56 秀人は旅に出ている
56 秀人は旅に出ている
六月中旬の放課後、生徒会室には役員たちが集まっていた。
本日のアジェンダは月末の晴天時に予定している高校から近い海岸付近の清掃というボランティア活動における、役員たちの分担を決めるという比較的緩やかなもので、修学旅行で不在の二年生の河本秀人以外のいつものメンバーで話し合っていた。
「けいじさ、河本君と一緒がいいんでしょ?」
隣に座る竹清にみゆきが顔を向けて問いかける。その甘みの含まれた言い方は彼氏、彼女という関係性ゆえに出せるものである。
「どうしたみゆき、そんならしくない発言」
引くこと覚えたみゆきに狼狽えるようなことなく、竹清は受け止める。
「だって気に入らないと、けいじ、あとでなんか言うじゃん」
竹清に顔を向けたまま、みゆきは拗ねた表情をする。
「言わないよ、みゆきはオレと一緒に浜辺に先陣を切るぞ」
姿勢良く座っている竹清は視線だけをみゆきに向けている。
「いいの?」
「いいさ」
そう答えながらみゆきの方へと竹清は顔を向け、穏やかな表情をみせる。
「じゃ、河本君、うちらでもらおっか」
学校公認扱いの生徒会カップルのやり取りが落ち着いたのを見て、有紗が美咲に提案する。
「あ、だね、なんかいつもそんな感じだし」
ラップトップへ視線を落としつつも、神経を生徒会カップルへと注いでいた美咲が有紗からの問いかけに我に返ったように応える。
「よし、じゃ、有紗と美咲が河本君と一緒に、他の参加してくれた生徒たちを誘導する感じで、洋介と綾が中盤から攻める形で自由に動いて展開してもらおうか」
竹清が冗談交じりに、いつもの調子で決めに入る。
「それで、了解。だけど平井先生は?」
洋介が学校には居ても、あまり生徒会室に顔をみせない顧問について言及する。
「あ、そっか。平井先生どうしよ。参加するのかな?」
すっかり忘れていたという感じでみゆきが竹清に確認する。
「そういうのはちゃんと参加してくれるタイプの人だから」
竹清は平井先生という人物について思い返す。
「平井先生は、河本君と一緒の班が無難じゃね?」
洋介は少し思い切る。
「あ、洋介君それ触れちゃう?」
それまでは黙っていた綾が乗っかる。
「平井先生の、あの、河本君にだけ心開いてる感じ、なんなんだろうね」
皆が何となくは思っていても口にしていなかったことに、平井も河本も今この場にいないこともあってか、洋介はさらに切り込んでいった。
「じゃ、ひでとと同じ班にいれとこう」
竹清会長がそのことについて、どう感じているのか、他の役員たちは何気に興味があったので、竹清の反応を待ったが、ただ何も気にしていない風に取り決めただけであった。
「じゃ、うちらだけ四人の班?」
美咲がいびつになった班構成の疑問を口にする。
「そうだな、難しいんだな」
簡単だと思われた分担決めで、こうも苛まれることを可笑しく思うのか、竹清が苦笑いの部類の表情を浮かべる。
「じゃ、逆に先生と河本君の二人で動いてもらおっか。近くで変に気を使うより、離れた所から様子窺おうよ」
綾がそこまで大胆に盛り付ける。
「え、私平気だよ。河本君と平井先生と二人と同じ班で」
有紗は動じない。
「よし、判った。美咲が洋介と綾のところに移って中盤の層を厚くして変化をもたせよう。有紗が今、居ないひでとと平井先生の二人をフォローする形で。決まりだ。2、3、3のシステムで行こう」
あとは周りが同意してくれればいいだけの決断まで竹清会長がもっていく。
「いいんじゃない。それで問題ないよ」
まずはみゆきが賛成の意思表示をする。
「それならバランスもいいよね」
有紗も満足した様子で応える。
「洋介君、綾よろしくね」
班が変更となった美咲は異動先の二人へ挨拶をしておいた。
「おう、オレたち三人の頑張りがバイタルエリアへのクサビを打つことへと繋がるからね」
「う、うん、多分」
綾は洋介が竹清に合わせたノリなんだろうな、と想像はできるが意味が理解できないということは少しリアクションで示した。
「大丈夫、判らない部分は当日までに詰めよう」
そんなことを洋介が返し、班決めはそれで終了の空気となった。
「とりあえず、今日の議題は終わりかな」
そういいながら竹清がスマホを弄りだしてくれるから、生徒会室内は弛緩する。
「けいじ、なに見てるの?」
すぐにスマホを隣で弄り出されれば触れずには居られないから、みゆきが質問する。
「ほら、ひでと、今ここにいるよ、去年行ったよなぁ」
竹清はみゆきへとスマホの画面を見せる。
「それ、さっき見てるから」
河本が画像を投稿したのは、この生徒会のグループメッセージアプリであるから、みゆきは会議開始前に既に見ていた。
「懐かしいなぁ。今、ひでと、楽しんでるのかなぁ」
竹清は画面を見ながら呟いている。
「そういえば、河本君こないだ、一緒にジム付き合って貰ったとき、変だった」
みゆきが思い出したように呟いた。
スマホの画面を見ていた竹清の表情も一度、固まった。
「え、変だったって?」
みゆきが竹清へというより、みんなに向けて発言した分、洋介が率先してリアクションをとった。
「なんかねぇ、河本君、ポロシャツ着てて、背中にラインストーンでドクロの模様が入ってたんだけど……それを私に隠してた」
その話を聞いている役員全員、疑問符が頭に浮かんでいる表情をしている。
「カーディガンでも羽織ってた? 高校生でTVディレクターみたいなスタイルはやっぱ似合ってなかった?」
意味不明な部分を解消しようと、まずは洋介が積極的に問いていく。
「ううん。羽織ってない」
「じゃ、隠してるってどういうこと? 裏返しにでも着てたの?」
今度は美咲が、みゆきの話から想像できることを口にする。
「ううん、そんなおかしな着方してたら、私、すぐ言うよ。逆に着てるよ、って。違うの、普通に着てたんだけど、私にね、背中を見せなくてさ、だからホントに最後にその日別れるときに背中をみて、あ、ドクロ、って気づいたの」
まだまだ、全員疑問の表情をしている。
「ちょっと待って、それ、みゆきさんが.模様に気づかなかっただけじゃね? 河本君が自ら背中見せて、今日オレ、ドクロ背負ってるんです、なんて言う方がおかしいでしょ。そんなヤツいないよ。そんなヤツ、なんかに囁かれてる系だよ、そっちの方が変だよ」
洋介が努めて冷静に、自分の意見を述べた。頷いて周りもそれに同調する。
「違うの、そうじゃないの。その日ね、プールで泳ぎを終えて、その後、スイーツ一緒に食べて、映画も行って、河本君と居て、楽しかったの」
そのみゆきの発言は余計にみんなを困惑とさせる。
「それでね、最後電車で別れたときに背中を見てね、その、気づいたの、ドクロの模様に。すっごく河本君って素直でさ、ピュアっていうか、気取ってなくて。純粋って感じで、ホント、その日楽しく過せて。河本君の肩、借りて熟睡しちゃったくらいだし。だから最後にみたドクロの衝撃が……」
みゆきは周りを置き去りにしても、話しながら思い出しては、自分があの日に感じた違和感を確認していた。
「判った。みゆき、今度そういう機会があるときは事前にみゆきにドクロ模様を着るって言っておくようにひでとに伝えておくよ。あ、ヘビとか龍とかトラとか? そういう模様はどうなの? 事前に申告するようにする?」
竹清が諭すように問う。
「……ううん。……なんかそういうことじゃない気がする」
まだみゆきはあの日を探っている。
「確かに、無地って感じのイメージはあるね、河本君。でも、まぁ、ドクロとか着たい年頃でもあるじゃん」
洋介は自分が感じていることを口にした。
「私も河本君がドクロの模様入った服着てたら少しは意外に思うかも。そんなの着るんだって。ま、っていうか、学校以外で会わないから、私服とか見たことないのもあるし。どんな格好してても多少驚きはあるよね」
有紗も、一連のみゆきの話を聞いての感想を言った。
「うん、そう、だよね。河本君、黒のポロシャツにベージュっぽいチノパンで清潔感あって、良かったんだよなぁ」
みゆきはまた、あの日の河本を思い浮かべてみる。
「それじゃない? ドクロだけがみゆきが好きに思えないから変に思ったんだよ」
美咲も自分の意見を言ってみる。
「他の部分が良かった分、そこをマイナス? に感じちゃったんじゃないかな」
それは綾の発言である。みんなが意見を言い、みゆきの疑問のようなものを解消しようとする。
「そうかも、私が思い違いをして、最初に変だったとか言っちゃったけど、よく考えたら河本君に失礼だよね。ドクロは河本君の個性だ。認めないと。ドクロは河本君」
「みゆきさん、その言い方だと、ドクロって河本君だけが着るみたいな感じになってるから。結構オレもドクロ入ったの着たりもするからね」
洋介はみゆきが偏った誤解をしないように、という意識が働くからそう述べる。
「あ、そうなんだ。洋介君もドクロなんだ。けいじはドクロじゃない」
オレもドクロと認識された部分に引っかかるが洋介は我慢した。
「まぁあれだ、確かに今はドクロな服は着ないが、この先も絶対に着ないという訳でもない」
それは竹清の発言である。
「え、けいじも着るの? やめてよー。ま、似合うか、けいじなら」
みゆきが竹清の方に笑顔をみせる。
「はい、いただきました、ごちそうさまです」
洋介がのろけた発言をしたみゆきを茶化し、今日の二つの議題を終えて会議は終了となった。
河本秀人は旅に出ている。
二年生の行事で修学旅行に行っているのである。それで、いつもはここにいるはずの河本がいないから、みゆきがそんな話をしたというようなところである。
変だったというみゆきの発言に、何かを気付かれたのかと焦りもした竹清であったが、そうではなかったと分かると、またスマホを弄りだしては、河本にメッセージを送ったりするのであった。
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