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ウロコなラクエン  作者: 吉川 優
7/41

「ボクも好きだからね」

最後にちらっと虫の描写がありますのでご注意ください。


 起きたのが夕暮れだったので、もうすぐ夕食になるらしい。


 部屋の中に差し込む光がだいぶ弱弱しくなってきたねぇとトアに言った途端、部屋の中がすぐに明るくなる。

 あの地下室で魔法陣が発光を終えたあとの明るさと同じくらいになった。


 私が驚いていると、耳を澄ますように目を閉じていたトアが言った。


「この時間になるとこの王城内は、自動的に明るくなるようになっているのです。

 日中よりは暗いですが、十分活動できるだけの光量はあるかと思いますよ」


 自動点灯消灯機能があるらしい光源は見当たらない。

 トアの説明では建物内部全体が光っているらしい。

 よく仕組みはわからないけれど、便利だな、と思っておく。


 そんなふうにしばらくトアとお茶会を楽しんでいると、ふいにトアが扉のほうを見た。


「サラ様。少し失礼しますね」


 もしかすると扉の前に誰か来ているのかもしれない。


 私はそう思って頷き、扉へ向かうトアの後ろ姿を見ながら軽く伸びをする。


 ルザリドの聴力の良さはもはや疑いようがない。

 私では物音すら聞こえなかったけれど、きっとトアには廊下から何か聞こえたんだろう。


 トアはそれを裏付けるように、扉を少し開けると廊下にいる誰かと小声で話を始めた。


 ルザリドなら、あの小声も普通に聞こえるんだろうなぁ。


 私は耳を澄ましても、彼女たちが何を話しているのか小さすぎてわからない。


 話している内容を知ることはあっさり諦めた。

 部屋の中をぼーっと見回していると、すぐに扉が閉まる音がする。


 見るとトアと一緒に、二人のルザリドが部屋の中に入ってきていた。


 トアの影に隠れてよく見えないけれど、その二人はスカートの中に、ゆったりとしたパンツをはいたような恰好をしている。女性だろうか?


「お夕食の準備ができたようです。」


 そう言ったトアに私は微笑んだ。


 これでようやくクラウスさんたちと話ができる。


 私はそう思って椅子から立ち上がった。


「ありがとう、トア。どこに行けばいい?」

「私が食堂までご案内します。

 その前にこの二人は私の補佐としてついてもらいますので、ご紹介しますね」


 そう言ってシュルリと笑うトア。

 部屋を出ることになるので、彼女一人では手が回らないこともあるだろうということで、私の世話係としての増員が二人やってきたらしい。


「こちらがレンレリ=プルストフ。レンとお呼びください」


 トアの影から出た一人のルザリドが、私に向かって胸に手を当てる。


「よ、よろしく、お願い、します」


 レンというルザリドは黒と橙の横縞鱗で、骨格が良いのか全体的にがっしりしていた。

 トアより背は少し低めだけど、私よりは十センチは高いだろう。

 鱗に光沢はないけれど、一枚一枚がピンと尖っていてこれはこれでアリだ。


 それに……あれ……気になる。


 他の人の目がなければ、よだれを垂らしていたかもしれないほど、私はレンの首元に凝視していた。

 幾つか筋張っているヒダのようなものが首回りについている。

 昔、動物園で見たエリマキトカゲを思い出した。

 他のルザリドにも突起のようなものが首回りについている人もいるのだけれど、ここまで立派なのは初めてだ。


 あれって……どんな手触りなんだろう。


 思わず手がワキワキしそうになった時、トアが口を開いた。


「そして彼女はジャステイン=クロフ。彼女のことはジャス、と」

「ジャステインです」


 その声を遮るように、もう一人のルザリドが言った。


 私はその不自然な遮り方に違和感を持ち、釘付けになっていた目をレンから離し、今紹介されたルザリドを見た。


 ベースの色は暗い緑なんだけど、黄色のラインが数か所入ったような鱗の持ち主。

 鱗の大きさが他の二人よりも細かくて、滑らかではないけれどこれまた触ってみたい鱗具合(?)だ。


 そんな考察をしながら、私は目の前のルザリド―――ジャスの次の言葉を待った。

 自分のことを見られているのに気付いたのか、彼女は何も言わなかったけれど胸に手を当てた。


 これがルザリド流の挨拶や礼なのだというのも、さきほどトアに習っている。


「えっと……よろしく。レンとジャスね!」


 私も同じように胸に手を当てて言ってみた。


 ふふっ、私もこれで異文化コミュニケーショナーだっ!


 なんとなく誇らしいような気がした。


「……ヒューモスが、その名を呼ばないで」

 その言葉を聞くまでは。


 ジャステインはまるで私を威嚇するかのように、口を開いてそう言った。

 私はとっさに何を言われたのか理解できなくて、手を胸にあてたまま固まった。


「ジャスっ、あなた何を言っているのっ」


 トアが厳しい口調で、ジャステインを問い詰める。

 けれど彼女はそんなトアを睨みつけた。


「トゥーキア、あなたこそ何をしているの? ヒューモスごときと楽しそうにして」

「な」

「異世界の者だろうが、ヒューモスはヒューモス。慣れあう神経が理解できないわ」

「陛下のお決めになったことよ。口を慎みなさいっ」


 ジャステインはトアの言葉に腕を組んだ。

 それ以上トアに何かをいうつもりはないみたいだけど、ヒューモスである私に関わるのが不服なのは、一目で明らかだった。


 私は胸から手を下ろし、ジャステインを見つめる。

 彼女は私にそう見られることすら嫌なのか、私の視線を遮るように片手を振った。


「あたしはジャステイン。ジャスなんて馴れ馴れしく呼ばないでよね、汚らわしい」

「ジャスっ」


 再びトアの叱責が響く。


「仕事はするわ。それで文句ないでしょう」


 それ以上問答を続けるつもりはない。

 そんな態度で彼女は、テーブルの傍にあったお茶の準備が乗ったカートを押して、トアが控えにつかっている部屋に通じる扉へと向かって早足で進む。

 レンがそのあとを慌てたように付いて行った。


 わたしはジャステインの態度に受けたショックが強くて、その姿に何も言えずにただ見送っていた。


 まっすぐな嫌悪。

 隠すことない嘲り。

 ヒューモスへの――――私への敵意。


 それが私の体を縛っていた。


「サラ様。申し訳ありません。普段はあのようなことを言う子ではないのですが……」


 トアのフォローに、私は笑みを浮かべようとして失敗する。

 中途半端に動いた頬は、緊張したように細かく震えた。


 わかっているはずだった。

 エンセルさんも言っていた。トアだって教えてくれていた。


 ルザリドにとって、ヒューモスはけして好意の対象でないことを。


 私は理解しているべきだった。


 今まで私とかかわってくれたルザリドが、私に優しかったからといって、その前提が覆っているわけじゃないことを。


 ジャステインはまっすぐ私に悪意をぶつけてきただけ。

 同じように胸の中でヒューモスへの嫌悪を抱いているルザリドはきっと多い。

 それを冷静さで押さえつけながら、私と接してくれている人ばかりだったのかもしれない。


 トアは言葉を尽くして慰めてくれた。それでも私は自分の表情が堅いのに気付いていた。


 こちらに話しかけてくれている言葉。私を気遣う言葉。これがすべて、嘘だったら……


 私はそこまで考えて、その考えを振り払うように首を振った。


 私は反省したはずだ。

 すべてが嘘だと決めつけるというのは、とても失礼なことなのだと。

 それは向き合うことを恐れる、弱い自分のただの逃げなのだと。


 何もかもを信じる必要なない。

 けれど私は目に見えるものを、自分で考え、行動してから、真実か嘘かを決めなければいけない。


 そうだよね、チョロちゃん。


 私は一度大きく息を吸い込んでから、こちらを見つめているトアに話しかけた。


「ごめんなさい。私がヒューモスだってことが、トアにも嫌な思いをさせていたのかも……」


 最後まで言えず、声が震える。

 その通りだと言われたら、私は―――


「サラ様。わたしはあなた様を嫌ってはおりません」


 きっぱりとしたトアの言葉が返ってきた。

 けれど私はトアの言葉に素直にすがりつけなかった。

 情けないことに、トアが感情を押し殺して私に接しているのではないのだと、私には判断することができない。


 トアはゆっくりと息を吐いた。


「たしかにルザリドはヒューモスを嫌っています。

 ヒューモスのことを好きか嫌いかと問われれば、わたしも嫌いだと答えるでしょう。


 それは何も戦争が長く続いていたからというだけではないのです。


 長い歴史の中、互いが歩み寄ろうとしたことは何度もあったと言います。

 けれどそれは叶わなかった。

 歩み寄ろうとする度に、それが失敗する度に戦争が起こったのです。


 もちろんさまざまな理由があったと思いますが、一番の原因はヒューモスがルザリドを対等な立場と認めなかったからだと言われています。

 当初は言葉が通じないためというのもあったのでしょうが、それだけではないのでしょう。


 言葉が通じても、ヒューモスはルザリドを理解しようとすらしなかったそうです」


 ルザリドが使うことのできる魔法陣は、二種族間の言葉の壁を取り払うことができるものがあるのだそうだ。

 私の言葉がトアたちに通じているのは、その魔法陣を使っているからだという。


 昔、その魔法陣を発明しヒューモスと対話を試みたルザリドがいた。

 けれどそのルザリドはその後死ぬまで、戦を続けることを支持したらしい。


 魔法陣で理解したヒューモスの言葉には、ルザリドを理解しようとする言葉よりも、ルザリドを侮蔑する言葉の方が多い。

 何度対話しようとしても、同じことに落胆したのだと伝わっている。


 私の世界にルザリドはいない。

 だからこの世界のヒューモスが、どうしてルザリドを理解しようとしなかったのか、私にもわからない。


 だけどきっとその魔法陣を発明したルザリドは、分かり合えると思ったに違いない。

 言葉さえ通じれば、戦争が終わると思ったに違いない。


 それが裏切られ、とても悲しく悔しかっただろうことはわかる。


 神妙な面持ちで、私はトアの話を聞いていた。


「けれどサラ様は違います。

 その証拠に、今も私の話を聞いてくれているではありませんか。

 ルザリドに触れようとし、話をし、一緒にお茶をしようとしてくれたではありませんか。


 サラ様はわからないことをわからないと言い、教えられたことを素直に吸収される。

 だからわたしはサラ様にルザリドのことを教えることができ、サラ様を――ひいてはヒューモスを少しでも理解したいと思えます。


 それはきっと、とても大切なことなのです」


 ルザリドの舌を出す仕草の意味も聴覚の良さも、トアに聞かなければわからなかった。

 私は疑問に思ったことをただ口にしただけだ。


「それが大切なのです。

 侮蔑より興味を。

 威嚇よりも対話を。

 そのことが互いを尊重し、理解しあうことに繋がります」


 トアはゆっくりと舌で自分の口の周りを舐めてから、指を一本立てた。


「アルベルト様が、サラ様をとてもご心配されていたように」


 冗談っぽくそう言ってくれるトア。

 けれど舌を収めてから、立ち上がったままの私の手をとった。

 まっすぐ私の目を見つめる。


 私の目で言えば白いところがトアは黄色く、虹彩は黒い。

 人間ではない瞳。

 けれどそれに映る思いが嘘なら、私は―――


「ですからわたしを信じてください」


 もう一度やさしく、それでいてはっきりとトアは言う。


「この国はヒューモスにとっては。そしてサラ様にとっては冷たい態度をとるかもしれません。


 けれど私は、サラ様のことは好きですよ」


 見つめられている目が耐えられなくて、鱗の手に包み込まれた自分の手を見る。

 その冷たい鱗の感触に私は、ゆっくりと息を吸い、吐く。


 なんだかトアってエンセルさんみたいだ。


 さきほどエンセルさんも、私の手をとって話をしてくれた。

 ルザリドには他者に触れ合うような文化がない。

 触れられることに多少なりとも抵抗感すらもっている種族。


 なのに私を理解するために、彼らは私に手を差し伸べてくれているのだ。


 そんな手が信じられないわけがない。


「……うん、ごめ」


 謝罪を口から出し切る前に、私は口を閉じ、そしてもう一度開いた。


「ありがとう」


 私を好きだと言ってくれてありがとう。

 『ヒューモス』ではなく、『私』を見てくれてありがとう。


 私が強張った顔にゆっくりと笑みを浮かべると、トアはシュルシュルと舌を出してくれた。







「ジャスはこの部屋にいて。私とレンでサラ様をお送りしてくるから」


 控えの間から戻って来た二人にトアがそう言ったとき、ジャステインが小さく舌をだしたのが見えた。


 彼女にとっては、私と共にいなくて良い仕事のほうが良いのだろう。


 私も、思わずほっとしてしまった。

 こんなんじゃ、ダメなのはわかっているのに。


 否定されるのはやっぱり悲しい。

 嫌われるのは怖い。

 その理由が、私がヒューモスだからというのでは、解決のしようがなくてもどかしい。


 どうしようもないこの悲しさには覚えがあった。


 チョロちゃんを友達に否定された時。

 あの時も、ただ悲しくて。

 わかってもらえないのが悔しくて。

 けれどチョロちゃんがカナヘビだという事実はどうしようもなくて。


 あの時の私は次の日、その友達にどんな顔で挨拶したんだっけ……?


「サラ様。

 あの、こちらを、その、お使いになり、ますか?」


 悪い空気に飲まれたのか、オドオドと話すレンは私に少し大きめのクシを差し出した。

 取っ手はなく、半円形の直線部分に歯がついているような形だった。


 そういえば先ほど顔は洗ったけれど、ブラシがなくて寝癖で跳ねている毛先は放置してしまっていた。


「あの、新しいから、その、汚く、ないです。頭の毛を、梳かした方が」

「すっごく助かる。ありがとうっ」


 私は思わず弾んだ声で答えながら、クシを受け取る。


 レンが私のことをどう思っているかはまだわからない。

 それでもジャステインのように拒否されることがなかっただけで、私は嬉しかった。


 レンは他にも水の入った容器や、両手の平を合わせた大きさの鏡を用意してくれていた。

 服は先ほど着替えたのでこれで良いとしても、一応王様の前に行くのだから身なりを整えたほうが良いらしい。

 化粧などはないらしいけれど、やはり髪の毛が変な方向に跳ねているのはまずいようだ。


 レンに改めてお礼を言うと、彼女は慌てて胸に手を当てると、他の作業に戻っていった。


 手に水をつけて跳ねが気になる部分を濡らしてから、髪全体にクシを通す。

 トアは鏡を支えたまま、私の様子を見つめていた。

 ルザリドには髪がないので、その行為自体が物珍しいのだと言う。

 ちなみに今使っているのは、本来は家畜の毛並みを整えるために使うクシらしい。

 そんなことをトアと話しつつ手を動かしていると、髪の跳ねがマシになってくれた気がする。

 寝る前にトアが外してくれていた髪留めを持ってきてくれたので、それも鏡を見ながら位置を整えた。


 ジャステインはそんな私に近づきもせず、テーブルの上を布巾で拭いていた。


 その無言の背中に私は怯えながら、ベッドの傍に靴を放り出していたのでそれを拾って履いた。

 今の今まで絨毯の上にいたので靴を履く必要を感じなかったのだけど、廊下を歩くならまた履いておいたほうがいいだろう。


「クラウス陛下や魔術長もいらっしゃるそうですから、そろそろ参りましょうか」


 準備の整った私を見て、トアはそう言った。


 先導してくれるトアに従って、私は部屋をでる。

 ジャステインが部屋に残ったまま、レンが出た後に扉の取っ手に手をかける。


「調子に乗らないことね、このヒューモスが」

「っ」


 閉め際にそう聞こえた。

 トアが何かを言う前に、扉は閉まってしまう。


 トアとレンが私の様子をうかがってくれているのがわかった。

 私は泡立った心を落ち着けるように、大きくため息を吐いた。


 人から悪意をぶつけられることには確かに慣れていない。

 だけどあれが彼女の本心だと思う。

 そしてそれはルザリドが、一般的にヒューモスに対して思う感情だと……


「あの、サラ様?」


 私の様子を気遣うようにレンが私を覗き込んだ。


 するとエリマキが、まるで赤ちゃんのよだれ掛けのようにレンの首元で揺れる。

 エリマキにもすべて鱗が付いていて、それが擦り合わさるようにかすかに音を立てた。


 ……今の、イイっ。


 エリマキに無意識に触れようと伸びた右手、の手首を左手で掴む。

 ぐぐぐぐぐ、と効果音がしそうな勢いで右手がレンへと進もうとする。

 それを左手が必死で抑え込む。


 右、じゃなくて左手もっと頑張れ!


 もちろんエリマキには触りたいけれど、怯えたように話すレンを、これ以上怯えさせたくない。

 その怯えがヒューモスに対するものなら尚更だ。

 もっとレンと親しくなって、触っても大丈夫か聞いてからにしたかった。


 しばらく両手の攻防が続き、左手が辛勝してから私は両手を握りしめた。

 それから私は、レンに決意を表明する。


「レンっ、私がんばるよっ!」

「は、はい……?」


 レンは戸惑ったような声をあげた。

 ウロコパワーの注入に感謝しながら、私は気持ちを持ち直すつもりで両頬を叩いた。


 呆けてる場合じゃない。

 これからのことを、しっかりと話しにいかなきゃいけないんだから。


 そう思って周囲を見ると、こちらを見ているトアの傍に、また見たことのないルザリドが二人いた。

 黒いルザリドと赤と黄色のまだら模様のルザリドだった。

 二人はこちらを見ているのは分かったけれど、表情はやはりわからない。


 彼らは護衛だとトアが言った。


 もしかすると彼らも、ヒューモスのことをよく思っていないのかもしれない。

 尻込みしそうになる自分に心の中で叱咤してから、彼らをまっすぐに見て「よろしくお願いします」と言う。


 頭を下げようとして、思い直して胸に手をやると、彼らも無言ではあったけれど胸に手を当ててくれた。


 ジャステインのような蔑みも、私のよろしくに対する返答もなかったけれど、私は気分が上昇するのを感じた。


 海外で初めて自分の英語が通じたら、こんな気分になるのかな。


 我ながらちょっと単純かもしれない。

 でも今は、肩を落とす暇があるなら、前に進むべきだと思う。

 やらなきゃいけないことがあるんだから、心に引っ掛かる部分は後で考えよう。


 部屋から離れて廊下を歩き始める。


 前にはトア。横にはレン。後ろには護衛のルザリドが二人。


 前を先導していたトアが振り向いた。

 私の気分が持ち直したのに気付いたのか、一度だけ舌をだした。


「サラ様は、お腹はお減りですか?」

「うん、空いたっ! 今日はお昼ごはん食べてなかったから、実は楽しみにしてたんだよね」


 私はできるだけ元気な声でそう答えた。


 王様と一緒にご飯だなんて、すっごく豪勢なものが出てきそうな気がする。

 トアも今日の夕食は遠い場所からわざわざ取り寄せた、特別な食材が使われるって言ってたし、これは期待するしかないでしょ。


 ローストビーフとか~、ステーキとか?

 伊勢海老もいいし~。

 あ、フォアグラなんてでてきちゃったりしてっ。


 よだれを飲み込みながらトアについて歩いていると、いくつか階段を下りてから食堂についた。

 そこにあったのは立派なルザリドの細工の入った両開きの木の扉だった。


 トアが扉を開けてくれたので、中に入る。


 …………私は再び固まった。


 ええ、ええ。わかってましたよ。

 異世界で異文化で、私の常識が通用しないこともあるんだって。

 わかってたつもりだったんですよ。


 部屋はさきほどの部屋より少し大きいくらいだろうか。

 何人かのルザリドがテーブルの上に、食器や料理を運んでくる。

 まだクラウスさんたちは来ていないらしく、テーブルには誰もついていない。


 私は周囲を見回してから、自分の見間違いであることを祈りながら、もう一度部屋の中央に鎮座するものを見た。


 …………間違いない。


 こぶし大の黒い虫がほかほかと湯気を立てて、テーブルの上に置いてあった。


 食事って、もしかして虫ですか?

 私の顔は引きつっているのに、お腹は大きくぐ~っと鳴った。




この引きからわかるとおり、次は虫三昧のお話になります。

いーやーっっっ がんばれサラ(笑)

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