「ひっく、ひっく……って、え?」
泣いてる暇はないよ~
異世界生活六日目。
私の衝撃はトアのこの一言に尽きるだろう。
「今日の昼には、いよいよ召喚ですね」
一瞬思考が止まったよ。
この世界で私は二週間を過ごさなければいけないのだと、以前説明を受けていた。一週間が経ってから、本来召喚するはずだったヒューモスを召喚して、私が元の世界に帰るにはさらに一週間待たなければいけなかったはずだ。
「え、えとまだ私がこの世界に来てから一週間たってないよね?」
「いえ、今日でちょうど一週間経ちましたよ」
……話がかみ合わない。
すこし落ち着こうか。
トアと面と向かって話を擦り合わせると、どうやら暦の違いらしい。
この世界は一年が三百二十日のシルファ歴という暦を使っている。この時点で一年に付き約四十五日間、私の世界とズレがあった。そして一年を四等分すると、だいたい早乾季、早雨季、遅乾季、遅雨季というふうに四季に分かれるという。
今は早乾季、年が始まって最初の乾季の時期なのだ。言われて気づいたけれど、そういえばこの世界に来てからは雨を見てなかった。
私の知っている四季とはすこし違うけれど、その四季をさらに十八にわけた単位が週になる。
つまりこの世界で言う一週間は、五日間だったのだ。
この世界に来た一日目。
トーカスハさんとピューレさんに出会った二日目。
グルスタッフへ行った三日目。
帰ってきてパンを作った四日目。
そしてトーカスハさんに誘拐された昨日で、五日目。
…………ああ、なるほど。一週間だね。
私は指折り数えてから納得する。
もうこの世界にきて六日目になる。
私が帰るまではあと五日だ。
元の世界に帰れる日が思っていたよりも早いのだから、素直に嬉しい。
けれど召喚のやり直しが今日なら、トアとのお別れも今日なのだ。
トアと離れることになるのはやっぱり寂しい。
実際に召喚が始まれば、トアは私の傍を離れることになっている。
昨日の晩、トアの話を聞かせてもらってから、私たちはいろんな話をした。
思い起こせばこれまでトアとの話の内容は、ルザリドやこの世界の説明ばかりだった。けれど昨日は私の話はもちろん、トア自身の話をたくさん聞くことができた。
弟さんとの兄弟ゲンカの話は、トアの昔大好きだった馬の木細工のおもちゃを、弟さんと本気で取り合った、という聞いている分にはとても微笑ましいものだった。その取り合いは三日三晩続いた末、結局弟さんが木細工を壊してしまい、さらに大ゲンカになって本物の馬を引っ張り合ったというところまで聞いたら、さすがに顔が引きつったけれど。
その弟さんは今、とても遠くにいるらしい。トアが懐かしげに目を細めて「もう随分と会っていませんが」と言ったその表情は、舌を出してはいなかったけれど微笑んでいるように見えた。
弟さんのことをとても大切にしてるんだなぁ。
私はトアの話に、あいづちを何度も打ちながらそう思った。
他にも彼女から見た幼いころのクラウスさんやアルの話、王城で働き出したきっかけや私が来る前にしていた仕事など、話題が尽きることはなかった。
そのせいで少し寝不足だけど、トアとはとても仲良くなれた気がする。
「また会えるよね?」
「ええ。サラは訪問官の方と関わることも多いでしょうし」
そう言うトアは、私へと優しい呼びかけを繰り返す。
「大丈夫ですよ、サラ」
昨日、世話係でなくなることを理由に様付で呼ぶのもやめてもらったのだ。
……うん、なんだかすっごく友達って感じだ。
トアから実際に呼び捨てにされて、私はすこぶるご機嫌になる。
不安は不安だけど、この友人からの信頼を裏切りたくはない、頑張ろうという気持ちになれた。
昨日の夜更かしのせいもあり、今日は朝をずいぶんと過ぎてから起きた。
簡単な食事をとって身支度を整えると、ほどなく召喚が始まる時間になっていた。召喚が始まる前には連絡が来るので、そうなれば私は召喚を行う部屋まで移動する予定だった。
万が一にも今回は失敗しないように、私は魔法陣のすぐ傍で召喚を見守ることになっているのだ。
もう部屋の外を歩き回る時間もないことだし、せっかくだから部屋でゆっくりとすることにした。
久しぶりに一緒にお茶を飲んでくれるようにトアにねだる。
私の相手をするために隣の席に座ったトアに代わり、レンがお茶の準備をしてくれた。
ジャスは何故か今日はいない。毎日見ていた一人がいないことに軽く違和感を覚える。急用が入ったのだ、とトアが教えてくれた。
「ふ~ん……大丈夫なの?」
「はい。今日の召喚には間に合わないかもしれないけれど、今日中にはこちらへ顔を出すそうですから」
「それまでは、その、わたし一人でのお世話になります。
あの、ご迷惑をおかけしたら、申し訳ありません」
オドオドとそう付け加えるレンは、未だに私と話すときに頻繁に口ごもる。
う~ん、そろそろレンにも私に慣れてほしいなぁ。
お茶の準備を終えたレンも誘って、目の前の席に座ってもらうことにした。
「こうやってレンとお茶するのは初めてだよね?」
「そ、そうです、ね?」
初めてのことで居心地が悪いのか、レンは私とトアの様子をうかがうように視線を動かした。
「そんな怯えなくても取って食ったりしないって~」
私はそう言いつつ、レンのエリマキを見た。
「で、鱗触っちゃダメ?」
「だ、だだだだだだ駄目ですっ」
座っていた椅子から飛び上がり、目にも留まらない速さでレンは一気に私から距離をとった。
テーブルを挟んでいることもあり、私は素直にそれを諦める。
残念、失敗かぁ。
代わりに私はトアと目を見かわす。私は微笑み、トアも静かに舌をだした。
なんだかこんな時間を過ごしていると、トアとは長い間ずっと友達だったような気がしてきた。
懐かしいような、どこかであったような…………
そんな思考の隅でふと思いついて、私は右手をゆっくりと開いては閉じる。
かなり回復したようで、素早く動かすと痛むけれど、なんとか完全に閉じることもできるようになった。
私はうずうずしながら、トアに話しかけた。
「ねぇねぇ、トア」
すっべすべ~。ああ、この絶妙なライン、たまりませんなぁ。
トアの鱗って細かく重なってて、遠目から見ると鱗って感じがしないんだ。だけどこうやって実際に触ると、間違いなく私の肌とは全然違うんだよ。細かな継目が曲げ伸ばしをした時に、うまく邪魔にならないように重なってる。どこかしっとりとしてるんだけど、絶妙な硬さというかなんというか。チョロちゃんはニホンカナヘビだったから、カサカサとした鱗だった。そんな鱗の質感もルザリドによっては全然違うんだよね。
う~ん、鱗の道は奥が深い。
「………………………………またか、お前は」
「ちゃんと了解は取ってあるってば」
呆れ気味のアルの声に、振り向くことなく反射的に私は答える。
トアの尾っぽに抱きつくような姿勢で、床に座り込んだまま私はうっとりとしていた。
私を尾っぽに纏わりつかせた形になったトアは、椅子に座ったままだけど身動きしづらそうだ。
トアがくすぐったいのかたまに全身を震わせる。けれど私がトアの顔色をうかがうと、彼女は苦笑するように舌を出してみせた。
私はそれに安心して、再び尾っぽを堪能しにかかる。
この前、さわれなかったからねぇ~。背中側とお腹側だと、やっぱりちょっと手触りが違うみたい。この微妙な凹凸が、またよし。
そうそう。ルザリドの尾っぽには自切面がないんだって。尾っぽを自分で切り離すことなんて考えられないらしい(トア談)。つまりいくら触っても尾っぽが切れる心配がない。
触り放題万歳っ!
ちなみに先ほどからレンは私から一番遠い壁際にくっついている。
こちらに近づいてくる気配は一切ない。
手を止めずに私がレンのほうをちらりと見た途端、大きなため息が聞こえた。
「いい加減にしろ」
そしてアルは私の両脇に無理やり腕を入れると、トアの尾っぽに張り付いていた私を引きはがした。
むにっ
「ぅなーーーーーーっ」
胸っ、触ってるっっってか掴んでる!!!
私の両脇に差し込んだアルの手は、薬指ぐらいまで私の胸を完全に掴んでいた。
それに私は奇妙な悲鳴をあげて暴れる。
セクハラだ、この痴漢っ、エッチ、エロ魔人っ!!!!!
「っ、このっ、やめろっ」
両手を振り回して、うめくアルをぽかぽか殴る。
アルの冷たい鱗に何度も拳がぶつかった。右手には殴打とは異なる痛みが走るけど、そんなの関係ない。
無我夢中で私はアルの手から逃れようとした。
私を下ろしてから、アルは埃を払うように鱗をはたきながらぼやく。
「まったく、なんだっていうんだ」
そんなアルに私は胸を隠すように腕を組み、キッと睨みあげた。
「この変態変態っ大変態っ! 信じられないっ、このスケベ!」
「なっ」
「アルなんて鱗が全部はがれてカラッカラに干からびちゃえぇっ!!!」
「俺は何もしてないだろうっ!?」
う~、女の子の胸に触っときながら開き直りやがって。
そりゃちょっと、え~と小ぶりかもしれないけど、でも、でもだよ? こっちの世界に来てからブラなんてないから、服の下は少し厚手のタンクトップのようなものを着ている。つまりノーブラなのだ。そ、それを間違って触れただけなのはわかってるけどっ――――。
「サラ、何をやってるんですか」
トアが困ったように私とアルを交互に見ながらそう言った。
そうだ。私はトアの尾っぽを触らせてもらっていたところだった。
私は不機嫌ながらもアルに主張した。
「今日からトアは私付きじゃなくなるんだもん。すこしぐらい触ってもいいじゃん」
「それとこれとは話が別だ。ルザリドが接触を嫌がることは教えただろう」
「だからトアには許可もらってたってば」
「そういう問題じゃない。迂闊なことをするなと言っているんだ」
「アルの尾っぽじゃないんだから、ケチケチしないでよっ」
「お前はどれだけ尻尾にこだわるんだっ」
だって尾っぽは人間にはないんだよ。触るしかないじゃん。うんうん。
私は今度はアルの尾っぽに狙いを定める。その視線に気づいたアルが、私から尾っぽを遠ざけるように動き、私を威嚇するように口を開いた。
……くっ、隙がない。
「話には聞いていたが、さすが、というべきなのか」
私が歯噛みして悔しがっているともう一人、廊下から顔をのぞかせてコメントしたルザリドがいた。
意外なその訪問者に、私は驚きの声を上げる。
「あれ、クラウスさん。お仕事はいいんですか?」
「ああ、問題はない」
そう私の問いに応えながら、クラウスさんも部屋に入ってきた。
クラウスさんの後からは、部屋に入ってくる人はいない。
開いた扉からちらりと見えた廊下の外には、私の護衛をしてくれているルザリドたちがいるだけだったし、アルもクラウスさんが入った後ですぐに扉を閉めた。
いつももっと大人数の護衛に囲まれているイメージのあるクラウスさんがアルだけを連れて、とても忙しいはずなのにわざわざ私の部屋にやってきたらしい。
何の用だろ? もしかして重要事?
私がその疑問を口にだす前に、クラウスさんが私へと問いかける。
「サラ殿の体調はどうだ? 昨日はあまり話す間もなかったが」
「しっかり休みましたし、右手もだいぶ治ってきましたよ」
私はそう答えて、ゆっくりと右手をグーパーさせて見せる。
それに対してクラウスさんはただ黙った。
昨日のように体内の音を聞いているのだと気づき、私も黙る。
「…………そうだな。昨日よりは、流れが良くなっている」
しばらくしてからクラウスさんはそう言って、一度だけ舌を出した。
どうやら気にしてくれていたようだ。ほんと、お医者さんみたい。
二人を立ちっぱなしにさせるのも悪いと思い、私は椅子をすすめた。
私自身もトアの尾っぽを触る前に座っていた椅子へと腰かける。
「でも言ってくれればお部屋に行きましたけど?」
一国の王様が訪ねてくるって、私ってまるで重要人物みたいだよねぇ。
私の言葉にクラウスさんが首を横に振る。
「どうせ地下へと移動しなければならない。
サラ殿に最上階にきてもらうよりは、こちらから出向いた方が都合はいいだろう?」
まぁ、この広い王城の移動を考えると、それはそうなんだけどね。
今日の召喚も、私の時と同じように地下室で行うことになっているのだ。
クラウスさんは地下で準備をしているエンセルさんへ、自分たちは私の部屋にいることを伝えるように壁際のレンに頼んだ。
レンが部屋を出ていくと、いつのまにかトアは椅子から立ちあがっていた。気付くと私の背後で控えるように姿勢を正している。
あれ? なんだか変じゃない?
私の疑問はさらに確信へと変化する。
当然のようにクラウスさんだけが椅子に座り、アルはその後ろに立ったまま座る気配すらないのだ。
うん、変だ。
「三人は、幼馴染なんですよね?」
私はそんなアルとトアをしばらく見た後で、目の前のクラウスさんに問いかける。
「そうだが?」
「一緒に座らないんですか?」
私がそう聞くと、クラウスさんは頷く。
「私が王になってからは、同じ席にはつかないことにしている」
私がアルとトアを順番に見回すと、彼らも肯定するように頷いた。
……なんで?
私の疑問に答えるように、クラウスさんが口を開いた。
「サラ殿はルザリドの王がどう決まるか知っているか?」
「え、王様の子供が次の王様じゃないんですか?」
私は咄嗟に思い浮かんだ答えを返す。けれど正解ではなかったらしい。
クラウスさんはゆっくりと首を横に振った。
「弑逆――――王を倒した者にのみ王となる資格がある」
……………それはまた、武闘派なことで。
力を重んじるルザリドらしいといえばいいのかとか、王様ってそれでいいのかとか。
頭の中ではいろいろと思ったけれど何と言っていいのかわからず、またクラウスさんが何を言いたいのかもわからなかった。
私が黙ったままクラウスさんを見ていると、彼はテーブルに肘をつき、手をゆるく組んだ。
「王はこの国には一人しか必要ない。
だからこそ次代の王は、今代の王を越えるだけの力を持った者でなければならない。
そして昔からこのゼリウンでは、王が自らに並ぶに足る力を持つと認めたルザリドだけが、王との同席を許される。
王は国の中で最も力を持った存在であり、その王と共に座る者は、次代の王に近い者という意味を持つのだ。
もちろんこれはただの古い習わしであることは違いない。実際がどうかという話は別だ。
この風習が今でも息づいている理由は、主に周囲へのパフォーマンスだと思ってくれていい。
王が座るときに席を同じくする者は、王に匹敵する力を持つ者だと周囲には見なされる。
つまり」
クラウスさんは静かに舌を見せた。
「アルベルトやトゥーキアが私とともに座らないのは、私に叛意がないことを周りへと明らかにしているんだ」
王を倒す。
それができる力を持っていることを認めないし、使わない。
トアとアルが今、椅子に座らないのはそういう意思表示だったらしい。
考えてみれば、私が召喚された部屋で座っていたのはクラウスさんだけだった。
ああ、そうだ。初めてこの世界で食事を取った時も、クラウスさんは座っていた。
あのとき座っていたのは……
「クリスさんとエンセルさんは?」
「クリスは宰相。セルは魔術長。どちらがいなくともこの国を成り立たせるのは難しい。
彼らには敬意を払う意味も込めて、着座を許可している。
私の失脚を願う者からすれば、彼らを次の王にすげることをまず考えるだろう。
まず、そんなことはありえないが」
そう答えるクラウスさんの言葉から信頼が伝わってくる。
あの二人の姿を思い出していると、クラウスさんの声が続いた。
「そして、サラ殿。貴女もだ」
「私も?」
「今、座っているだろう?」
どこかおかしそうにクラウスさんはそう指摘した。
あ……、そーだね、そういえば。
しっかりと椅子の感触をお尻の下に感じながら、私は頭をかいた。
自然と私は重要人物な立ち居振る舞いをしていたらしい。
もちろん、クラウスさんを倒すつもりなんて毛頭ない。
「え、と。立った方がいいですか?」
「いや、構わない。座っていてくれ」
でもそんな話を聞いちゃったら、かなり座り心地が悪いんですけど。
トーカスハさんに引き続き、何故かクラウスさんにもいつの間にか認められているらしい。
え~と……力試しを希望するルザリドがこない、よね?
クラウスさんの返答に、それでも私は立ったものか悩んでいた。
そんな私をクラウスさんはしばらく見つめたあと、こう切り出した。
「貴女のその待遇は、私からの感謝の形の一つだと思ってほしい」
感謝?
その言葉の意味をはかりかねて、私は黙ってクラウスさんを見つめ返す。
「今日の召喚。
本来ならサラ殿をお返しするべきものだが、こちらの意に沿ってもらい改めて感謝する」
そう言いながら、クラウスさんはテーブルの上に手のひらを落とした。
「ルザリドの王として約束しよう。
一番の理解者足りえる貴女を、必ず元の世界へお返しする」
そしてこちらに身を乗り出すように椅子から腰をあげると、クラウスさんはテーブルに向かって斜めに倒れるような姿勢をとる。自らの顔の側面を私に見せつけるように、体を前に傾けた。
そしてゆっくりと瞼を開ける。
私は思わずその瞳を見つめる。
赤い目…………だ。
私はまずその色に驚いた。赤一色に染まった瞳は、虹彩が見つからなかった。
ルビーのように真っ赤で、見つめていると引き込まれそうになる不思議な色だった。
アルビノ。
聞いたことがある。
それは先天的に色素を持たずに生まれた存在。
形態には様々なものがあるけれど、基本的には体の色合いが全体的に薄くなる。
ヒョウモントカゲモドキなどでも、その姿は珍重されていると聞く。
その特徴が瞳に現れると、色素がないために瞳が血の色に染まるのだ。
目はほとんど見えないと、クラウスさんは言っていたけれど、それなら納得だ。
確かアルビノの瞳を持つ個体は、弱視になりやすかったはずだ。
「変わった目だろう? いつも初対面では驚かれるので、常に閉じているのだ」
「珍しいとは思いますけど…………すっごく綺麗です。ずっと見てたいぐらい」
私はずっと閉じられていた眼に、驚きながらも嬉しくなった。
「見せてくれてありがとうございました」
私がそう言うと、クラウスさんはゆっくりと瞼を下ろした。
「驚かれるとは思っていたが、その感想は予想していなかった」
クラウスさんはそう言って、自分の背後に向かって舌を出した。
「だろう?」
「クラウスの容貌は昔から目立っていたからな」
声をかけられたアルが、ため息交じりに応える。
傍に立っていたトアに、私は顔を向ける。
「目立つって? 確かに綺麗な白い鱗だけど」
「他に陛下ほど白い鱗を持つルザリドを見かけられなかったでしょう?」
トアの言葉にアルが続きを言う。
「昔、この国を興したルザリドの容貌が、クラウスと同じなんだ」
「真っ白な鱗に透き通るような紅い瞳。昔はよくからかわれていましたね」
「からかっていた奴らも、まさか本当にクラウスが王になるとは思ってなかっただろうがな」
どうやらルザリドの中でもクラウスさんの容姿は珍しいものらしい。
そんな風に言いあう二人に、クラウスさんは静かに言った。
「それを言うならアルベルトが近衛隊にいることも、昔は想像できなかった」
「俺は――――そうだな。戦争が続いていたら、未だに前線にいたな」
「トーカスハ様はアルベルト様が副隊長になられていることを、とても喜ばれていますけれどね」
「……トーカスハは関係ないだろう」
「アルベルトはトーカスハがまだ苦手か」
苦笑を含みながら言ったクラウスさんが、今度はトアへと話を向ける。
「トゥーキアはトゥーキアで、幼いころはセルとよくエンフォーレから姿を消していただろう。
いつか帰ってこなくなるのではないかと思ったころもあった」
「確かに。あの頃を考えれば、今は当たり前のように王城で働いているのが不思議なもんだな」
「わたしの場合は、ほぼ連れまわされていたのであって、私の意思ではありませんでしたから」
「この前セルが、トゥーキアの付き合いが悪くなったとぼやいていたぞ?」
「付き合う必要、ありますか?」
それは私の知らない彼らで。
私は口を開かずに、そんな彼ら三人の様子を見守っていた。
彼らの過去が今、目の前にある。
それは幼馴染という関係からできあがったとても微笑ましい関係性。
そんな中、場違いな発言をする気も起らず、私は静かに空気の塊を吐き出した。
「サラ殿には退屈だったな。すまない」
私のその動作に気づいたのか、クラウスさんがそう言った。私はそれに頭を振る。
「全然、退屈なんかしないです」
私のいない彼らの過去。
そこに私がいないことは確かに少し寂しいけれど、彼ら自身の話をしてもらえて嬉しかったのも確かだった。
私はもっともっと、ルザリドと仲良くなりたいのだから。
「いろいろ想像してましたから」
謝罪するクラウスさんに私はそう付け加えた。
「想像?」
怪訝そうにアルが言ったので、私は素直に教えてあげた。
「ちっさな頃に食べようとした虫に追っかけられて泣いてたクラウスさんとか、泥酔したアルが壁に向かって延々と話しかけてたこととか。
こんなんだったんだろうなぁ、みたいな?」
私の言葉に、アルがトアを睨みつける。
「…………トゥーキア、お前か」
「昨日、昔話をすこし」
悪びれた様子もなく、トアは舌を出しながら答えた。
いやぁ、ぜひ見てみたかったなぁ。
そんな話をしているところに、レンが戻って来たのだった。
――――召喚の開始という知らせを持って。




