただただ泣き叫んだ。
やはり僕には綺麗な服よりも破れかぶれの、綺麗な体より泥まみれのほうがお似合いなんだ。




