正解の限界4
「『未申告』という場合に限っては、住民税が高い金額で課税されることはありません。しかし国保は高くなる場合がございます。住民税と国保の計算は全く別ですので」
「そうなんですか」
若いお母さんは小さく「国保は高くなったら困るな…」と口にしているのが分かった。
森元先輩はさらに話を続ける。
「それから、例えばお子さんがいて、某市の保育園に通わせている場合、保育料の計算は所得によっておこないますので『未申告』だと保育料も計算することができません」
「市外ならいいんですか」
「市外なら尚更、所得を証明する書類が必要になってくると思います」
「所得証明書とか?」
「はい。この所得証明書は『未申告』だと発行することができません」
「出せないんですか」
「『未申告』扱いの人は、申告していただかないと証明書は出せません」
「…そうなんですね」
若いお母さんの表情はさっきと明らかに違っていた。
目が泳いでいるというか瞳に何も映っていないというか、人間の「どうしよう」を形にしたらきっとこんな感じなんだろうという顔をしていた。
すると若いお母さんに抱っこされていた赤ちゃんがぐずり始めたので、身体を左右に振って子どもをあやした。
森元先輩はそれにたたみ掛けるように、ダメ押しの説明を続けた。
「さらに申告内容によっては、申告期間を過ぎると税務署へ行っていただかないといけないものもあるんですよ」
「市役所で手続きできないんですか」
「申告の内容によりますが、税務署で申告する必要があった場合、市役所での受付はできません」
「所得証明書は?」
「その日の内に証明書が必要であれば、税務署で申告された控えを市役所まで持って来ていただいて、その内容で証明書を発行いたします」
「そこまでしないといけないんですか」
「のちのちの時間と手間を考えると、今のうちに申告した方がいいんじゃないですかね」
「そうですね。家に帰って書類を探してみます」
「それが一番、間違いないかもしれません。こちら確定申告についてのお知らせです。よろしければ、ご覧になってください」
森元先輩はそう言って、窓口に置いてある資料を一部手渡した。指先は申告期間の案内を示している。
実にスムーズな流れだった。




