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増田清隆の深刻な申告  作者: たまき りよすけ
深刻な申告
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深刻な申告2

「では、残り一枚の源泉徴収票をお持ちすれば申告が完了するように申告書を作成いたしますので、この分の源泉を準備して、再度ご申告いただいてもよろしいですか」


この「よろしいですか」という問いに「イエス」以外の回答は求めていない。


こっちの思うように話を進めたいが、申告者の了承を得ないで先に進むことはできないので、一度「よろしいですか」と訊いて、申告者の意思であることを自覚させるのだ。


今回のお客さまは、これでしぶしぶ帰られた。とりあえずは一件落着である。


もしも次文句を言われたら、その時考えればいい。今できることをすればいいのだと、最近思うようになってきた。それ以下ではいけないし、それ以上のことをする必要もない。


『清隆くんは、あんまり説明が上手じゃないからね』


ついこの間、森元先輩に言われた言葉を思い出す。自分の説明は分かりにくいようだと自覚はしていたけれど、周りから言われると少しムッとした気分になる。


人の気も知らないで、先輩はカラカラと笑っていた。


当人からすれば、全然笑い事ではない。一生懸命やっているのに、なんでどうして上手くいかないのか。


考える間もなく、次のお客さまが目の前に座った。


もう少しお客さまが来るのが遅かったら、清隆は自分の不出来さに憤慨していたかもしれない。その時間を与えなかったお客さまに清隆は感謝した。


顔を上げると、前には色黒で、化粧っ気のないオバサンが座っていた。


笑うと銀歯が見えたので相当な年かと思えば、喋りはとてもハキハキとしていた。


こっそり生年月日を確認すると、ええと、四十代後半くらい、かな。やはり見た目で女性の年齢は分からない。


オバサンは自分の申告に来たというので、清隆は預かった書類に目を通した。


同時に市に届いているデータをパソコンで確認すると、この人も源泉徴収票が一枚足りなかった。二カ所から給与を貰っているはずなのに、手元には源泉が一枚しかない。


「あのー、恐れ入りますが昨年、こちらの事業所からお給料はいただいていませんか」


「はい。貰いました」


オバサンは、銀歯を見せてにこやかに答える。


「そうしましたら、その源泉徴収票をお見せください」


「源泉は、貰ってません」


「え?」


「その会社辞めたんですよ」


「退職された場合でも、申告では源泉徴収票が必要となりますので」


「だから、貰ってないんです」


「お手元に源泉がないのであれば、会社から貰ってきていただいてもよろしいですか。再発行も可能かと思いますので」


「会社を辞めたのに、ですか?」


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