正解の限界4
清隆は先輩の隣で若いお母さんを見送った。
あんなに申告を渋っていた人が、家に帰って書類を探してみると言って帰られた。
さすがというかなんというか、清隆も同じことがしたかったはずなのに、納得の仕方が全然違った。
「要は、見せ方の違いなんだよね」
若いお母さんへの最初の対応についてたんまり怒られた後、先輩はこっそり清隆に教えてくれた。
「清隆くんが説明していたことは、もちろん間違ったことじゃない。確かに年末調整をしていないといろんな控除が受けられないし、税金が高くなればお客さまにも不利になってしまう。
未申告者には『申告してください』という通知も出す」
「はい」
「けれど、さっきのお客さまにはそれがいまいちピンときていなかったんだよ。
いきなり控除とか未申告とか言われても、住民税が高くなるわけではないって言われたら『申告しなきゃ』っていう気にはならない」
「じゃあどうすれば良かったんですか」
清隆は、ついムキになって口調が強くなってしまった。
こう言ってはなんだが、清隆も森元先輩も伝えたいことを同じなのだ。
同じことを説明して、未申告だと証明書も出せませんって清隆だって言ったはずだ。
それなのに、どうして伝わらなかったのか。
「申告しなかったら実際にどうなるか、お客さまの立場に立って説明してあげるといいんじゃないかなって、思ったんだよね」
「実際にどうなるか?」
「話の流れから、あの人の収入はそれほど高くないことが分かった。年末調整をしていないということは、パートやアルバイトなどの可能性がある。
そういう人は社会保険ではないことが多いから、国保かどうかをまず訊いたんだ」
「はあ」
「国保加入者なら、未申告だと高額な保険料を請求される場合があることは、清隆くんも知ってるよね」
「はい」
去年、各税目の納税通知書を発送した後はいろんな苦情を受けたけれど、国保の納通を送った後は強烈だった。
電話口で「収入がないのにめちゃくちゃ高い保険料の通知が届いたんだけど!」というのを皮切りに、自分の生い立ちから仕事に対する愚痴まで延々と話をされたことがある。
最終的に「なんでこんなに国保が高いんだ」というお尋ねの内容だった。
名前や住所を聞き出して課税状況を調べるまでがとてつもなく大変だった。
「そういう人は未申告の方が多かったので、収入がないことの申告をしていただいて、適正な保険料となった納付書をお客さまに渡していました」
「そう。だからさっきのお客さまにも、同じように『未申告だと高い保険料の通知が届く場合がある』って説明したの」
「なるほど」




