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本性

鉛色の空が重苦しい空気にぴったりだ。

涙を浮かべる少女と苦しげな少年。

強い何かで結ばれていた彼ら、その何かは少しずつ積み上げて来たものだろう。だが終わりは儚く、一瞬にして崩れ去る。


ひとまず佐藤鈴を保護してもらうため本部に近況報告も含めて連絡をした。


「お疲れちゃ〜ん、女の子を保護しに来たよ〜。」


およそ10分後、息苦しい雰囲気と真逆のゆるい口調で1人の男が登場した。

茶色のコートにどこか見覚えがある顔。

心当たりのない男の登場に三上は戸惑うが、横にいる柴の身体がこわばったのを三上ははっきりと感じた。


「た、高木さん!? 」


「柴さん、誰ですか?」


「36歳にして警視長に任命されたお偉いさんお気に入り度ナンバーワンの天才、高木涼介さん。 新人の頃お世話になった俺の恩人だ。」


「ご紹介に預かった高木でーす。 よろしく、新人くん。」


天才という言葉に三上がイメージするものは、あることに異常に特化していてそれ以外に少し抜け目がある人。

この人の第1印象はそれにきっちり合致する。

三上も昔から立場や年齢を気にしない無礼講ぶりで周囲の人間から指摘を受けて来た身だが、この人も大概だ。


というかこの雰囲気の中よくそのテンションで入り込めたな、KYさんかよ……。


「なんでそんなすごい人がこんなところに?」


「いやー、偶然にも昨日の夜からこの辺でちょいと遊んでてね。 そーいやこの辺で事件起きたって資料をチラッと見たなーって思い出して三島に電話して見たわけよ。」


三島というのは三上と柴の所属する捜査1課の課長の名だ。ちなみに45歳、高木よりも年上だしもちろんキャリアも長い。


三上は社会の厳しさや不条理をここに垣間見た気がした。


「そーゆーわけで、その子は預かってくよ。」


「お願いします。」


柴に確認をとると、高木は女の子に近寄って手を差し出す。


「さあ、行こうか。」


だが佐藤鈴は応じない。ただ一心に高木を見つめる。

事件の影響で警戒心が高まっているようだ。


「大丈夫だよ、君のことはちゃんとお兄さんたちが守ってあげるからね。」


高木は佐藤鈴の手を掴んで微笑みかけると歩き出す。


「ーーーーッ!!」


佐藤鈴は反射的に高木の手を振り払った。

警戒の眼差しがさらに凄みを増す。

すると高木は少女を見つめたままで1つ深呼吸をした。


「ーーーー、はーぁぁぁぁ………!!!!」


三上はその一瞬だけ高木の纏う雰囲気がガラリと変わったように感じた。

それは真っ当な人間、人柄の良い人間の発するそれではない。

三上がまだ取調室でしか見たことのない犯罪者たちの放つ冷たく突き刺さる雰囲気。


それを見たからか少女は完全に硬直して抵抗をやめる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


思わず三上は呼び止めた。


「どーしたー? 新人君。」


何食わぬ顔でこちらを見た高木から先の感覚は感じない。

気のせいだったかーーー?


「あ、いえ。その子相当傷ついてると思うんで、配慮よろしくお願いします。」


「うい、りょーかい。」


なにか、何かある気がする。この胸騒ぎは偶然なんかじゃなく、あの男にはーーー高木には何かある気が。


「おい、何を呆けてる三上。相手はいつまた人を殺すやも知れない。 俺たちに休憩時間はないぞ。」


「あ、はい。すんません。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「どーぞ、パトカーじゃなくて俺のマイカーだから楽に座って。」


「ありがとう、ございます……。」


誘導されるがままに鈴は助手席に腰を下ろした。

タバコと何かが混ざった匂いに一瞬顔をしかめるが取り乱すことはしない。

車のエンジンがかかると、ドラムやベースが勢いのあるリズムを奏で、叫び声にも近い歌声のロックバンドの曲が流れる。

ハンドルを握る高木は、そのリズムを右手の人差し指でハンドルを叩きながら取り、歌詞を口ずさむ。


「嬢ちゃんさ、お母さんのこと好きだったかい?」


「……うん。」


不意な問いに戸惑いながらも鈴は即答してみせる。


「そうかい、それは悲しいだろうねえ。」


「うん……。」


それから少しの間、2人とも黙り込んで曲だけが進んでいった。鈴は窓の外を流れて行く景色を見て、流れそうな涙を必死に堪える。


「じゃあ嬢ちゃん、さっき一緒にいた男の子のことは好きかい?」


純平を好きか。そんなの好きに決まってる。だから離れたくない。1人にして欲しくない。復讐なんてしなくていい。純平が隣にいてくれればいいのに。

なのにどうして? どうして私を突き放すの?

どうして初めて会った時と同じ苦しそうな顔をするのーーー?


問いの答えを口にすることはせず、耐えきれなくなった涙が頬を伝う。

胸が締め付けられる。


「そうかい。じゃあ嬢ちゃん、君はあの子のためにーーー死ぬことはできるかい?」


「え?」


曲が終わり車内は静まり返る。振り向いた先男はただ獣のような笑顔で、

私に銃を向けていた。

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