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増田清隆の深刻な申告  作者: たまき りよすけ
深刻な接客
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深刻な接客4

木橋さんの今の気持ちを考えると、清隆は喉の奥がぎゅっと痛くなるのを感じた。内側から何かが込み上げてくるような感じだ。


喉仏を触ってみると、ものすごく熱い。


慌てて持ってきたペットボトルの水を飲み、落ち着かせた。


自分の仕事を侮辱されるのは、気持ちのいいものじゃない。


清隆だって、たとえ税務課歴が短くても、プライドを持って仕事をしている。ミスのないよう、責任を持って。


それに税務課の仕事は決して楽なものじゃない。清隆はこれまでいっぱい大変な思いをしてきたのだ。


「お前に税務課の何が分かるんだ!」と言ってやりたかったが、何一つ言い返せないのが悲しかった。


「お客さまは、税務課の発行する証明書についてご存知ですか」


ふと、木橋さんが口を開いた。


「証明書?」


「はい。税務課の発行する証明書です」


「証明書なんて今はパソコンで出すんだから、操作覚えれば誰でもできるでしょ」


「そういう意味ではありません。税関係の証明書がどのような意味を持つか、知っているのかとお聞きしているのです」


「どんな証明書でも、パソコンの中にあるものを出すんだから、大したことないと思いますよ」


「では子どもの保育料を計算するために、所得証明書を提出しなければならない場合があることをご存知ですか」


「は?」


「学校の奨学金申請のために課税証明書が必要になることがあるのをご存知ですか」


「そんなの知ら…」


作業服男の返答を待たずに、木橋さんが言葉を続ける。


「後期高齢者の保険料や介護保険料の金額は、『所得』によって計算されます」


「じ、自分には関係ない」


「銀行から融資を受ける時も、固定資産の証明書や課税証明書が必要な場合があります。滞納がないことの証明書を求められる時もあります」


「だからなんだって言うんだ」


木橋さんの言葉に反発するように、作業服男はこれまでで一番大きな声を上げた。申告会場は再びシン、と静まり返った。


しかしその後申告受付が再開されることはなく、会場中の人が木橋さんの方を見つめて黙っていた。


その様子に木橋さんは一瞬戸惑った様子を見せたが、これ以上あとには引けないと思ったのか、大きく深呼吸した後、はっきりした口調で続けた。


「公的機関の発行する証明書は、その信頼性に大きな意味があります。保育園も学校も銀行も、市役所が出す証明書だからそれを信じるのです」


「それがどうした」


「民間では、そうはいかないでしょう」


「そんなことは」


「自分の損得に関係なく、お得意様を特別扱いせず、全ての人の所得や資産内容、支払い状況等を平等に取り扱うことが、民間企業にできますか」


「…」


「市役所がおこなう仕事は、信頼性があるものとして取り扱われます。課税も徴収も、どの業務もその信頼に応えないといけない。間違いのないように、私たちは責任を持って仕事をしています。


それでもあなたは、税務課の仕事は大したことないと言いますか」


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