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増田清隆の深刻な申告  作者: たまき りよすけ
申告の失敗
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申告の失敗7

坂口さんは、目を少し強めに瞑って考え込んだ。


清隆が目をそらさずにその様子を見ていると、観念したように「ふぅ」と一息ついて、照れながら教えてくれた。



「清隆くんが『申告』をどんなふうに考えてるかにもよると思うんだけど」


「申告は、申し出のとおりに受付するものだと思います」


「申告者が間違った申し出をしていたら、それで申告書を作っても良いの?」


「虚偽申告はいけませんので、正しい申告をしていただきます」


「その『正しい申告』って、どんなもの?」


「それはもちろん、申告される方の昨年中の収入から所得を計算し、税金を適正に課税することです」


「じゃあ今回のお客さまは、経費をきちんと計算していなかったため適正に課税することができませんでした。


だから経費分を再度計算してもらうように案内するのは、清隆くんの言う『正しい申告』に繋がらない?」


「うーん、そんな気もしますけど、でもそれはこちらが案内したからというか、本人が申し出たとは言えない、の、かも…?」


「そうだね。最初言ったみたいに、申告者の申し出のとおりに申告書を作るのも『正しい申告』だし、本人の有利になるように案内するのもまた『正しい申告』なんだよ」


「はあ」


「だから多分ね、こうしなきゃいけない、なんていう正解はないと思うの」


「…税金の計算に正解はありますよ?」


「もちろん、所得の計算とか税率とかは決まっているけれど、本人からの申告をどのように取り扱うかは、結局受付者の裁量によるところが大きいんじゃないかな」


「じゃあ、受付者が勝手に申告内容を決めてもいいんですか」


「勝手にって言うのは、ちょっと乱暴かな。でも、自分の思う『正しい申告』に従えばいいと思うよ」


「自分の思う『正しい申告』…ですか」


「今回はたまたま、あと少し経費があれば住民税申告になるっていう本音が見え隠れしたけど」


「そう、それです」


「あたしはね、本人のためにも住民税申告を案内した方が良いと思ったから、お客さまにもそのように説明したんだよ」


「うーん、『正しい申告』」


「深く考えても分かんないよ。あとはお客さまの意向を聞いて、納得してもらう方法を探すしかないんじゃないかな」


「…」


「あんまり悩んでも、そこに答えはないと思うよ」


途中から、坂口さんの話はあまり耳に入ってこなかった。


坂口さんの言う『正しい申告』が、清隆には理解できなかったからだ。


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