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増田清隆の深刻な申告  作者: たまき りよすけ
困難な申告
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困難な申告3

「申し訳ありません。わ、私の配慮が足りず、すみませんでした」


「あなたたちみたいにたくさん稼いでるならいいんですけどね」


「恐れ入りますが、私たちの給料もそれほど多くはないんですけれども…」


「え、税務課って、給料良いんじゃないの」


「基本的に、税務課だから給料が高いということはございません」


「へー、そうなんだ。この間税務課に電話した時、職員さんがゴミ袋の値段も知らなかったから、そんなはした金、気にしないくらい貰ってるんだと思ってました」


こういう嫌味のようなものは、これまでに何度もあった。


自分たちのお金を集めているんだから、給料も高いだろうと思われているのかもしれない。


でも、当たり前の話だが税金を集めているからってそれを税務課の職員で使っているわけではなく、税務課だろうとよその課だろうと基本給は変わらないし、税務課が出世コースで昇進が早い、なんてこともない。


ついでに言えば、税務課は市役所でもほとんどお金を使わないところだ。


部署ごとに予算を組み、それに沿ってお金を使うのだが、税務課は郵便代と研修費、あとはシステムの委託料くらいしか支払いがない。


それと時間外勤務分の予算が組まれているのは、役所内でも珍しいのだと某市の新人研修で習った。


それ以外は工事をするわけでもなければ入札するようなものもない。


「税務課は支払いが少ないんだから、帳票は一回作ったら覚えるつもりでやって」と森元先輩から鬼のしごきを受けたこともある。


何度も繰り返しやれば覚えられることも、要領の悪い清隆は未だに支払いでミスをしていた。そもそも税務課は課税して納めてもらうのが基本的な仕事になるため、必然的に支出は少なくなるのだ。


(でもそんなこと、一般の人には分からないよなぁ…)


申告に来たお客さまにこんなことを説明しても意味がないので、清隆は黙って申告書を作成した。


若手実業家の兄ちゃんは、再び持ってきた本に目を落としている。


「お待たせしました。こちらがお客さまの申告書です。念のため、申告内容の確認をお願いします」


そのあとは特に嫌味を言われることもなく、若手実業家の兄ちゃんはさっさと帰っていった。


帰り際に「来年は税理士雇って青色申告するかもしれません」と言われたが、それなら今年から税務署で申告をすればいいのに、と思ったことは顔に出さないようにした。


(てゆーかいっそ法人にしろよ!)


「13番の番号札をお持ちの方、どうぞ」


「やっと順番が回ってきました」


清隆が文句の一つでも言ってやりたい気持ちをグッと飲み込んだところで、白髪交じりで人の良さそうなおじさんが、よっこらしょと椅子に座った。


清隆がお辞儀をすると、おじさんも丁寧に頭を下げた。


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