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霊拝堂忌憚  作者: 猫美
第四話
28/32

7 連行

 神奈木輝一(かんなぎこういち)は、腕を引っ張られていた。

生徒会室へと向かう途上での事であった。


「ちょ、ちょっと、鶴舞さん、何ですか」

「いいから、こちらへ来ていただけますか」

「は、はぁ」


 生徒会副会長の鶴舞穂之香(つるまいほのか)に腕を引かれ、廊下を歩いて――と言うより、連行されていく。

人気の少ない方、少ない方――と歩いてはいるが、少なからず女生徒に目撃される。

輝一と副会長の穂之香という珍しい組み合わせに生徒達は驚き、そして何事かと興味を引かれるのであった。


「解りましたから、取り敢えず手を離してください」

「あら。気がつきませんでしたわ」


 穂之香は、くすくすと笑いつつ――腕を自由にする気は無いらしい。

無理に抵抗して変に気まずくなっても困るし、仕方なしにされるがままになることとした。

しばし校内引き回しの刑にあっていたわけだが、人気の無い一画にある空き教室へと連れ込まれる。

さらし者となっていた最中、恥ずかしい想いをしつつも何事かと考える時間だけはあった。

これは恐らく沙耶佳には聞かれたくない内容――それだけ特殊な話だと言うことは想像に難くない。

では、何なのか。

そこが解らない。

――まさかとは思うが、告白――なんてことは――


「やっと来たわね」

「――待ちくたびれた」


 そこには、生徒会の残り――と言うと失礼な話だが、書記の三俣美鈴(みつまたみすず)と会計の九穂芽久美(くぼめぐみ)が待ち構えていた。

これで告白の線は無くなった。

輝一の早とちりというか、暴走からの冷や水――落胆と自嘲、思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。


「何、薄ら笑い浮かべてんのよ」


 心の中(セルフ)での突っ込みのつもりが、どうやら口角がつり上がっていたらしい。

冷静に(かえり)みれば――いや、どう考えてもキモいヤツに見えたことだろう。


「あぁ、いや。――のっけからの上から目線っぷりに思わず――な」

「誰が上から目線なのよ」

「――見上げてるのに上から目線」

「ちょっと、メグッ。そういうの要らないから」

「――下からの上から目線。くく」


 芽久美は、自分の発言がツボに入ったのか、皆から顔を逸らしつつ肩をふるわせる。

その様を見て、美鈴が顔を真っ赤にしながら面白くないと否定していた。

実に微笑ましい生徒会役員のヒトコマではあるが――


「それで、どういった話でしょう」

「姫のことよ」


 輝一は、話が進みそうに無いと判断し、先を促した。

それは渡りに船だとばかりに美鈴が乗っかってきた。


「ここ数日、様子がおかしいものッ」

「様子が――」

「そうね。ここのところ、沙耶佳に元気が無いわ。

 沙耶佳なりに、虚勢を張って居るみたいだけど――」

「私たちの目は誤魔化せないわッ」


 横では、芽久美も同意とばかりに頷いている。

理由は解った。

そこで輝一に聞いてきたのは、ある意味、正解と言える。

輝一は、理由に心当たりがあり、解決というゴールも見えている。

――もっとも、ゴールへの道程は見えていないのだが。

そして、どう説明するべきか――そもそも説明した物かと言うことも見えてはいなかった。


「それでッ。何か知っているのッ?」

「ぇ。あ、ああ。いや」

「ちょっと、どっちなのよ」


 輝一は、追い詰められていた。

霊のことを話すかどうか――


 ここで、輝一は勘違いをしていた。

そもそもの前提が間違っているので仕方の無い事ではあるが――

沙耶佳の不調は、自らの招いたことであり、霊障では無いのだ。


「そう言えば――」

「何ッ?」

「生徒会室の外で不審な物を見なかったかと聞かれたな」

「不審なモノ?」


 輝一は、真相をぼかしつつ、情報収集を試みることにした。

霊障の件で、手掛かりが少なすぎてお手上げに近かったのだ。

何かヒントでも得られれば――と言う期待を込めての発言だった。


「何か、物音が聞こえたらしい」

「沙耶佳にしては、曖昧な物言いね」

「ぅ。ま、まぁ、音だけだからね」

「――深刻そうなのが妙」

「どんな物音なのよッ」

「ぇ。えっと――何だっけかなぁ」

「もうッ。役に立たないわね」


 輝一は、自分が悪手を選択してしまったと認識する。

美鈴はともかく、穂之香、芽久美は(いぶか)しんでいる。


「ああ、そうそう。何か足音のようだと言っていたよ」

「足音ぉ?」


 美鈴が、胡乱(うろん)な目付きで輝一を見上げてくる。

穂之香は、あごに手をやり、何事かを考え込んでいた。


「――足音ですか。それくらいなら私たちに相談してくれても」


 芽久美のその呟きに、どきりとし、変な汗が出てくるのを感じた。


「そうね。その程度なら相談してくれても良さそうなものだわ」

「これなら最初から姫に聞いた方が早かったわッ」

「そ、そうだよ。なんでそもそも俺に聞こうと思ったんだよ」

「――最近、姫が嬉しそう」

「え?」

「あら。気がついてなかったのかしら?」

「え?」

「あんたと話すとき、すっごい嬉しそうなのよッ」

「嬉しそう――」

「だから、あんたなら、何か相談されてるんじゃないかって」


 嬉しそうかはともかく、実際、相談はされている。

なんせ、相手は霊障だ。

自称とはいえ、専門家に相談するのがスジというモノだ。

しかし、嬉しそうと言うのが結びつかなかった。


「まぁ、いいわ。その程度しか相談されてなかったってのは想定外だけど。安心した」

「安心?」

「そうよ。あんたがその程度だってことにね」

「その程度――ね」


 輝一は、苦笑を浮かべるしか無かった。

全てを話したわけでは無いので、こういう反応になるのも当然と言えば当然である。


「取り敢えず、心配の種は解ったのだから、私たちも気に掛けておきましょう」


 ぽんと手を叩きつつ、穂之香が締めくくる。


「――こっそりでないと、会長は気にする」

「そ、そうよね。私たちに心配されてるなんて知ったら、姫が逆に心配しちゃうわ」

「――ただ、美鈴は不安」

「ちょっと、どういうことよッ」

「――そういうの不器用だから」

「な、何言ってるのよッ」


 美鈴と芽久美のいつものやり取りが始まった。

どちらかというと、芽久美が美鈴で遊んでいるだけのようにも見えるが――

いつもの日常へ戻る――というサインにも見えた。


「な、何か?」

「い~え。そうですね。何かあったら、相談してくださいね」


 穂之香がじ~っと輝一を見つめながら、そんなことを言う。

どういう意図があっての発言なのか――いまいち計り知れない部分があるが、心配してくれていることに違いは無さそうだった。


「はぁ。ありがとうございます」


 なんとも曖昧な返事でお茶を濁すのだった。


Twitter @nekomihonpo


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