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「おうぇぇぇぇ……」


「エージ様!」


 口の中が胃液と今朝食べたパンの味がする。気持ち悪い。ノワールが背中をさすってくれているおかげか、再度込み上げてくる感覚を何とか耐える。


「ふぅ……。すいません。あまり、人が死ぬところを、見たことが、無いもので」


 ゆっくりと呼吸をしながら、言葉を絞り出す。


「あまり無理をするな。回収はこちらでやっておくから、先に戻ってくれ。ノワール、主殿を頼んだぞ」


「分かりました。エージ様、大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫です。すいませんが、ステラさん。ここはお願いします」


 情けないが、言われた通りに戻ることにしよう。たぶん、この場で僕にできることはもうないだろう。目を瞑り深呼吸をして、ゆっくり歩き出す。


 帰る途中に応援にきたウィルとモンスター達と会い、事情を話して一緒に戻っていく。戻る最中にウィルが数度話しかけてきたが、うまく答えられない。ぼんやりして、頭が回らないな。ノワールに部屋まで送ってもらい、少し休ませてもらうことにした。





「あっ、ノワールさん。エージさん、大丈夫でした?」


「今自室までお送りしてきました。部屋で休まれています」


 会議室に行くと、ウィルが待機していました。先ほど声をかけて、会議室で待っていてもらう様にお願いをしていたので、当然ではありますが。ステラさんはゴブリンリーダーに呼びに行ってもらっていますが、事後処理もあるのでしばらく時間がかかるでしょう。


「死体とか慣れてないとキツイッスからねー。俺も冒険者になりたての頃は、結構しんどかった覚えあるし」


「そうですか……。私は特に何も感じないですね。死体に触りたいとは思いませんし、嫌悪感は感じますが、衛生的な考えからそう感じているように思います」


「ほー、ドライな考え方ッスねー」


 締まりのない顔で相槌を打つウィルに少し苛立ちを覚えますが、顔に出さないように努めます。ダンジョンに生み出され、もとより知識や感情を得た状態で生まれてきたため、日常的に多少エージ様やウィルさんとは価値観の違いを感じることもあります。人を殺すためにダンジョンから生まれてきた私にとって、死体や殺害する行為に関する忌避感は不要なものです。


「そうですか? 私達はそもそも人を殺すための存在です。エージ様も、早く慣れて頂ければ良いのですが……」


「どうだかねー。ありゃ、平和な世界で生きてきたタイプだ。難しいんじゃねーかな」


 ウィルさんの言う通り、エージ様の温和でお優しい性格は、平和な世界で生きていた証拠なのでしょう。私達モンスターに対しても偉ぶらず、思いやりを持って接して頂けるのは、大変ありがたいです。ただ、冷酷な判断を下せるのか、時々心配してしまいます。

 今回の洞窟に閉じ込めて冒険者を弱らせる作戦は、エージ様が我々の損耗を極力減らすように考えたからこそ、発案されたのだと思います。モンスターを無意味に使い潰すようなマスターよりよっぽどマシですが、もしもその優しさから冷酷な命令に躊躇してしまうようなことがあれば、ダンジョンを制圧されてしまうこともあるかも知れません。いざという時は、私がエージ様に嫌われてでも、しっかりお助けしなければいけませんね。


 しばらくウィルと雑談をしていると、ステラさんが戻ってきました。

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