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増田清隆の深刻な申告  作者: たまき りよすけ
深刻な申告
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深刻な申告1

「ですから何度も申し上げておりますとおり、源泉徴収票がないと申告の受付ができないんですよ」


ざわざわと騒がしい確定申告会場で、清隆はオウムのように同じ言葉を繰り返した。このフレーズを口にするのは、これで三度目だった。


増田清隆は某市役所税務課に所属する入庁一年目の新人職員で、今日は市が設けた申告会場で住民の方の申告受付業務をおこなっていた。


今、申告受付をしているお客さまはアルバイトで合計五ヵ所から給与収入があり、その源泉徴収票を見せてもらったところ、一枚だけ持ってきていなかったのだ。


確定申告に来た方の書類に不足があった場合、どうしても受付することができない。申告する方自身で全部の書類を揃えてもらうしかないのだ。


しかし今日のお客さまは、そのことについて一向に納得する気配がなかった。


「どうして源泉徴収票が一枚足りないだけで、申告できないんですか」


「お客さまが間違いなくそのお金を受け取ったという証拠として、源泉徴収票が必要なんです」


「本人が間違いないと言っているんだから良いでしょう」


「住民税申告ですとそういった申告を受付する場合もあるのですが、お客さまは確定申告になりますので、源泉徴収票が必要になってきます」


「だったらその住民税申告をしてください」


「住民税申告ですと、この還付金を受け取れないのですが」


「どうして還付を受けられないんですか」


「還付金を受け取る場合には確定申告をしていただかないといけませんので」


「だからどうして源泉徴収票が一枚足りないくらいで、確定申告することができないんですか!」


(税務署がダメって言うからだよ!)


清隆は声を大にして税務署に責任を押し付けたかったが、そんなことをしても火に油を注ぐだけなのは分かっていた。


こういうお客さまには、納得されるまで根気強く同じ説明を続けるしかない。できないものはできないと、伝えるしかないのだ。


清隆は、お客さまには分からないように小さくため息をついた。


税務課に配属されてもうすぐ一年。税金のことなんてさっぱり分からなかった一年前に比べると、なんとか確定申告の受付ができる程度に成長した。


元々要領の悪い清隆にとって、申告受付を学ぶのは並の努力では足りないのだ。やっと「普通に」申告の受付ができるようになったのだが、お客さまへの説明となると話は別だ。


こっちが言ってることは伝わらないし、相手が求めていることも全然分からない。


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