深刻な接客2
「え、国保や介護保険料は役所に払っているでしょ?支払った額も、そっちで分かりますよね」
「確かに、お支払いただいた金額等はこちらで把握しています。しかしこれはあくまで申告ですので、こちらで勝手に控除に取って良いわけではないんですよ」
「じゃあ結局、申告はしないといけないじゃないですか」
「確定申告不要な方の申告は、あくまで任意という形になりますので」
この微妙なニュアンスの違いを理解して欲しい。
確定申告は不要。でも、いろんな理由から申告した方がいい場合がある。
今、目の前にいる方にはどのような収入があり、還付があるのか住民税が課税されるのか、つまり申告を「した方がいい」か「しなくてもいい」かは結局、申告をしてみないと分からない。
申告が「いる」か「いらない」かだけでいいなら、「確定申告は不要」という時点で申告は「いらない」となる。
でも、それで申告をしないと住民税が高くなる可能性もあるわけで、そうすると苦情を言われるのは税務課の職員なのだから、そう簡単に「申告はいりません」とは言えないのだ。
だからこちらとしては「なんでもいいから申告して欲しい」と言いたい。
でも「確定申告は不要」という大前提があるため、積極的に「申告してください」と言えない状態なのだ。
「はっきりしない言い方ですね。どうして申告がいるならいる、いらないならいらないと言わないんですか」
「申告を『する』か『しない』かを決めるのはお客さまの判断になりますので」
「なんだ、その言い方は!それでも市役所の職員なのか」
突然、会場中に大きな声が響き渡った。
職員も会場でお待ちのお客さまもみんな話すのをやめ、一瞬だけシン、という空気が流れた。
しかしその後は何事もなかったように申告受付が再開された。
ところが声の主は怒りが収まるどころか、より一層声を荒げて文句を言い続けた。
「だいたい税金が高すぎるんだ!ちょっと稼いだらすぐ税金で持っていきやがって。もっと安くならないのか」
「恐れ入りますが、税率は決まっておりますので、その人の所得に応じて税金を負担していただいております」
「本当に同じなのか?俺と同じぐらいの収入の人は、一体いくら払っているんだ」
「所得と控除が変わらなければ、同じだけの税金が課税されます」
「そうやって言い訳して。そもそも本当にこの計算は合っているのか?わざと税金を高く計算しているんじゃないか」
「研修を受けた職員で申告の受付をさせてもらっていますので、間違いはありません」
「最近はニュースでも課税ミスが取り上げられているぞ」
「某市では、そういった報道を教訓に課税ミスのないよう、職員全員が肝に銘じているところです」




