ちょっとした一言3
課長からの言葉が予想外過ぎて、清隆はそれはそれは間抜けな顔で課長を見た。
ポカンと口を開けていることに、しばらく気がつかなかった。
「四月から税務課で大変だっただろうけど、清隆くんが真っ先に電話にも窓口にも出てくれたから、随分助かったよ」
「あ、その、…じ、自分にはそれくらいしかできないので」
「最初は分からないことばかりだっただろうけどね」
「い、今でも、先輩たちに迷惑かけてばっかりです…」
「そんなことはない。清隆くんが電話を取ってくれるから、窓口に出てくれるから、先輩たちは自分の仕事の手を止めないで済むんだよ」
「そう、なんですか?」
「そうだよ。だから多少なりとも余裕が出てくるし、清隆くんができないことにも手を貸すことができる。そうやって、税務課は回っているんだから」
「はあ」
「君のしていることは、決して無駄じゃない」
「!」
「だからね清隆くん、君は自分のしていることに、もっと自信を持ちなさい」
「自信?」
「窓口にお客さまが来ても、堂々として良いんだよ」
「あ、でも、自分お客さまの前だと緊張して、すぐパニックになるって言うか、全然堂々とできなくって」
「最初はそうだったかもしれないけれど、清隆くんが毎日電話や窓口に出ていたのは、伊達じゃないだろう?」
課長にそう言われて、これまでの窓口での出来事を思い出してみた。
初めて電話に出た時のこと。
森元先輩に「ワンコールで取れ」と言われていたのに、緊張して取れなかった。
そのあと坂口さんに電話を取られて、先輩にものすごく怒られた。
保留ボタンを押し間違えて電話を切ってしまい、お客さまに滅茶苦茶怒られたこともあった。
窓口では必ず森元先輩が隣で待機して、一緒に話を聞いてくれた。
証明書を発行する時は、誰かに申請書と証明書を見せて、間違ったものを出していないかチェックしてもらった。
清隆がお客さまに怒られた時は、係長が出てきて頭を下げてくれた。
後で係長に「すみませんでした」と謝りにいくと「これがオレの仕事だから」と言って笑ってくれた。
初めてお客さまにお礼を言われた時は、あの時はとても嬉しくて、こちらがお礼を言いたいくらいだった。
「ああの、こ、これまでのこと、全部、伊達じゃないです」
「うん。じゃあ頑張ってね」
「あ、ありがとうございます。頑張ります」
課長が自分の頑張りを認めてくれたことは、素直に嬉しかった。
窓口ではお客さまが来るたびにビクビクして、電話ではどもってばかりだった。
トラウマになりそうなこともあったけれど、毎日お客さまに真摯に向き合って良かった。
自分の弱さに負けず、立ち向かって良かった。
清隆の努力は全部「無駄じゃなかった」。
自分の頑張りを認めてくれるというのは、それだけで心の支えとなる。
特に上司からの言葉は、大きな意味を持つ。
「自分は誰かに見られている」「評価されている」ということが、最大の強みになると清隆は感じた。
(よし。今日も一日、頑張ろう)




