深刻な留守番3
医療費に関する問い合わせは、申告期間中は非常に多い。
「○○は医療費控除の対象になりますか」「親の分の医療費も含めていいんですか」「医療費控除はいくらから申告していいんですか」など、いろいろある。
清隆も驚いたのが、歯の矯正や不妊治療の支払いが医療費控除に該当することだ。
ただし、矯正は美容目的でないこと(子どもの成長のために治療の一環でおこなうこと)や不妊治療は医師の指導の下でおこなわれること(市販の漢方薬などは基本的に認められない)が条件となる。
これらは支払額が大きく、医療費控除にかなり影響が出てくるので、該当するのかどうかビクビクしながら調べた記憶がある。
それから、電話先の元営業マンからお尋ねはなかったが「生計を一にするってどういう意味ですか」と訊かれたこともある。
清隆自身、言葉の意味が難しいなとは感じていた。
そういう人に「例えば、仕送りをしている一人暮らしのお子さんは、生計を一にしていると言えます」とテンプレ通りの回答をしても、なかなか分かってもらえない。
何度説明しても「?」という顔をやめなかったお客さまに、森元先輩が「要するに、同じ財布で生活をしているご家族のことです」と言ったら、意外と分かってもらえた。
そのお客さまは「なるほどね」と笑っていたので、清隆が思うに、要はイメージできるかどうかなのだ。
「あのー、ちょっといいですか」
カウンター越しに清隆に声をかけてきた人がいた。
小太りの女性で、年齢は五十代半ばくらいだろうか。身長が低かったため最初は清隆の視界に入らず、しばらく頭をうろうろさせてしまった。
「すみません、失礼しました。どのようなご用件でしょうか」
「仕事で制服を買わないといけないんですけど、これは経費になりますか」
「仕事で使用するための制服ですね…失礼ですが、お客さまは自営業の方ですか」
「いいえ、勤め人です」
「ということは、会社からお給料を貰われている、ということですね」
「はい。でも職場で、制服を購入するように言われています」
「お勤めということであれば、制服代を経費に取ることはできません」
「え、どうしてですか?自分のお金で買っているんですよ」
小太りの女性は、まさか自分の意見が否定されるとは思っていなかったという様子で口を尖らせた。
いくら口をすぼめても顔の丸さは軽減されないようで、清隆はひょっとこを接客している気分になった。




