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micelle  作者: Hyro
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53 この竹清な世界で


 53 この竹清な世界で



「本日は真倫高校吹奏楽部定期演奏会へお越し頂きまして、誠に有難うございます。生徒会長である私、竹清慶冶も、吹奏楽部のサウンドを味わいにここに来ました。皆様、一緒に楽しみましょう」

 ステージ中央で吹奏楽部の生徒たちの前に立っての挨拶を終えた竹清慶冶は客席へ一礼すると舞台袖に下がった。

 挨拶に関しては、竹清の中では充分無難といえるものであった。今日の主役は吹奏楽部なのだから、という思いが竹清に控えめな挨拶をさせたのであった。

 それでも、変に客席がざわついたのも、竹清の姿が見えなくなるまで拍手が続いたのも、その容姿によってもたらされたものである。

 演奏会が一部から二部へと移る少しの休憩の間を利用して空いている客席へと移動した竹清に、存分に視線が注がれた。観に来ている吹奏楽部の生徒の両親の多くも、娘からその評判を聞いており、確かに、という目で竹清を遠慮なく眺めたりした。

 客席には吹奏楽部の生徒の友達なのか、女子が多く、見られている、というのは意識のどこかで常にある竹清は席に座っていても足を組んだりせずに姿勢を正して演奏を聴いていた。

 生徒会長として参加をした今の状況を面倒くさい、客席の視線を鬱陶しいと思ってもいいのだろうが、竹清は微塵もそんなことは思っていない。道化のような扱いなのかもしれないが、単純にうちの高校の部に協力出来て嬉しい、という方へ意識は働いていた。

 二部から三部への休憩の間には一度席を離れて、ロビーに行っては彼女である高橋みゆきと今日をスポーツジムで一緒に過している河本秀人からどんな状況なのかをメッセージを送り合い確認したりした。

「今日はお一人で?」

 ロングソファーに腰掛ける竹清は声を掛けられた。スマホをいじっていた視界に入った青のヒール靴に顔を上げては声の主を確認する。

「ええ、一人なんです」

 答えつつ、竹清は話しかけてきた女の子がうちの高校の生徒ではないと判断した。

「噂にたがわぬ生徒会長でいらして」

 水色のワンピース姿のその女の子はまっすぐに竹清を見つめている。

「噂?」

「……竹清会長さん、あなたは格好良いと有名な人」

「じゃあ君は? 確か君はとびきりの美女って噂になってるコだね」

 そのワンピースの上半身のタイトな作りが引き出すボディラインに竹清は目がいった。ウエストのベルトの位置からフレア状に膝まで広がっているのも可愛らしい。

「私はそんな、全然噂になんかなってない」

「噂、なんていい……許されるなら、君に一目惚れしたい」

 言いながら竹清は立ち上がる。長身であるから自然と女の子は上目遣いで竹清をみることになる。

「お上手なんですね」

 その女の子は竹清の容姿に圧倒されては照れた表情を見せながらも満更ではない様子で答える。

「竹清慶治、真倫高校三年。生徒会長をしています」

 そのタイミングで竹清は自己紹介をした。

「……浅村恵里奈。來恩高校三年」

「そっか。同じ歳だ」

 それに恵里奈は大きく首を立てに動かして頷いた。

「演奏会終わったらもう少しお話したいな」

 竹清は提案する。

「ええ、私も」

「じゃ、また」

 そんな約束をして二人は客席へと戻った。

 席に着いて竹清は夕方からの予定変更の予感のメールを彼女であるみゆきではなく河本だけに送信する。

「会長、今日はご挨拶ありがとうございました」

 無事演奏会も終わり、竹清がステージの前まで行くと吹奏楽部の部長である水上亜美からお礼を言われる。

「とても素晴らしい演奏会だったよ。参加できて良かった」

 竹清は後ろで楽器を運びだしている生徒たちにも届くような声で伝える。聞こえた生徒は片付けをしながらも竹清に会釈をしたりする。

「この後、打ち上げあるんですけど、会長も良かったら来ませんか?」

「そうだな……」

 その時の竹清は演奏会に本当に感動もしていたので、参加をしようかという気持ちが強く働いた。

「あ、エリ」

 亜美は竹清から少し後ろに向かって手を振る。

 竹清が振り向けば先ほど話した浅村恵里奈が立っていた。

「幼馴染なの」

 恵里奈が呟くように亜美との関係を竹清に伝える。


 手配してあるトラックへと楽器を積んでは、定期演奏会が行われた会場から、顧問の先生や保護者の方の運転する車で各々吹奏楽部の生徒たちは真倫高校へ戻る事となる。

 トラックへ楽器を積む吹奏楽部の生徒たちから離れては、先ほどの恵里奈の立ち姿に、予感を追及したい気持ちが先立っている竹清は、河本に電話を掛けた。

「そっか、まだみゆきは泳いでいるのか。うん、ありがとう。済まないが、用事入っちゃって二人にこの後合流できない気がするんだ。みゆきはおそらく怒るだろうからうまくごまかしたい。あ、この後、みゆきと一緒に映画とか観たらどう? あいつ観たそうなのあったなぁ。あとでまたメールをするけど、ひでとは携帯の電池がなくなったとかいって、変に疑われないよう、みゆきの前でオレとやり取りしている感じを出さないでほしい」

 河本の「はい、承知しました」との返事に頼もしさを感じて竹清は電話を切っては、亜美と恵里奈の元へと行った。

 来る時は最寄り駅から歩いて来た竹清は亜美の母親が運転する車に乗せてもらうことになったのである。乗用車の後部座席に座る竹清の隣には恵里奈も乗っている。

 高校までの車中では、もう一人後部座席に同乗している前田楓希と前に座る亜美と運転する亜美の母親とで今日の演奏会について軽い反省会が開始されていて、竹清と恵里奈は黙っているのが良い選択とされる状態であった。

 竹清はさりげなく、時間をちょっと知りたくて、という風な感じでスマホを見れば、河本からの「みゆきさんは今プールをあがり、着替えています」という報告メッセージを確認する。

「じゃ、お母さん、エリのこと送ってあげてね」

 高校がもう目の前という所に停まって亜美と楓希は車から降りる。

 竹清もこれは自分も降りる流れになるのだな、と思い、体が動きかけたところで、恵里奈から手を握られるから、制止することになる。

「……会長はどこかの駅まで」

 亜美は竹清が車から降りて来ない様子を見てなのか、察知したように母親に付け加えた。

「それで、お願いします」

 竹清は亜美の母親へ依頼する。

 車は後部座席に竹清と恵里奈を乗せたまま走り出す。

「あーあ、会長行っちゃった」

 楓希が残念そうにする。

「サツキ、もうトラック来てるよ、楽器、運ぼう」

 先に戻っていた部の生徒が楽器を降ろしているトラックへと亜美と楓希は小走りに向かっていった。


 竹清は車の窓の外の景色に目はやっていても、このまま、この状況の流れに任せた先に何か待っているのか、というのが気になり、さらには、まずは今、黙っているだけではいけないという思考も働き、何か話さなくてはと言葉を探すが、中々出てこない。

「娘がね、生徒会長も演奏会に来てくれるってね、嬉しそうにしてて」

 先に切り出してくれるのは運転する亜美の母親である。

「いえ、自分も有意義な時間を過させていただき」

 竹清は倍以上人生を歩んできている人の大人の配慮に感謝をする。

「昨日もうちの高校の会長はすごくカッコイイって。夕飯の時に」

「そういって貰えるのは、有難いことです」

 大げさに誇張しているという訳ではないのだろうが、亜美の母が今は自分を喜ばせようと話していると判るから竹清はその優しさごと受け入れる。

「素敵な彼女もいるんだって? ピアノ? 弾くとか」

 運転しながらバックミラー越しに竹清を確認する。

「ああ、ええ、そうです」

 自分とみゆきが、誰かの家庭の食卓の話題にのぼっているという事実を目の当たりにし、照れに近いものを感じるのと同時に、隣にいる恵里奈の反応が気になりもする。

「エリちゃんもピアノ弾くのよ、ね」

 その言い方は恵里奈を竹清に紹介する、という感じである。

「はい」

 恵里奈がはっきりと返事をするから、竹清は恵里奈をしっかりと見つめることができた。長いまつげが印象的である。

「来月、コンクールの予選があるの」

 恵里奈は竹清の方を向いて話してきた。

「……そうなんだ」

 見つめてくる恵里奈の大きな黒の瞳に、吸い込まれそうな感覚にさせられた竹清は、これは何か罠なのか、という気がしないでもなかった。

「もしかしてカノジョさんもそれに出場される?」

 恵里奈が確信めいたように問う。

「うん、その予定で練習してる」

 それでも、その瞳の魅力に、吸い込まれても構わないと竹清は思う。

「そばで練習についててあげるのかな?」

 それは亜美の母の質問である。

「ええ、そうですね」

「なら、耳の肥えた竹清会長にカノジョさんと私の演奏を聴き比べてほしいな」

 また手を握られる。

「ぜひ。機会があれば」

「この後、少し時間作れる?」

「ええ」

 返事をする前に竹清は握り返している。

 その流れは『浅村家』と表札が確認できる家の前で恵里奈と一緒に降りる、という所にたどり着く。

「送っていただきありがとうございました」

 と恵里奈と共に亜美の母に深くお礼を言った。

 亜美の母の車が見えなくなってから、竹清は恵里奈の後に付いて立派な門を通っては敷地内へと入った。

 門から玄関へのアプローチから外れて恵里奈は歩きだした。

「ピアノは離れにあるの」

 お屋敷といった感じの浅村家の隣には確かに離れという形容が似合う建物が建っていた。

「どうぞ」

「失礼します」

 鍵を開けた恵里奈に従い建物内へと竹清は入る。

 元々は客室、といった感じのその建物は玄関をあがってすぐにトイレや浴室が左右にあり、歩いた先の部屋にはピアノがソファーの前に置かれていた。恵里奈が照明のスイッチを点けようとしないから、その部屋は、カーテンが遮光しきれていない日差しだけでは薄暗いといえた。

「……一緒に来てくれて、ありがとう」

 そう言っては背を向けている恵里奈は髪を片側に寄せ、ワンピースのファスナーを竹清に示した。

「これを任されるのは男として光栄だな」

 竹清は躊躇なく、そのファスナーを降ろすことを選択する。

「ありがとう」

 もう一度、恵里奈はお礼を言っては肩からワンピースを脱ぎ、最後は腰を振るように床に落としては上も下も青の下着姿になった。

 竹清は肩に手をやり、優しくゆっくりと恵里奈を振り向かせると、恵里奈は竹清の首に腕を回してきた。二人は顔を近づけあい、唇を重ねる。確かめ合って、ほんの少し離れては再び重ね合い、舌を絡め合った。

 そこで。

「シャワー浴びてくる」

 そう言い残して、恵里奈は浴室へと消える。

 竹清はソファーに腰を下ろしては、一度落ち着こうと深呼吸をした。

 シャワーの音が聞こえだして幾分冷静になってはスマホを取り出し「吹奏楽部の打ち上げも参加することになった。さすがに断れないよ」という内容のメッセージをみゆきへ送った。さらに河本には「これからしばらく連絡が取れなくなる。ニ、三時間みゆきがこっちへ電話できない状態が望ましい」とメッセージをする。

 それでなんとかなる気がする竹清は自分も色々と洗い流したい気になるから、制服を脱いでは裸にまでなって、浴室へと向かう。

 待っていた、という感じで恵里奈は向かい入れ、二人はシャワーを浴びながら激しく抱き合いキスをする。そのまま誰にも邪魔されることなく、二人の欲望は弾けあった。

 日は落ち、暗いだけの部屋のソファーで二人は横になっていた。

「去年のコンクール、あなたのカノジョは予選に通って本選に出場した」

「……知ってたんだ?」

「知ってる。喜んで、嬉しそうにあなたに駆け寄る姿をその時に見たの」

「……そうなんだ」

「……今年は私が本選に行くの。だからあなたに抱かれたの」

 裸のまま、恵里奈は起き上がると、ピアノに向かい、演奏を始めた。

 その姿から目を離せないものを感じても、手でズボンを探りスマホを取ってはみゆきに着信を入れた。

 当然、出るはずはなかった。



 


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