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「中の状況を説明する。ダンジョン内部ではモンスターと遭遇せず。石でできた四角い建造物が10あるが、入り口は確認できず。用途は不明。また、内部には畑のような区画があったが、作物は見つからず。但し井戸がある為、居住区のように思うが、生物が暮らしていた跡は希薄だ。ダンジョンの奥に洞窟あり、中には入ってないが、内部に松明があるので奥にモンスターがいると考える。分かったことはそれくらいだ。」
ダンジョン内の状況をピーターさんが淡々と語る。この場にいる全員が静かにピーターさんの報告を聞いている。
「そうか。また妙なダンジョンだな。その用途不明の建物が何らかの罠である可能性は?」
報告を聞きゲンさんが質問をする。
「こちらで調べた範囲では罠は見つかっていない。内部は空洞のようだが、生物の気配は感じなかった。なにか魔術的な意味があるかも知れんが、此方ではこれ以上のことは不明だ。」
「ふむ。そのあたりは、アンリのところに任すとするか。」
そういうとゲンさんはちらりと青いローブを着た女性に目をやる。彼女がD級パーティー『漆黒の翼』のリーダーのアンリだ。20過ぎで小さな目に低い鼻、パッと見て地味な顔をしているが、貴族のお嬢様みたいな手の込んだ髪形をしている。女性の髪形については詳しくないが、ロレンツが縦ロールとかそんな風に呼んでいた気がする。
彼女はもともと首都の魔法学校を優秀な成績で卒業したらしいのだが、定職に就かずフラフラと各地を放浪し冒険者をやっている変わり者だ。最近この辺りに流れてきたようで、今回初めて組んで仕事をする。
実力はあるが、気分屋で飽きると任務を放棄するのでパーティーランクは低いが、その実力は折り紙付きだ。以前にダンジョンのモンスターを間引きする依頼を受けた際には、レア度3のネームドモンスターを退けたとの噂を聞いたことがある。
「あら、アタシ調査は専門外よ。あまり当てにされても困りますわ。」
不機嫌そうにアンリが答える。確か彼女の専門は水魔法だったはずだが、何ができるかまでは知らない。受けている依頼の傾向からすると、戦闘特化といったところだろうか。
「専門外でもやるだけやってくれ。ダメもとでもなるべく多くの情報を持ち帰るのが仕事だ。アンリが調べても何もわからなかったなら、それ自体も価値ある情報になるからな。」
「まぁ、アタシも報酬分の仕事はしますわ。」
「あぁ、それでいい。」
アンリとの話し終えると、ゲンさんはメンバーを見渡し全員に問いかける。
「何か質問のあるやつはいるか?聞きたいことがあったら今のうちに発言しろ。」
「一ついいッスか?」
小さく挙手しながら俺の相棒のロレンツが発言した。
「なんだ、言ってみろ。」
「ウッス。居住区らしきところにモンスターがいないみたいッスけど、別のダンジョンのモンスターがダンジョンを乗っ取った可能性とか無いッスかね?」
良い質問だ。ダンジョンのモンスターは、人間の集落だけではなく、余所のダンジョンにも襲撃をしかけることがあ
る。『共食い』するだけなら大いに結構なのだが、ダンジョン同士の争いの場合、勝った方のダンジョンが劇的に強くなってしまうことが多いとの報告がある。もし別のダンジョンに既に制圧されているとしたら、中にいるモンスターは勝った側、つまり強敵が居座っている可能性が高い。
「その可能性は低い。遠目に見てもダンジョンの周辺に争った跡はないだろ。ピーター、中はどうだった?」
「壁や建物に傷はなく、地面はきれいだった。争った形跡はない。俺もゲンと同じ意見だ。」
「だそうだ。他になにかあるか?レント、なにか言いたそうな顔をしているな。」




