私と彼女のちょっとしたお話
ぼちぼち休日を利用してどうにもまとまらないネタをどうにかしてみた。
好きなゲーム作品に転生して、なんて夢のような出来事だ。
本当に私の嫁のいる世界に来てしまったのだろうかなんて赤ん坊の時は考えもし違ったらどうしようなんて考えては泣いたのも懐かしい。
結果から言えば彼女とは親戚で私の二次元嫁である前に一人の人間であるのだと小さな彼女を見て思った。
家も少し離れた場所で行こうと思えば自転車でも十分に行ける距離だと考えた。昔の自分なら。
実は身体が貧弱で病気になりがちな私にはその距離は果てし無く遠く、当時幼い私は汗だくになって意識朦朧とし庭で遊んで居た彼女の小さな腕の中に倒れた。
それから風邪を引いて寝込んでしまい彼女の家にも迷惑をかけてしまいお見舞いに来てくれたおばさんとおじさんには出来る限り謝った。
彼女が私立の小学校に通うと聞いて私も頑張って受験してなんとか通う事が出来た。中学、高校と系列の私立校にエスカーター式であがった。
「望奈希ちゃん、大好き」
私は部活動もしていないので授業が終わるとすぐに寮へと帰る。
上清恫女学園。
全寮制の女子校で、私と私の愛してやまない宮榊望奈希ちゃんが通う場所だ。
望奈希ちゃんは小柄で子供みたいな私とは違って出来る女と言う様な凛とした雰囲気を持つ子だ。
成績も優秀で転生して二度目の高校生な私を脅かす存在だ。ほんと私の嫁は凄い。
望奈希ちゃんは茶道部に所属していて来年は生徒会長を目指すなんて言ってた。彼女の母方は大層なお金持ちの家らしく三女である彼女にも求められる事は大きいのだと私の両親が言ってた。
私はそんな彼女のベッドに身を沈めて発情していた。
これは日課だ。
よく彼女に強請って彼女のベッドで一緒に寝るのだが、それはそれこれはこれで彼女がいない状況でこうして彼女の布団で横になり彼女の香りに包まれて彼女に抱かれていると妄想する。
ゲームでは到底味わえなかったこの至福に私は感動すら覚える。
この世界の元となったゲーム『光を導き祝福を2』は前作と同じ舞台を用いたゲームで望奈希ちゃんの母方の親戚に主人公とヒロインがいる。
今は確か三年生だったか。名前を聞く機会があったりして前作を知るプレーヤーにはちょっとした喜びを与えてくれた。
ちなみにそこに私、早瀬晶子なる登場人物は存在しない。
このゲームは舞台からしてお分かりだと思うが百合ゲーに分類される。
『光を導き祝福を2』の主人公は佐渡汐梨と言うクォーターハーフで珍しい銀髪をしている。
それを言ったら私の緑がかって見える髪も相当ではあるが。ゲームの世界で髪の毛の色が云々言ってもしゃーないだろう。
ちなみに望奈希ちゃんは黒髪のロングでよく私と髪の毛の手入れをし合う!
長い髪の毛は寝る時も大変そうだなぁなんて思うけれど彼女の長髪は私が原因でもあるからちゃんと面倒見るよ!!
あー、望奈希ちゃんに包まれて幸せで死んじゃう。
小さい頃は本当に会う度に「好き」って言ってたけど、段々望奈希ちゃんが慣れて来たのか反応がおざなりになったあたりで言うのを控えた。
彼女にとって私の好きが軽く思われるのが嫌だった。
私は彼女が大好きだ。愛している。
その時、ガチャっと部屋の戸が開く音がした。
「晶子、ただいまー」
私は下腹部に伸びかけた指を止めて、ビクリと震えてしまった。
動いてしまったら仕方がないので寝てたと言うフリにしよう!
「……ぁ、望奈希たんおかえりなさーい」
彼女の布団からもぞもぞと動き上半身を起き上げる。
「あれ?まだ四時半前…?今日ははやかったんだね」
いつもなら最低でもあと一時間は帰ってこないのでいつもならそれで煩悩を一発処理するのだが、今日はどうにもそれも叶わないようだ。
「うん。ほら、期末テスト来週だから部活動は今日からテスト終了まで県大会ある運動部とか吹奏楽以外はお休みだよ」
「そっかー、これからしばらくは望奈希ちゃんと一緒に帰れるんだ!」
私がそう喜んで幸せに微笑むと望奈希ちゃんも微笑んでくれた。
ほんと結婚して嫁になって欲しい。
「今回こそ晶子に勝ってみせるから」
中学一年の学期末までは引き分けだったこの勝負もそれ以降は私の全勝である。
前世では卓球と勉強に趣味の会う友人とささやかながらも遊ぶ程度でほぼ卓球と勉強に費やした人生であった私の知識は腐っていない。
基本的な歴史等の知識も近代までは変わりないので問題なく発揮できる。
問題なのはこの世界に跋扈するゲームのオリジナルの財団様や海外の貴族と言うかお金持ち様だ。
どちらもここ百年ちょいで成長して来た家だが、与えて来た歴史影響力が半端ないせいで割と近代社会史は一から覚え直しだ。
しかしそれを置いても他科目は復習を軽くすればいい程度だ。望奈希ちゃんはよく理不尽だと言うが許して欲しいと思ってる。
「望奈希ちゃんが勉強するなら私も一緒にするよ?」
「晶子は余裕だねぇ相変わらず」
何か含みがあるように彼女は笑う。
「ん?」
私が首を傾げてみると望奈希ちゃんはベッドに腰掛けるので私はその隣に行き甘えようと体重が余りかからないように寄りかかる。
「ほら、私のクラスに来た転校生いたじゃない?」
「佐渡さん、だっけ?」
「そう、あの子は割とダークホースだと思うんだよね」
確かに、ゲーム内での佐渡汐梨は成績優秀運動神経抜群とよくできた主人公と言ったところだった。
前作の主人公が努力して上の下だったのを思い出すとちょっと理不尽な存在だと思ったのも懐かしい。
「……ふーん、望奈希ちゃんは佐渡さんの応援をするんだ……」
ゲームでは私は登場しない。佐渡汐梨と宮榊望奈希のシナリオは存在する。
私と望奈希ちゃんのシナリオなんてものは存在していない。
そう考えると悲しくて悔しい気持ちになった。
私はテストを全て白紙で提出した。
◆
テスト終わって翌週月曜日の放課後、生徒指導室に呼び出された私は終始無言を貫き心折れたのは先生の方だった。
両親に連絡するから、と言って私は解放された。
生徒指導室から出ると今回の学年一位がそこに仏頂面で待っていた。
なんだか気まずい。
今更ながらちゃんとやっておけば良かったなんて思った。
ここ一週間余りちゃんとした会話もしていない。
私は彼女の視線から目を逸らしてスカートを握り下を向いてしまった。
でも、それでも彼女には謝りたくなかった。
私には望奈希ちゃんに愛してもらえないのだろうか?何故、佐渡汐梨なんて主人公が存在してしまうのか。
そう考えると彼女が妬ましい。
私が主人公になって望奈希ちゃんを攻略したいのに。
私は望奈希ちゃんが好きて好きでたまらないのにどうして佐渡汐梨の方が彼女に近づけてしまうのだ。
私より期待される佐渡さんが妬ましい。私より佐渡さんを望奈希ちゃんが期待したのが悲しい。
そんな事でずっと拗ねてる私が子供っぽくて恥ずかしい。
でも、悔しい。
「晶子、どう…」
望奈希ちゃんが何かを言う前に私は無言で抱きついた。
百七十はある望奈希ちゃんは大きい。それに対して百五十しか背がない。
私と望奈希ちゃんの背丈が真逆なら私は彼女を押し倒したいとすら思う。けど、彼女に悲しんだり苦しんだりして欲しくはない。だから私はきっと妄想だけで実行には移せない。
だから、こうしてせめて抱きしめさせて欲しい。
そうすれば、私はなきそうになるのを我慢出来るから。
「晶子、帰ったらちゃんと話し合おう?」
私の背中を撫でながら望奈希ちゃんが優しくそう言ってくれた。
私は泣いてしまった。
泣きながら望奈希ちゃんの手を握りながら寮の部屋へと帰ってきた。
◆
一週間ほど前から晶子がどうにも不機嫌だった。
こんな晶子ははじめてで戸惑っていたら晶子が成績上位者の中にいなくて生徒指導室に呼び出されていた。
小さい時なんか無茶したりしてもいつも私を楽しませてくれたあの子がまるで小さな子供みたいに何も言ってくれない。
こんなんじゃ折角勝てても嬉しくない。
私は気がつくと部活には休みの連絡をして生徒指導室から晶子が出てくるのをじっと待った。
ほんとに何があったのだろうか?
事務室に用があった佐渡さんに何か誘われた気がしたけど、断った。
クラスメイトとの交流も大切だけれど今は晶子の事が気になった。
一時間ほど経った頃だろうか、晶子がようやく出てきた。
私を見るなり一瞬だけ嬉しそうな顔をしてすぐにバツが悪そうに顔を歪めて下を向いてしまった。
学年でも小さい方な彼女がそんな風にしていたら本当に小さく見えてしまう。
彼女は何も言おうとしない。
この一週間、聞こうとしても逃げる彼女に私も少し参ってしまった。
「晶子、どうし……」
どうして、と言おうとしたのだが言葉は晶子によって止められた。
泣きそうな顔をして苦しそうな顔をして晶子が私に抱きついて来た。
卑怯ね、晶子は。
そう思った。
そんな顔をされたら怒りたかったのに怒れなくなってしまう。
いつからか私はこの子に甘くなった。
この子がいつの間にか私に『好き』と言わなくなってからだった気がする。
晶子の言う言葉はくすぐったくて心地が良かった。だから、また言って欲しくてそれからは私が彼女の家によく遊びに行くようになった。
それではじめて知ったのだけれど彼女は当時身体がとても弱かった。
毎日風邪や病気という訳でもないように見えるのに何か薬を飲まないければならなかったのだと知った。今でこそ健康的な彼女だけれどそんな彼女が辛い顔一つせず私の家まで来て一緒に外で遊んだりしていたと知ってしまいどうしてか複雑な気持ちになった。
同じ学校で同じクラスになれた時は本当に嬉しくて彼女の家に泊まりに行ってしまった程だった。
私はこんな晶子を見たことがなくて割れ物でも扱うかのように優しく抱き返して言った。
「晶子、帰ったらちゃんと話し合おう?」
すると晶子が小さく抑えるように嗚咽を漏らして泣きはじめた。
どうしてか、彼女が悔しそうに泣いてる気がした。
「晶子、落ち着いた?」
部屋でもしばらく泣き続けた晶子は目を赤くしてこちらを見て頷いた。
先ほど、泣き声のままの謝罪を聞いてすっかりと晶子を笑顔にしたいと言う気持ちになった私は晶子が笑顔になれるよう微笑んでいる。
この一週間ですっかりと晶子のサラサラのツインテールの髪の毛が痛んでしまったように思える。
宝石のような晶子の可愛さが翳っていては私も元気が無くなってくる。
「私を……見て欲しいの」
晶子が泣いて赤くなっていた顔を更に赤くして私を久しぶりに真っ直ぐと見て言った。
「私、実は凄く嫉妬深くて…駄目だった。望奈希ちゃんが私以外の子を想うなんて我慢できなくて…」
私の腕の中で晶子が恥ずかしなりながらも真剣に私にそう言う。
「ごめんね。望奈希ちゃんが私の事を妹みたいに思ってる程度なのは分かるけど私は」
少しだけ晶子が戸惑うように目を泳がせてから視線は私へと帰って来た。
「望奈希ちゃんの事、好きだから」
久しぶりに見る幼い時のような素直な笑顔がそこにあった。
とても眩しくて私が好きな彼女がそこにいた。
だから気がついたら腕の中の彼女をそのまま押し倒していた。
「私も晶子の事が好きだよ。それと約束覚えてる?」
晶子は嬉しそうな顔を浮かべつつ約束について首を傾げた。
この一つの動作だけでも彼女は可愛らしい。
「晶子が勝負で負けたら一つのお願いを聞いてくれるって約束」
「……ああ、あったね。負ける予定はなかったから忘れてた」
可愛くない、なんて思いながらもこの子は勉強は本当に天才的に得意なのを知ってるから確かにそんなのは余裕から出た言葉だったのだろう。
「晶子にはいつも私に『好き』って言って欲しい……」
自分で言っておいてなんだけれど顔が熱くなるを感じた。
「うん、望奈希ちゃんの事は大好きだよ。愛してる」
その言葉を聞いて気がついたら彼女にキスをしていた。
啄ばむような唇と唇を軽く合わせるようなキスを。
◆
身体は心地よい脱力感に包まれていた。
余り記憶がハッキリとしていないのだが、ベッドを汚してしまい彼女にお風呂にも入れてもらったような気がする。私のベッドで望奈希ちゃんが私を後ろから抱きしめるようにして寝ている。パジャマの中に軽く入っている腕さえ心地よい。
私は指を絡めて望奈希ちゃんに届いた私の気持ちを確かめて眠りについた。
明日からどうしようなんて言うのは今の私には思慮外の事だった。