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結論から言うと、ステラが捕まえた『大物』とは人間だった。現在、会議室代わりに使っている家の中で、僕のテーブルを挟んだ正面に彼が座っている。僕の後ろにノワールが立ち、ステラは彼の斜め後ろに控え、彼が逃げ出さないように監視している。
ステラによると、彼の名前はウィルというらしい。見た目は20代前後の男性。短く切りそろえられた赤い髪に、吊り上がった細い目が特徴的だ。服装は、厚手の布でできた長袖の丈夫そうな服に、緑色のマント。さらに使い込まれたブーツを履いている。冒険者というには、いささか装備が貧弱に思えるが、駆け出し冒険者の装備はこんなものなのかもしれないな。装備全体が泥や土で汚れているが、ステラに捕まった際についたのだろう。
「ステラさん、まず何があったのか教えて下さい。」
黙ってみていても埒があかないので、彼の後ろに立っているステラに捕まえた際の状況を聞く。
「ゴブリンが木を切っている時に視線を感じてな。探ってみたらコソコソこっちを観察しているソイツがいたんだ。切ろうかと思ったんだが、自衛以外で人間を切ることは禁止されているからな。とりあえず捕まえてきたんだ。」
鼻息荒く、ドヤ顔で説明するステラ。見逃さなかったことを褒めればいいのか、捕まえるなどと言う非友好的な行為を咎めればいいのか。
「そうですか。それで、君、ウィルさんでしたっけ?森で何をしていたのかな。教えてもらえますか。」
話しかけられてビクッと反応した彼と目が合う。両手は彼の持っていたロープで縛られ、傍らには分を捕まえたステラが立っている。僕が殺せと言えば、彼女の持つ剣によっていつでも切り殺されてしまう、端的に言って絶望的な状況だ。目は怯え、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「や、薬草とキノコを取りに来たんだ。それだけだ! 頼む、解放してくれ!」
「うるさいぞ。聞かれたことだけ答えろ。」
ステラが後ろから彼の頭に拳骨を落とす。結構痛そうだな、今の拳骨。
「ノワールさん。彼の持ち物は?」
「所持していた皮の袋からは、ロープと食べかけの保存食が入っていました。また、武器として短刀を所持していたようです。」
「それだけですか。」
「ええ、他の持ち物については、彼を殺さないとわかりませんね。」
すました顔でノワールが『殺す』と言うと、目の前の青年がまたビクリと震えた。殺さないとわからないというのは、彼がどんなカードを持っているかわからないということだ。
他人が持っているカードは見た目ではわからない。特殊な魔法や魔道具で確認できるらしいが、生憎この場にはどちらもない。大事なモノや武器なんかはかさばる為カード化して持って置き、いざと言う時に取り出して使うことが多い。というか、腰にぶら下げた剣を抜くより早いのでカード化しない方が珍しいのだ。
そう考えると捕虜として連れてきたことは、結構リスクが高い行為になるな。まぁ、両手を縛られている状態じゃあ、碌に反抗もできないだろうが。どちらにしろ決断は早い方がいいな。
「ウィルさん、いいですか。解放してもいいですが、いくつか条件があります。」




