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霊拝堂忌憚  作者: 猫美
第三話
14/32

1 校長からの呼び出し

 その日、神奈木輝一(かんなぎこういち)は校長室に呼び出されていた。

昼休みに校内放送があり、至急、校長室へ来るようにと名指しで呼び出されたのだ。

周囲の友人達は驚き、そして、冷やかしてきた。

職員室、指導室という段階を踏むこと無く、いきなりの校長室だ。

よっぽどの大問題を起こしたのだろう。

そう思われるのも当然だった。

呼び出された側の輝一としては、首をかしげるばかりである。

品行方正――とまでは言わないが、目に付くような行動をした覚えは無い。

何はともあれ、呼び出されたからには――行かざるを得まい。

逃げたところで事態は悪化するだけだ。


「神奈木輝一くん、昼休みにわざわざすまないね」

「いえ。――それで、どういったご用件でしょうか?」


 すっかり頭頂部は禿げ上がっているが、周囲に髪は残っている。

さらりと伸ばしているため、生徒達からは、落ち武者と陰口をたたかれていたりもする校長である。

別段、口やかましいとか、鬱陶しいと言った話は聞こえてこない。

基本的には、好々爺であるのだが、その見た目が何とも残念で仕方の無い先生である。

とは言え、いくら好々爺だとしても、校長に呼び出されもすれば緊張もする。

輝一は、恐る恐る要件を聞く。


「県内の留学生制度は知っていますね」

「ええ」


 話の内容が、唐突というか、あまりにも自分と関係の無いところからのスタートだったので、どうにも間の抜けた返事をしてしまう。

留学生制度とは、県内の学校同士で1、2ヶ月程度、生徒をまさに留学させ、交流、親睦、相互理解を深めようという制度である。

お互いの学校の見栄、意地、格付けと言った目には見えないドロドロとした物にまみれた制度とも言える。

もっとも、そういう捉え方をするのは、自分達に自信が無い学校だけで、独り相撲な場合も多い。


「どういう訳か、園城(そのしろ)学院さんから、神奈木くんをご指名で話がありました」

「え?」


 話が繋がったことに、驚きを隠せなかった。


「そもそも、留学生で指名してくるとは――

 普通であれば、我が校から恥ずかしくない生徒を送り出すモノであって――」


 校長先生の独擅場であったが、輝一の耳には届いていなかった。

いや、届いてはいたのだが、どこか遠くの声のように聞こえた。

確かに、普通なら成績優秀者を送り出すだろう。

別段、輝一が落ちこぼれというわけでは無いが、光り輝く成績からは遠い。


「向こうさん曰く、既に神奈木くんは了承済だと言っていましたが?」


 その一言が、どこか遠くの出来事のように感じていた輝一の意識を呼び戻す。

園城学院から、輝一の所にそんな話が欠片ですらあった覚えは無いし、ましてや、了承した覚えなんかコレっぽっちも無かった

何かの間違いでは――と口に出そうにもなるが、学校間で生徒の名前を間違えるだろうか。

こう言っては何だが、間違えやすい名前という訳でも無い。


「普通なら、断るかどうかと尋ねるところですが、了承済との事なので必要な書類を用意しておきました。

 あとで、担任から受け取って提出しておきなさい」


 校長先生が、輝一をどこか疑うような眼差しで見つめる。

了承済だという話なのだが、輝一の反応がおかしい所為だった。


「何か質問でも?」

「ぃ、いえ。――まさかこんなにすぐだとは思わなかったモノで」


 咄嗟に嘘を吐いて誤魔化す。

辞して良いと言われたので、挨拶をして部屋を出る。

どういうことかと混乱していたのだが――

校長室から解放され、気分も落ち着いたのか――別にとって喰われるわけでもなし、たかが向こうの学校にしばらく通うだけじゃ無いか。

と割り切ることが出来た。

そう考えると、知らない学校に通えるという事でもあり、少しわくわくした。


「おう、神奈木。校長先生から書類を預かってるぞ」


 職員室に入り、担任へと話しかけると、そんな調子で書類を渡される。


「お前、園城に出向するんだって?」

「出向って――交換留学ですよ」

「わーってるよ。うまいことやりやがって」

「なんですか、うまいことって」

「ま、貴重な経験だ。楽しんでこい」

「――そうですね。楽しみです」


 その時は、もう本当に楽しみになっており、輝一が了承済という胡散臭い要因など、すっかり頭から抜け落ちているのだった。

しかも、翌週から開始とのことで、慌ただしく日々が過ぎる。

そんな慌ただしい日々に追いやられ、どういうことなのかと訝しむ暇もなかった。


Twitter @nekomihonpo


少し短いですが、切れ目の関係で今回はここまで。


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