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「えっと、いろいろと聞きたいことがあるんだけど、まずは質問してもいいかな。」
話を切り出すと、背筋をピンと伸ばし、緊張した面持ちでこちらを見つめる。
「はい、私に答えられることでしたらすべてお答えします!」
だいぶ力が籠もっているな。緊張している相手を見ると、逆にこちらが落ち着いてしまうのでいいのだけれど。
「既に知っているようだけど、私は坂本英治と言います。よろしくね。君の名前を教えてもらえるかな。」
「私には名前がありません。名前を持つことは名誉なことであり、ダンジョンマスターの配下は、マスターの許可なく名前を持つことを基本的に許されておりませんので…。」
なんとも不便だな。配下同士のコミュニケーションとかどうするのだろう。
「じゃあ、君に名前を付けよう。どんな名前がいいか希望はあるかな。」
「希望なんて恐れ多い…。エージ様に名を頂けるのであれば、どのような名前でも喜んで拝領いたします。」
「んー。じゃあ、ノワールなんてどうかな。僕の世界の言葉で黒という意味だ。」
黒髪に黒目、黒いワンピース。全身黒だし、ぴったりだろう。
「ありがとうございます。本日よりノワールと名乗らせていただきます。」
そう言いながら、すごくいい笑顔でこちらに頭を下げる。こちらとしては大したことをしたつもりはないのだが。
「あー、そんなに畏まらないで下さい。それじゃあ、早速ダンジョンについて教えて欲しいんだけど、まずはどうすればよいのかな。」
「はい!それではまず、エージ様の端末でガチャを引いてください。」
「ガチャ?」
「ガチャとは、ランダムでダンジョンマスターにアイテムやモンスターを支給する装置で、通常はダンジョンポイントを消費して使用します。」
ソシャゲで良くあるやつね。うん、知ってた。
「初回は10回ダンジョンポイントの消費なしで使用できます。また、1日1回だけダンジョンポイントの消費なしで使用できますので、11回分使用できますね。」
「分かった。まずガチャを引けばいいんだな。」
スマホを取り出しアプリを起動すると、先ほどとは画面が変わっている。画面中央にはノワールをデフォルメしたキャラが歩き回っている。背景は洞窟のようだな。画面上部には、DP と魔晶石、魔素エネルギーの項目が出ている。DPは33,201ポイント、魔晶石は0、魔素エネルギーは0/???と表示されている。DPがやたら多いな。そして、画面右端にはメニューが出ている。
画面右端のメニューには、マップ、ガチャ、アイテム、モンスター、クエストの5つの項目が表示されている。
「このDPというのは、ダンジョンポイントのことでいいのかな?ガチャを引くのに使うポイントだよね?」
「ご推察の通り、DPとはダンジョンポイントのことです。ガチャを引く以外にも、ダンジョン内に罠や設備を設置したり、アイテムを購入したり、ダンジョン運営の様々なことに使用します。」
「なるほど、用はお金のようなものか。」
「はい、概ねその認識で問題ありません。ちなみにですが、エージ様がこちらの世界にいらっしゃる際の資産を目安に初期DPが決定されます。」
確か、銀行の預金額は300万円くらいだったな。100円で1DPということかもしれない。1DPはざっくり1ドルと言ったところか。
「なるほど、ではこのDPはどうすれば増やせるのかな。」
「DPは魔素エネルギーを100獲得する毎に1DP付与されます。魔素エネルギーの獲得方法については覚えていらっしゃいますか?」
「確か、土地から得る方法と、配下からで貰う方法、生物を殺して入手する方法の3つだったかな。」
「その通りです。魔素エネルギーのノルマを確保しつつ、DPを稼いでダンジョンを強くしていくことが基本的な流れとなります。」
当面は穏便に土地と配下から集めたいところではある。こちとら虫を殺すのですら嫌なタイプなのに、生物を殺させないで欲しいところではある。
「ありがとう。DPについては概ね理解できました。次の質問だけど、この魔晶石について教えて下さい。」
「魔晶石とは魔素エネルギーの塊です。強いモンスターの体内にあったり、魔素エネルギーの濃い土地に析出したり、まれに鉱山などからも発掘されたりします。使い道としては、魔道具に使用するのが一般的ですが、特別なガチャを引いたり、大量の魔素エネルギーに変換することも可能です。」
課金すると大量にゲットできそうだな。
「自分で集めた魔素エネルギーを魔晶石にすることは可能なのかな?」
「残念ですが、現在の技術では魔晶石を人工的に作り出すことはできません。方法があるとすれば、強力なモンスターを育てた後で、殺害することで得られますが、あまりメリットは無いと思われます。ちなみにですが、DPにより引き換えることもできません。」
「なるほど…。」
何がなるほどなのか、自分でもさっぱりだが。
「他に疑問に思われることはございませんか?」
ニッコリ笑って問いかけるノワールがあまりにもかわいらしい。恥ずかしくなり、思わず目をそらしてしまった。
「いや、大丈夫だ。他に疑問点はないから、とりあえずガチャを引いてみるよ」