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霊拝堂忌憚  作者: 猫美
第三話
17/32

4 生徒会

 神奈木輝一(かんなぎこういち)は、月崎沙耶佳(つきざきさやか)と一緒に校内を歩いていた。

好奇の視線に晒されながら歩くと言うことが、これほど精神的な苦痛を伴うことだと、その日初めて知った。

生徒会長だからか、それとも沙耶佳という人柄のなせる業なのか、行き交う人々から挨拶されるし、また、沙耶佳からも声を掛ける。

親しみ、羨望、慈しみ――上級生下級生を問わず、にこやかに声を掛けようとして――

輝一を見て固まる事がほとんどだ。

何故ココに、この男が居るのか――と。

沙耶佳の方は、平然と――その視線に気がついていないのか、気にしていないのかは解らないが、輝一を案内する。


 コンコンコンッ――とノックの音が響く。

内から、はいと返事があり、沙耶佳が先導して扉を押す。

大抵の教室は引き戸になっているが、いくつかの特別室は開き戸となっている。

今、2人で訪れた教室は、そんな開き戸の教室だった。

扉に掛かった植物柄のプレートには生徒会室と書かれていた。


 そこは、一般教室の半分程度の広さを持った部屋であった。

薄っぺらではあるが、絨毯が引かれ、簡素な応接セットが置かれている。

その奥には間仕切りが置かれ、入口からは見えなかったが、執務用の机、椅子、棚が置かれていた。


「あら、沙耶佳、ごきげんよう」

「穂之香、ごきげんよう」

「あらあら。早速デート?」

「ち、違います。神奈木さん、こちら、鶴舞穂之香(つるまいほのか)です」

「鶴舞穂之香――副会長をしておりますわ」


 沙耶佳が穂之香を紹介する。

輝一は、それに会釈で応える。

紹介された鶴舞穂之香という生徒――多少ぽっちゃり気味で、のんびりとした雰囲気を醸し出していた。

――あくまでも気味というだけで、決して太っている訳では無い。


「穂之香、奥に居るからしばらくシャットアウトで」

「あらあら。お茶くらいはいいでしょう?」

「そうね。お願いするわ」


 そのまま、部屋の奥へと案内される。

そこにはドアがあり、隣の部屋へと続いていた。

資料置き場として利用されているらしく、奥の部屋は棚と書類と段ボールで溢れていた。

学習机を並べ、作業台としているようだった。

ガタタと椅子を動かし席に着く。


「お疲れ――ですよね」

「ええ、まぁ。慣れないことばかりで」

「ですよね。――ごめんなさい」

「いえいえ。月崎さんが謝ることでは――それに、貴重な経験とも言えますし」

「そう言っていただけると、少し気が楽になります」

「それで――」

「はい。例の件です」


 そう言うと、沙耶佳は、ノートを拡げる。

前に見せて貰った事件に関する情報が書かれたノートだ。


「それで、今後、どうしたらよいかと思いまして――」

「月崎さんのノートを見ると、階段での事件が多いようですね」

「そうです。そう思います」


 階段で足を掴まれた――とか、階段の上から突き落とされた――とか、階段での事件が多い。

沙耶佳の捜査から見て取れることと言えば、時間が遅いことが共通項だろうか。

そのため、衆人環視の中の事件――と言うわけで無く、目撃者がほとんど居ない。

居たとしても、事件発生そのものを見たのでは無く、事象の結果しか見ていない。

何があったのか――と言う点では、被害者の証言しか無い状態だった。


「地道に足で稼ぐしか無さそうですね」

「そうですか――」


 沙耶佳は、逡巡した後、輝一に提案をした。


「神奈木さんさえよければ――生徒会のお手伝いをお願いできませんか?」

「手伝いですか」

「はい。そういう立場になれば、校内を歩き回っていても生徒会の仕事だと言い張れます」

「なるほど」

「女子だらけの空間で、神奈木さんが自由に動くには、不都合が多いと思うんです。

 でも、生徒会の手伝いと言うことなら――」

「そうですね。それは、是非こちらからもお願いします」

「はい」


 沙耶佳は、少し嬉しそうに頷くのだった。

今度は逆に輝一が逡巡し――沙耶佳に切り出す。


「この件――莉奈――ぁ、神房(かずさ)に話してもいいですかね」

「神房さんにですか――」

「ええ。調査に協力して貰おうかと」

「あまり、無関係な人には知られたくないのですが――」

「もっともな話だとは思いますが、莉奈は、俺と違って霊感があるんですよ」

「霊感が?」

「ええ。一緒に連れ回せば、何か感じる事もあるかも知れない――なぁと」

「一緒にですか」


 沙耶佳がどこか不満そうな表情を浮かべる。

それを見た輝一は、極力知られたくないのだと受け取った。


「莉奈は――神房は、口が硬いから大丈夫ですよ」

「ぇ、ええ。そうですね。――神房さんにも話をしてみましょう」


 資料室を出ると、副会長である穂之香の他に、2人の生徒が書類整理をしていた。

沙耶佳の顔を見ると2人とも立ち上がり、挨拶をしてくる。

そして、後から続いて出てきた輝一を見て、ぴくりと固まった。

1人は、ショートカットで快活な印象を受ける――恐らく後輩と思われる女子。

もう1人は、眼鏡を掛けたクールビューティーと言った(おもむき)の女子だ。


「会長――そちらは」

「ちょうどよかったわ。紹介しますね」


 沙耶佳は、そう言いながら脇に避け、輝一を前へと案内する。


「皆さんも知っているかと思いますが、交換留学生の神奈木さんです」

「神奈木輝一です。よろしく」

「神奈木さんには、生徒会業務を手伝って貰うことにしました。貴重な男手ですし」

「えーッ。男子ですよ。男子なんですよ? 男子がいばら姫――じゃなかった。会長と一緒にとか――」

「こらッ、美鈴。神奈木さんに失礼よ」


 ショートカットの女子――美鈴に指差しをされつつ、目の前で拒否される。

眼鏡っ娘の方は、そこまであからさまでは無いが、それでも同じ意見のようであった。


「貴重な男手――と言うのは神奈木さんには失礼かも知れませんが、

 女子だらけの当校にいらしたのです。

 有効活用――と言うのも酷い話ですが、手伝っていただくことにしました。

 見返りと言っては何ですが、彼にとっても悪い話ではありません。

 女子だらけの中では、何かと不便を感じる事も多いでしょう。

 それを率先して手助けしてこその生徒会だと思うのです」

「か、会長。さすがです。感動しました」


 沙耶佳の話を聞いて、一転、美鈴は感動のあまり、顔を真っ赤にしながら思いの丈を沙耶佳へと述べる。

一瞬の手のひら返し――あまりにも見事だったために輝一も若干、引き気味だ。


「――単純」

「え?」


 眼鏡っ娘の方が、ぽそりと呟き、その言葉が輝一の耳に届く。

クールビューティーを通り越し、毒舌に近いモノを感じ、思わず聞き返してしまったが、そちらは華麗にスルーされた。


「神奈木さん、紹介します」

「ぇ、ぁ、はい」

「こちら、三俣美鈴(みつまたみすず)さん。書記をお願いしています」


 沙耶佳の説得に丸め込まれたかと思いきや、輝一を見る目には厳しいモノが含まれたままだった。

睨み付けられながら挨拶をしてくる。


「会長がああ言ったから手伝うことは許してあげる」

「こらッ、美鈴」

「はぁ~い」

「もう。――神奈木さん、すみません」

「いえ。まぁ、仕方が無いと思いますし――」

「本当にごめんなさい。――それで、こちらが九穂芽久美(くぼめぐみ)さん。会計をお願いしています」

「九穂です」


 眼鏡っ娘――芽久美がこれと言った感情を感じさせないまま手を差し出してくるので、思わず、反射的に手を握る。

そのまま、よろしくと2度3度、握手のまま上下し、手が離れる。

自分のペースを崩すこと無く、書類へと戻っていった。

こちらに興味が無い――と言うことだろうか。


「じゃぁ、神奈木さん。行きましょうか」

「会長。どちらへ?」

「神奈木さんに、校内の案内をしてきます」

「何も会長、自らが行う必要も無いと思いますッ」

「いえ。いいのです。それじゃぁ、穂之香――後は頼みます」

「はいは~い。行ってらっしゃ~い」


 行ってきますと言うのも変な気がしたので、お邪魔しましたと一つ頭を下げて部屋を後にした。

歓迎、拒絶、無関心――仮初めとは言え、生徒会の手伝いをすることになったのだが、なんとも先行きに不安を感じずにはいられなかった。


Twitter @nekomihonpo


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