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別れ

「もっしも〜し、ボクだよボク。ご無沙汰で〜す。」


ゴミを持つように、携帯をつまんだ男が間延びした声で呼びかけると携帯からは声だけで不機嫌さが伝わってくる声がする。


『なにがご無沙汰だ、ほぼ毎日かけてくるじゃねえか変態が。』


「変態? ボクのどこが?」


『人を殺すことで欲を満たすなんてネジのとんだ感覚は変態だろ。』


「変態、ねえ。随分と社交的なことを言うんだね。 世間から見たらボクも君も立派に同じ狂人じゃないか。 じゃ、今日も後処理よろしく〜。場所はGPSでわかってるんでしょ?」


『はぁー……。何が同じなものか、どう考えてもあんたは飛び抜けて狂ってるよ。』


「あら、そーゆーこと言っちゃう? わかってるよね、君たちが自由に働けてるのがボクのおかげってこと。 その気になればいつでも消せちゃうんだよ〜? ボクはこの国を守る警察官(おまわりさん)だからね。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「共闘だと? バカか、そんなのそっちにメリットがあるばかりでこっちは結局情報を引き出されるだけじゃねえか。」


「本当にそうか?」


「そうだろ。現時点で大した情報掴んじゃいないんだろ?」


顔が割れてることは伝えない方がいいだろうが、それ以外に有力な情報を掴んでいないのも事実。


さて、どうするか。


「ちょ、ちょっと待ってください! 柴さん、本気で言ってます? この子たちを巻き込む気ですか!?」


「巻き込まなくても巻き込まれようとしてんだから見張ってやってたほうが安全だ。」


「ですけど……」


柴の判断に三上は言葉を濁す。


「ーーー共闘、受け入れよう。 こっちの情報をくれてやる約束もしてやる。」


「ちょ、ちょっと!」


突然意見を変える純平に三上が戸惑うのもよそに柴と純平の会話は進んで行く。


「意外とあっさり受けたってことはなんか狙いがあるのかな?」


「ああ。条件があるんだ。」


「言ってみろ。」


すると純平は空を見上げて深呼吸を1つ。


「たとえ何があってもこいつの、すずの命だけは警察が必ず保護すると約束することーーー。」


まだ小学生の少年が発するとはとても思えない重く決意のこもった言葉。

吹き抜ける風が少年の前髪を揺らし、少年の背に上る朝日は彼の想いの強さを感じさせる。



……どこまでもガキらしくない生意気なガキが。


覚悟を見せつける少年に感服を覚えながらも柴はその大人びた少年から少し悲しさを感じる。


少年の瞳はあの日からの自分同様、人生のどん底を知った者の潤いなきモノだった。


「なんで……?」


伏せていた顔を上げた少女が問いかける。


「どうしてそんなこと言うの? どうしてそんな、お別れみたいなこと言うの? ねえ純平、どうして!」


「ーーーーー。」


「ーーーいなくならないで。」


今にも涙のこぼれそうな目をした少女はそよ風にすらさらわれるほどの微かな声をあげる。

恐れているのだ、孤独を。


「初めてなんだ。何かをしたいと感じたのも、しなければいけないと感じたのも。」


「ーーー私を……1人にしないで。」


「話したことなかったよな。僕生まれてすぐに両親が死んで母さんのお姉さんに育てられたんだ。」


「ーーーそんな話しなくていい…!」


「おばさんはだんだんと僕への当たりが強くなって学校にも行かせてもらえなかった。」


「ーーー聞きたくない…!」


「日中もずっと家に閉じ込められて、夜になると仕事後のイライラしたおばさんのストレスを全部ぶつけられた。

『おまえは生まれてくるべきじゃなかった』

『おまえさえいなければ』

身体中痣だらけの僕は考えるようになった。

僕の人生にはどんな意味があるのだろう、何に向かって生きてるのだろう。」


「聞きたくないって!!!!」


「いいから聞けよ!!!!」


感情を高ぶらせた純平が空気を切り裂くような叫び声をあげる。

少女はうつむくと、静かに涙をこぼし始める。


「復讐してやるよ。おまえから幸せを奪ったやつに。 先に言っとくけどおまえを巻き込むことはしない。 おまえにだけは幸せに生きていってほしいから。」


「それはちょっと自己中すぎるんじゃないか? 何するつもりかはあえて今聞かないが、何もかも思い通りにいくと思っているそのガキの甘さがなくならない限り、何も思い通りになんてなりやしないのさ。」


柴の諭すようなセリフに純平は再び息を荒げる。


「わかってるさ!!! そんなことわかりきってるから最悪の可能性を取り除こうとして……!!」


「わかった。」


不意に少女が言う。涙を拭ったその顔は怒りの表情を浮かべていた。


「好きにすればいいじゃん。どうせ私たち出会って間もない他人なんだし。

どこへでも行けばいいじゃん!!」


「ごめん。」


「……家族みたいに大事に思っていたのは私だけだったんだね。 ーーーさようなら。」


それは見ている方まで悲しく切ない思いになる別れ。


三上はこの時止めてやれなかったことをこの先ずっと後悔することとなる。

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