ヒントと課題1
職場に戻ったらすぐ残業を始めないといけないのだけれど、なんとなく気分が重くて、清隆はノロノロと鞄からパソコンを出した。
電源ボタンを押しても立ち上がらないからなんでだろうと思っていると、コンセントを差し込み忘れていた。
慌ててコンセントを差して電源を入れると、今度はネットワークに繋がらなかった。
「はて、とうとう壊れたか」とパソコンのコードが全て刺さっているかを確認していると、LANケーブルの差し込み口がテープで机に止められているのを見つけた。
これを差し込まないとネットワークにも繋がらない。
「さっきから清隆くん、大丈夫?」
「あ、先輩すいません。大丈夫です」
森元先輩が声をかけてくれたけれど、清隆は気のない返事をしてしまった。
先輩に合わせる顔がなかった。
清隆がその後の会話を続けなかったため、先輩も何も言わなかった。
残業が終わると、今度は森元先輩の方から話しかけてくれた。
「清隆くん、今日はどうだった?」
「あ、いや、その…」
「また失敗したの」
「あの、失敗というか」
「うん」
「じ、自分、『申告』というものが分からなくなってしまって」
「?」
「自分の思う『正しい申告』って何なんでしょう?考えたんですけど、だんだん自分が今までどんなふうに受付をしてきたのかさえ分からなくなってしまって」
「ごめん、清隆くん。最初から、順番に話してもらえる?」
「あ、すみません。自分でも何言ってるか分からなくて」
「うん、ちゃんと聞くから」
今日の森元先輩は、なんだかとても優しかった。
いやいつも優しいんだけど、今日は特別、優しいような気がした。
「今日、申告受付をしたお客さまが、給与以外に農業所得のある方だったんですけれど、収入から経費を差し引いた所得が23万円だったんです」
「あと少し、おしいね」
「そうなんです。しかも、奥さんが旦那さんの代理で申告に来ていて、経費もそんなに付けてなかったんです」
「それで、清隆くんはどうしたの?」




