7 連行
神奈木輝一は、腕を引っ張られていた。
生徒会室へと向かう途上での事であった。
「ちょ、ちょっと、鶴舞さん、何ですか」
「いいから、こちらへ来ていただけますか」
「は、はぁ」
生徒会副会長の鶴舞穂之香に腕を引かれ、廊下を歩いて――と言うより、連行されていく。
人気の少ない方、少ない方――と歩いてはいるが、少なからず女生徒に目撃される。
輝一と副会長の穂之香という珍しい組み合わせに生徒達は驚き、そして何事かと興味を引かれるのであった。
「解りましたから、取り敢えず手を離してください」
「あら。気がつきませんでしたわ」
穂之香は、くすくすと笑いつつ――腕を自由にする気は無いらしい。
無理に抵抗して変に気まずくなっても困るし、仕方なしにされるがままになることとした。
しばし校内引き回しの刑にあっていたわけだが、人気の無い一画にある空き教室へと連れ込まれる。
さらし者となっていた最中、恥ずかしい想いをしつつも何事かと考える時間だけはあった。
これは恐らく沙耶佳には聞かれたくない内容――それだけ特殊な話だと言うことは想像に難くない。
では、何なのか。
そこが解らない。
――まさかとは思うが、告白――なんてことは――
「やっと来たわね」
「――待ちくたびれた」
そこには、生徒会の残り――と言うと失礼な話だが、書記の三俣美鈴と会計の九穂芽久美が待ち構えていた。
これで告白の線は無くなった。
輝一の早とちりというか、暴走からの冷や水――落胆と自嘲、思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。
「何、薄ら笑い浮かべてんのよ」
心の中での突っ込みのつもりが、どうやら口角がつり上がっていたらしい。
冷静に省みれば――いや、どう考えてもキモいヤツに見えたことだろう。
「あぁ、いや。――のっけからの上から目線っぷりに思わず――な」
「誰が上から目線なのよ」
「――見上げてるのに上から目線」
「ちょっと、メグッ。そういうの要らないから」
「――下からの上から目線。くく」
芽久美は、自分の発言がツボに入ったのか、皆から顔を逸らしつつ肩をふるわせる。
その様を見て、美鈴が顔を真っ赤にしながら面白くないと否定していた。
実に微笑ましい生徒会役員のヒトコマではあるが――
「それで、どういった話でしょう」
「姫のことよ」
輝一は、話が進みそうに無いと判断し、先を促した。
それは渡りに船だとばかりに美鈴が乗っかってきた。
「ここ数日、様子がおかしいものッ」
「様子が――」
「そうね。ここのところ、沙耶佳に元気が無いわ。
沙耶佳なりに、虚勢を張って居るみたいだけど――」
「私たちの目は誤魔化せないわッ」
横では、芽久美も同意とばかりに頷いている。
理由は解った。
そこで輝一に聞いてきたのは、ある意味、正解と言える。
輝一は、理由に心当たりがあり、解決というゴールも見えている。
――もっとも、ゴールへの道程は見えていないのだが。
そして、どう説明するべきか――そもそも説明した物かと言うことも見えてはいなかった。
「それでッ。何か知っているのッ?」
「ぇ。あ、ああ。いや」
「ちょっと、どっちなのよ」
輝一は、追い詰められていた。
霊のことを話すかどうか――
ここで、輝一は勘違いをしていた。
そもそもの前提が間違っているので仕方の無い事ではあるが――
沙耶佳の不調は、自らの招いたことであり、霊障では無いのだ。
「そう言えば――」
「何ッ?」
「生徒会室の外で不審な物を見なかったかと聞かれたな」
「不審なモノ?」
輝一は、真相をぼかしつつ、情報収集を試みることにした。
霊障の件で、手掛かりが少なすぎてお手上げに近かったのだ。
何かヒントでも得られれば――と言う期待を込めての発言だった。
「何か、物音が聞こえたらしい」
「沙耶佳にしては、曖昧な物言いね」
「ぅ。ま、まぁ、音だけだからね」
「――深刻そうなのが妙」
「どんな物音なのよッ」
「ぇ。えっと――何だっけかなぁ」
「もうッ。役に立たないわね」
輝一は、自分が悪手を選択してしまったと認識する。
美鈴はともかく、穂之香、芽久美は訝しんでいる。
「ああ、そうそう。何か足音のようだと言っていたよ」
「足音ぉ?」
美鈴が、胡乱な目付きで輝一を見上げてくる。
穂之香は、あごに手をやり、何事かを考え込んでいた。
「――足音ですか。それくらいなら私たちに相談してくれても」
芽久美のその呟きに、どきりとし、変な汗が出てくるのを感じた。
「そうね。その程度なら相談してくれても良さそうなものだわ」
「これなら最初から姫に聞いた方が早かったわッ」
「そ、そうだよ。なんでそもそも俺に聞こうと思ったんだよ」
「――最近、姫が嬉しそう」
「え?」
「あら。気がついてなかったのかしら?」
「え?」
「あんたと話すとき、すっごい嬉しそうなのよッ」
「嬉しそう――」
「だから、あんたなら、何か相談されてるんじゃないかって」
嬉しそうかはともかく、実際、相談はされている。
なんせ、相手は霊障だ。
自称とはいえ、専門家に相談するのがスジというモノだ。
しかし、嬉しそうと言うのが結びつかなかった。
「まぁ、いいわ。その程度しか相談されてなかったってのは想定外だけど。安心した」
「安心?」
「そうよ。あんたがその程度だってことにね」
「その程度――ね」
輝一は、苦笑を浮かべるしか無かった。
全てを話したわけでは無いので、こういう反応になるのも当然と言えば当然である。
「取り敢えず、心配の種は解ったのだから、私たちも気に掛けておきましょう」
ぽんと手を叩きつつ、穂之香が締めくくる。
「――こっそりでないと、会長は気にする」
「そ、そうよね。私たちに心配されてるなんて知ったら、姫が逆に心配しちゃうわ」
「――ただ、美鈴は不安」
「ちょっと、どういうことよッ」
「――そういうの不器用だから」
「な、何言ってるのよッ」
美鈴と芽久美のいつものやり取りが始まった。
どちらかというと、芽久美が美鈴で遊んでいるだけのようにも見えるが――
いつもの日常へ戻る――というサインにも見えた。
「な、何か?」
「い~え。そうですね。何かあったら、相談してくださいね」
穂之香がじ~っと輝一を見つめながら、そんなことを言う。
どういう意図があっての発言なのか――いまいち計り知れない部分があるが、心配してくれていることに違いは無さそうだった。
「はぁ。ありがとうございます」
なんとも曖昧な返事でお茶を濁すのだった。
Twitter @nekomihonpo




