5 再従兄妹
神奈木輝一は、月崎沙耶佳と一緒に校内を歩いていた。
放課後に入ってから、多少時間が経過したからだろう。
すれ違う生徒が激減していた。
残っているのは部活動を行っている生徒か、集まって談笑している生徒だった。
「莉奈――神房が、何の部活に入っているかとかって解りますかねぇ」
「神房さんですか――」
輝一は、再従兄妹にあたる莉奈を探している。
この学院で再会するとは思っていなかったこともあり、その詳しい連絡先を知らなかった。
輝一としては、生徒会の力で何らかの書類なりを見ることが出来れば――程度に思っての発言だった。
「神房さんなら水泳部ですね」
「え? 知ってるんですか」
「神房さんは、その、目立つ人ですから」
「えっと――なんか身内として申し訳ありません」
「あぁ、違うんです。夏の新人戦で大活躍だったんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。全国への切符は逃してしまいましたが、僅差だったと聞いています」
沙耶佳が、どこか嬉しそうに莉奈の活躍を報告してくる。
身内の活躍を、第三者経由で聞くというのは、嬉しくもあり、妙に恥ずかしくもあった。
「まだ暑いとは言え、水泳ですか」
「全天候型のプールがあるんです。古い学院の数少ない自慢です」
確かに古い学院ではあったが、数少ない自慢と言うことは無い。
思わずそんな突っ込みをしたくなってしまうが、そんなことを気軽に出来るほど親しくなったというわけでも無い。
そんな一瞬の葛藤の結果が、微妙な苦笑に現れていた。
「と、なると僕が行くのはマズいですかね」
「何かまずい事でも――あッ」
沙耶佳は、当然のごとく一緒に行くモノだと思っていたのだが、なるほど――確かに輝一が言うようにマズいかも知れないと思い至った。
すみませんと謝りつつ、プール近くの教室で待つように言い、沙耶佳は小走りにプールへと向かう。
「あれ? いばら姫じゃん」
「ぁ、ほんと。珍しいね」
プールでは、水泳部員10数名が部活動の真っ最中だった。
沙耶佳が入ってきたことに気がついた幾人かが話題にする。
きょろきょろと見回した程度では莉奈を見付けることは出来なかった。
仕方なしに、近くにいる部員へと話しかける。
「莉奈? ちょっと待ってね。莉奈ーッ。姫が呼んでるよーッ」
その声に応じ、プールから、ざばぁと音をさせつつ莉奈が上がってくる。
競泳水着から水を滴らせつつ、莉奈がやってきた。
素人の沙耶佳の目にも、水着からすらりと伸びた手脚が一流選手の貫禄を感じさせた。
「あれ? 姫――月崎会長? どうしたんです?」
「ちょっと時間を頂いてもいいかしら?」
「えっと、構わないですけど」
「じゃぁ、ちょっと来て貰えるかしら」
「はい。部長~、ちょっとハズしま~す」
「ん。いってらっしゃ~い」
「じゃぁ、行きましょうか」
莉奈は、プールサイドに置いておいたタオルで髪の毛を押さえつつ、沙耶佳に声を掛ける。
沙耶佳は、その格好で構わないのかと声を掛けたが、それに対する返事は、この呼び出しは長くなるかという質問だった。
う~んと少し考えた後、それほど長くならないと思う旨を伝えると、莉奈は、じゃぁ、構わないと返事をした。
沙耶佳としても、そういうものか――程度の認識で、水着のままの莉奈を連れ歩く。
プールの外にまで連れ出され、莉奈としては、どこまで連れて行かれるのかと心配し始めた矢先、この部屋ですと近場の教室へ案内された。
「神奈木さん、お待たせしました」
「え?」
莉奈から驚きの声が上がる。
その声に反応し、輝一が上げた視線の先には、タオルを羽織ったように肩に掛けたままの莉奈がいた。
場には不釣り合いではあるが、水泳部だと把握するには、何ら疑念の余地が無い――競泳水着姿だった。
「なんで、いちにぃがッ。って、見るなーッ!」
「わ、悪い」
水の抵抗は少なそうだな――などと失礼なことを考えていたら、莉奈に怒られ――慌てて視線を逸らす。
莉奈は、顔を真っ赤にしながら、タオルで自分の身体を必死に隠した。
「ごめんなさい」
「ぁ、ぃぇ。会長は悪くないです。いちにぃが色々と全て悪いですから」
「まて。こっちが悪いってのか」
「そうだよ。いちにぃが悪い。どうせいちにぃが呼んだんでしょ」
「――まぁ、そうだが」
「ほら」
2人のやり取りに、最初は呆気に取られていた沙耶佳だったが、仕舞いにはクスクスと笑いが漏れる。
沙耶佳からの笑い声を聞いて、2人は顔を見合わせた後、どこかばつが悪くなり、顔を赤くしながら黙り込んでしまった。
莉奈は、大きくため息を吐くと、教室の椅子を引いて輝一に向かい合うようにして座る。
「それで――何の用なの?」
莉奈が、話を聞いてくれる態度を示したことで、輝一も向かい合わせに座る。
それを見て、沙耶佳が――逡巡した後、どちらかと言えば輝一よりの位置に座り、一つの机を囲むような形になる。
「今、学院で霊障と思われる事件が起きてる」
なんて切り出すか色々考えてみたのだが、莉奈の性格を考えるとストレートに告げた方が良いように思われた。
莉奈は、一瞬、驚いたような表情を見せたが、真面目な表情を崩さない輝一、沙耶佳を見て何かを感じ取ったようだった。
「で、私に協力して欲しい――って?」
「ああ。僕じゃ霊は見えないからな」
「私だって普段から見えてるわけじゃ無いよ」
「それでもこっちよりは、霊感あるじゃないか」
沙耶佳が、莉奈と輝一を興味津々と言った顔で見つめている――ことに莉奈は気がつき、どこかばつが悪そうに頭の後ろを掻く。
「じゃぁ、いちにぃが学院に来たのも、それ絡みってこと?」
「まぁな」
「はい。私がお願いをしました」
さすがにその答えに、莉奈は驚きを隠すことは出来なかった。
「えっと、月崎会長が霊を信じてるってのも驚きなんですけど、お願いしたからって、ウチにいちにぃが来るって――」
「はい。ちょっと説得は大変でしたけど、生徒会長ですし。がんばってみました」
「頑張ったからって、どうにかなると思えないんだけど――」
莉奈の突っ込みは、最後の方は尻すぼみになっていた。
色々と気になる点が多すぎて、何から考えたらいいのか――軽く混乱してしまう。
「それで、協力の方なんだけど――」
「ぇ? ぁあ、うん。いいよ。いちにぃの頼みだし。貸しひとつね」
「そうか。助かるよ」
「神房さん、ありがとうございます」
「ぅぁ、か、会長。いいんですよ。頭を上げてください」
頭を下げる沙耶佳に対し、思わず、椅子から腰を浮かせつつ莉奈が慌てたように言った。
「それに、お礼はいちにぃがしてくれますし」
「あまり高いのはダメだからな」
「大丈夫、大丈夫」
「あの、私からも――」
「ぁ、いえ。本当に大丈夫です。――莉奈が欲しがるのって、ウチの商品ですから」
「そうなんですよ。だから、本当に会長は気にしなくても平気です」
2人にそう言われては、そうですかと引き下がるしか無かった。
とは言え、お礼はお礼だ。
自分の方でも、何かお礼を考えておこうと密かに考える沙耶佳であった。
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