表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
増田清隆の深刻な申告  作者: たまき りよすけ
困難な申告
11/72

困難な申告6

「会社で扶養に入れる手続きをしなければ良かったんですか」


「…え?」


おじさんが突然言い出した言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。


考えている間に、おじさんの言葉は続く。


「年末調整で扶養に入っているから還付がなかったんですよね。それなら、扶養に入れる手続きをしなければ、還付があったということですか」


「まぁ、…そうですね。扶養なしで年末調整をしていた人が、親御さんを扶養に入れる申告をしたら、還付もあったと思います」


「わかりました。来年からそうします」


おじさんはおもむろに立ち上がった。


清隆は慌てて


「で、でも扶養に取っておけば申告会場に来る必要もないわけで」


と説明したが、おじさんはさっさと申告会場を出て行ってしまった。その姿は特に怒っている様子ではなく、どうすれば還付を受けられるのか、真剣に考えたことが窺えた。


確定申告での還付は、あくまで多く取り過ぎた分を返しているだけだ。


年末調整をしても確定申告をしても、実際に課税された金額は変わらない。還付がなくても、元から課税された金額が少なければプラマイゼロというわけだ。


けれど人間というのは、還付があった方がお得だと思ってしまうのだろう。


気持ちは分かるが、そのための時間や手間を考えると、年末調整で清算してもらった方が良いのではないかと清隆は思う。


(そんなことより、親に自分の税金の申告なんてさせるなよ…)


さっきまでお客さまが座っていた席を眺めながら、清隆は思った。


(自分の税金ぐらい、自分で手続きしろよ。扶養に入れたなら、そう親に伝えろよ。こっちに無駄な手間かけさせんなよ)


世の中には、本当にいろんな人がいる。


それぞれに違う人生を生きているのだから、その人の収入や控除が異なるのも当たり前。一つだって同じものはない。


だから自分の尺度で「普通」を決めつけてはいけない。『普通こうするだろ!』と思うことが通用しない場面に、清隆は何度も出くわしている。


分かっていたことなのに、いざ目の前で起きると焦って上手く対応できない。『次こそは!』っていつも思うのに、今日も失敗してしまった。


清隆の意図することは、多分あのおじさんには伝わっていないだろう。こんなことじゃいけないのに、どうして上手くいかないのだろうか。


申告受付は、本当に難しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ