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疲れた。しんどい。眠い。早く家に帰りたい。
今日は日曜日なのだが、俺は会社にいた。
特に珍しいことではない。入社以来8年間、休日出勤のない月はほとんどなかった。
俗に言うブラック企業なのだろう。月の残業時間は約80~100時間にもなるが、給料に反映されることはない。
上司は厳しいノルマをこなす為に殺気立っており、常に怒号が飛び交う。部下達は上司からの無理難題をこなすため、心と体をすり減らす。耐えられなくなった奴から消えていく。
そんな会社に勤めてそろそろ8年立つが、そろそら限界かもしれない。
適当なところで仕事を切り上げ帰宅する。家に帰っても大してやることもないのだが。
家に帰ると、シャワーを浴び、少しすっきりしたところで料理をはじめる。といってもパスタを茹で、100均で買い込んだパスタソースをかけるだけなのだが。学生時代に一人暮らしをしていた影響で、なんとなく外食が贅沢に感じている。そのため自炊が習慣となった。
凝った料理は作らないが、簡単な炒めものに米とみそ汁を作る程度のことはできる。趣味とは言えないが数少ない楽しみだ。
そろそろパスタが茹であがる。皿にパスタを盛り付け、和風たらこパスタ味のソースを和えて出来上がりだ。テレビを見ながら食べるとしよう。
夕飯を食べ終わり腹は満たされた。特にすることもないので後は眠るだけだ。敷きっぱなしの布団に潜り込むと、すぐに眠くなり、俺はすぐに意識を失った。
最初はやけにはっきりした夢だと思った。視界がぼんやりとはしているが、意識がはっきりしている。
周囲は真っ白で何もなく、空間がどこまで続いているかもわからない。ただ一つ、前方に直径30㎝程の黒い球が浮いているようだ。
「あなたの名前を教えてください。」
「……。坂本英治です。あなたは誰ですか?」
話しかけてきたのは、黒い球だろう。頭に直接響いてくるような不思議な感覚だ。夢だからか?
「私は神です。あなたを救いに来ました。今の生活から抜け出したくはないですか?」
「は?」
現実逃避のし過ぎで、ついに頭がおかしくなったのだろうか。
「そろそろ抜け出したいですけど、転職とかしたほうがいいんですかねぇ…。」
「あなたには新天地で経営者になってもらう準備があります。」
「ははは…。経営者なんてやったことないし、そんな責任の大きいこと無理ですよ…。」
人に使われるのが嫌という深層心理なのか?黒い球は俺を経営者にしてくれると言う。
「優秀な秘書をつけますので、経験の有無は気にしなくても構いませんよ。あなたが仕事をやりやすいように他の環境も整えます。少なくとも今の生活よりはマシな生活ができるはずです。引き受けてくれませんか。」
「それは…。今の生活から抜け出せるならば、是非そうしたいですね。」
自嘲気味に笑いながら答える。
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願い致します。」
そう返事を返すと、黒い球は消えた。
妙な夢を見ているな。本当にそうなればいいのに。そう思う僕の目の前に、ポップな事態の文字が浮かび上がる。
『目指せ魔王!0から始めるダンジョン経営!』
なんだこれ?そう思いつつも意識が遠のくのを感じる…。
目覚ましの音で目を覚まし、20分で身支度を整えて家をでる。ドアを開けたら、そこは洞窟の中だった。
洞窟だと分かったのは、10mほど先の洞窟の出口と思われる場所から、外の光が差し込んでいたからだ。3秒フリーズして家の中に戻った。
今日は会社休んでもいいよな。入社以来、初めての有給取得だ。何が起きているのかわからないが、記念すべき日だ。
混乱したまま部屋に戻り、テレビをつける。普通に映るな。いつもの朝のニュース番組だ。もう一度玄関まで行き外を見るが、先ほどと変わらない。意識もはっきりしている。夢ではない。
寝ている間に何が起きたんだ?地震が起きたとか、地盤が沈下したとか、土砂崩れとか原因を考えるが、そういったニュースは報じられていない。なぜだ?
いや、そもそもなにが起きれば玄関の外が洞窟になるのだ。ここは6階建てのアパートの3階だ。上下の階はどうなっているんだ?
とりあえず誰かと連絡を取ろうと思い、スマホを取り出して電話帳を開こうすると、スマホの画面に見慣れないアイコンがある。そのアイコンには、昨日夢で見たのと同じポップな自体で、こう書いてあった。
『目指せ魔王!0から始めるダンジョン経営!』と。