先輩も深刻2
「お客さまに話を聞いたら、本人にはパート収入があって、ご主人さんの扶養の範囲内で働きたいって言われたの」
「え?そんなこと言われても今申告期間中なので、もう扶養の範囲で働けないじゃないですか」
「来年のためにね、聞いておきたいんだって」
「この忙しい時に来年の話なんて…」
「ね~。来年のことは来年考えればいいのに」
「少なくとも、今は聞かないで欲しいです」
清隆は再びため息をついた。
「で、清隆くんはこの質問になんて答える?」
「なんて答えるって言われても」
「いいから。勉強だと思って、私に説明して、ね?」
「里実さん、なに言ってるんですか」
「…」
「…」
「…」
「え、これ説明しないとダメなやつですか」
「うん!」
里実さんは嬉しそうに笑っていたけれど、そこに清隆の拒否権はなさそうだった。
この有無を言わさぬ笑顔に何人の男が釣られたのか…。想像するだけで、清隆は美魔女の神髄を垣間見た気がした。
「あーもう、分かりましたよ…」
清隆は、里実さんに釣られてしまった男たち同様、笑顔に押し切られて了承した。
美人に弱いのは別に清隆に限ったことではなく、男の性なのである。
答えを考えながら清隆は、なんだかこの間も似たようなことがあった気がすると思いを巡らせていた。あれは確か、森元先輩の口車に乗せられたのだ。
あの時も先輩に「説明しろ」って言われたから答えただけで、決して清隆が人に乗せられやすい性格をしているわけではない、と思う。
「扶養に入ることができるのは所得が38万円以下の人。パートで働いている人は給与所得控除があるから、収入で考えるとプラス65万円まで大丈夫。
これを足して合計103万円のパート収入なら、奥さんは旦那さんの扶養に入ることができて、税金もかかりません」
「うん。清隆くん完璧だね~」
「ありがとうございます」
「そして完全に、頭が確定申告脳になってる」
「?」
「清隆くんの説明は間違ってないけど、その計算だと所得税はかからなくても住民税がかかる場合があるよね」
「…あ」
「扶養に入って税金かからない程度に働きたい人って、住民税も払いたくない人が多いんだよね~」
「確かに」
「そういう人に清隆くんがした説明をすると、翌年度に住民税が課税された時にすごく苦情を言われるの。『税金がかからないように働きたいって言ったのに!』って」
「あー、自分の説明だと、そのクレーマー予備軍を作りそうです」
「私なんてそれで昔、ものすごく怒られたことがあるんだから」




