深刻な留守番1
今日、清隆は留守番の日だった。けれどと言うかだからと言うか、申告受付の時よりも随分気持ちが沈んでいた。
留守番は、自分のデスクで仕事ができる唯一の日だ。
溜まった仕事を片付けるには絶好のチャンスと言える。
しかし実際は、電話に窓口、苦情にお尋ねのオンパレードで自分の仕事をする時間などない。
申告受付ではやることが決まっているけれど、窓口ではお客さまそれぞれの要望に応えないといけない。臨機応変に対応することが求められる。
申告のお尋ねがあったかと思えば次は証明書を発行して、それが終われば納税相談の電話だ。
次から次に仕事が舞い込んで来るので、うっかりすると波に飲まれそうになる。それをなんとか乗り越えていくのが留守番の仕事で、昨日里実さんがこなした業務だった。
『申告受付と留守番の、どっちがいいかなんて考えたらいけないよ。どっちも同じくらい大変なんだから』
申告期間が始まる前、係長に「確定申告で注意すること、アドバイスをください」と言ったら、そう言われた。
てっきり申告会場での注意点を言われると思っていたのに、まさかの窓口業務のことを言われたので、少し拍子抜けしたのを覚えている。
その時の清隆は「申告受けるくらいなら留守番していた方がましだ」と本気で思っていた。
窓口業務なら毎日していることだし、電話も嫌いだけど、普通に取れるから問題ない、と。
しかし今になってやっと、係長の言っていた意味が分かる。窓口業務を舐めていたら痛い目に遭う。
自分が分からないことは業務担当に任せれば良いなどと甘い考えでは、申告期間の留守番は乗り切れない。担当に任せるよりも、自分でなんとかしなければならないことの方が多いからだ。
担当が申告会場に出払っていることもあるし、仮に留守番で残っていたとしても、別のお客さまを対応中ということもある。
職員の数が少ないとは、それだけで脅威となる。
今日の留守番でも清隆は持前の下っ端精神で、お客さまが来たらすぐに窓口に飛び出していた。
話を伺うと、原付のナンバーを廃車したいという申し出だった。その対応が終わると鳴り始めた電話に何の躊躇いもなく出てしまう。
(しまった!またやってしまった…)
清隆は、さっきのお客さまとのやり取りをメモに残しておこうと思っていたのだ。
女子大生と思われるその人は、原付のナンバーを返却したいと言っているのに肝心のナンバープレートを持って来ておらず「どうしたらいいですか?」と震える声で尋ねてきた。
清隆は廃車の用紙を渡し、再来庁を依頼した。
女子大生は「分かりました。明日、増田さんのところに来ます」と言ってくれたけれど、明日は申告受付のため、清隆は税務課にはいない。
それを伝えると、瞳に浮かべた涙が今にも零れそうな勢いだったため
「ほ、他の職員でも対応ができるように、メモを残しておきます」
と伝えたのだ。
だからパソコンの画面にメモを残す必要があると思っていたところだったのに。
でも、電話を取ってしまったなら仕方ない。
清隆は片手で付箋を一枚はがすと「女子大 メモ のこす」と殴り書きした。




