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micelle  作者: Hyro
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51 朧ろげに、受け止めて

 51 朧ろげに、受け止めて



 放課後となったばかりの教室で、机の上に置いたバックに成瀬萌は顔を突っ伏した。

 いつもの親しいクラスメイト同士で集まっては、他愛もない話に笑い合う姿を遠くから見る萌はそれがまやかしかどうかを探ろうとしてしまう。同時に、そんな思考を止めたくもなるから、中央やや後列の席の萌は、その姿勢が落ち着かないというような感じで右を見たり左を見たりをして視線を移しては一箇所に意識を置く事をしないようにした。

「辛いの? 大丈夫?」

 寺本利沙が萌の席まで来て顔を覗き込んでくれる。

 萌は、顔を向き合わせた利沙の、友達を心配するという表情に嘘がみえないことに安心する。こんな風に人に疑心的になってしまうのは体調が優れていないからだと、自分でも判っている。

「ごめん。ありがとう」

 だから、萌の感謝のその言葉は気持ちがこもったものとなる。

「ううん」

 利沙だって、同性なのだから辛さは判るし、顔色が悪くとも笑顔を作ろうとする萌に好印象を抱いているし、このコと友達になって良かった、と思っている。

 利沙だけを隣に立たせている訳には行かないと、萌は席を立ち上がる。

 そこへ。

「あ、成瀬さん」

 荻野が声を掛ける。女子二人の所に声をかけるのは少し勇気がいった。

「写真部の部室行くんでしょ?」

 萌は荻野が話しかけてくる理由が分かるから質問をして確認を取る。

「うん。成瀬さんも行く、よね?」

 話しをしていて、いつもの萌ではないと違和感のようなものを荻野は感じても、口に出す程はまだ親しくはないと思うからそれに触れることはなかった。

 さっきまではクラスのグループを観察する立場であった萌に荻野が近寄っていったことで、クラスにいる他の生徒たちから今度は逆に観察される立場となる。

 例えば、付き合い出してクラス公認にでもなれば、クラスの生徒たちからは敢えて知らんぷりをされるような、一緒に居て当然の扱いになるのだろうが、そこに到るまでは、どんな関係なのか敏感に好奇の目を向けられることになる。

「うん、行くよ。河本さんからのお誘いだし」

 笑顔を見せた萌は周りから注目されているのを感じとっては、表情を引き締めてから、荻野と利沙と教室を後にした。

「利沙もさ、寄ってかない、写真部」

「行って何するの?」

「こないだ、球技大会でオギーが撮った写真をね、見ようって河本さんから誘われたんだ。ね、オギー?」

 利沙と並んで歩く萌は、少し後ろの荻野に話を振った。

「うん。そう」

「あ、そうなんだ。すごい興味はあるけど、今日ちょっと早く帰らないといけなくて」

「そっか。残念」

 昇降口まで来て利沙とはそこで、別れた。軽く手を振り合い、バイバイをする萌と利沙に対して、荻野は「また月曜に」と硬く利沙に挨拶をした。

 そのまま萌と荻野は下駄箱への短いスロープを降りる利沙を見送るように眺めていた。

「行こっか」

 そう言って荻野が図書室へと向かって歩きだすのを、萌も付いていこうと歩き出した瞬間、立ちくらみに襲われ、思わず荻野の腕を掴んでしまう。

「あ、どうしたの? 大丈夫?」

 女の子に腕を掴まれたのだから、ドキっとはしても、やっぱり具合が悪かったんだな、とも思うから心配をする。

「あ、ゴメン。平気」

 萌は荻野から離れては強がった。

 下駄箱で履き替える際に確認のように振り返った利沙はそんな二人のやり取りを目撃してしまう。少しだけチクっとする痛みのような感情。決して嫉妬ではない。嫉妬とは違う。嫉妬とは認めたくない。そんなことを思いながら下校する他の生徒に混じり正門を通り抜ける利沙なのであった。


 萌と荻野が向かう図書室奥の写真部の部室では、河本秀人が先に来ていて、細谷稜と広報部の打ち合わせを行っていた。

「ユーザビリティ、アクセシビリティの双方の観点から生徒会のサイトの構築をし直したんだが、どう?」

「すっきりしていて見やすいと感じます。会長も大変満足していました」

 二人はPCで細谷が作成した生徒会のサイトを見ながら話している。

「うん。そっか。そりゃ良かった。しかもね、レスポンシブをしっかり意識してるから、どんな環境からアクセスして閲覧を行っても、こちらが伝えたいイメージを崩すことなく表現できてる」

 他の写真部の生徒たちも室内にはいて、二人からは離れた所でスマフォのアプリゲームをしたりマンガ雑誌を読んだりしている。河本と同学年の榎貴裕などは、部長である細谷と河本の会話が気になる部分もあるので、アプリをしながらも聞き耳を立てたりしている。

「この文字もシンプルで洗練された感じですね」

「フォント、メイリオの安定感は異常」

「はい。落ち着きますよね」

「文字や画面がうるさくならないように意識したからなー」

「はい。伝わってきます。細谷さんのそういうセンスすごいですね」

「任せてよー」

「で、ですね、これが各部活動の生徒の加入状況なので、更新の方よろしくお願いします」

「OK。余裕」

「更新も早いですよね、細谷さん。競技大会もすぐ載せてくれて」

「そう。そういうのはスピード勝負な所あるから。あ、あと荻野氏が撮った写真がいい感じでピンボケしてたのがあって、逆に変にエフェクト掛けなくてもサイトに使えたのが良かった」

「オギノシ。あ、あいつ、どんなの撮ったんですか?」

 氏という敬称に引っかかりはした。

「中学の後輩なんだっけ? 彼の撮った写真、ほとんど河本君だらけだよ」

 笑いつつも細谷はマウスを操作して、荻野が撮った写真を一覧で表示した。

「あ、これ左上の方が、最初のほうに撮ったんですね」

 思い切りぼやけた写真に河本は笑った。

 順に見ていくと、撮り始めの何枚かは何を撮ろうとしていたものか分からない画像もあったが、操作に慣れもしたのか、PC画面、右下の方には河本の動きを見事に捉えている画像もあった。荻野も河本と一緒にバスケをしていた分、河本がどう動くが予測できた点も関係していよう。

「河本君の良いプレイを必死に撮ろうというのが伝わってくる」

 細谷の真面目なトーンでの言い方が、河本にも伝わり、改めて画像を見直すと確かにそうだな、とも思わせるものであった。

「うまく撮れていると思います。ただ、なんか、恥ずかしいですね、自分の写真こんなに見るの」

 照れた表情を河本は細谷に見せた。

「いいじゃん。バスケうまいなんて高スペックじゃないか」

 細谷は話しながら、カーソルを下にやった。

「あ、オギーのシュート写真。あ、萌もいる」

 河本は自分が写っている以外の写真に反応する。

「お、そっか、この女神と知り合いか」

「はい、あの、クラス委員なんですよ、このコ」

 萌が目を瞑り、その前で手を握る写真を大きく表示する。

 そこで。

 部室のドアをノックする音が聞こえ、「失礼します」と荻野が入室する。

「お、来たか、荻野氏」

「はい、こんにちは。あ、河本さんもどうも、です」

「うん、今、オギーが撮った写真見てたよ」

「あ、そうなんですか」

「大分可愛く撮れてるね」

「え」

 話が伝わるように、細谷が画面を荻野の方に向けた。

「あ、祈ってる写真ですね」

 荻野は写真に写る人物が入ってこないので開けたままのドアの方を向く。

「……失礼します」

 その荻野の目線を合図と思い、一呼吸置いて萌は入室する。

「あ、本人」

 細谷は女の子が急に入ってきたことに驚きつつも写真の人物だと把握する。

「初めまして。え、私」

 画面の自分を見た萌が荻野を見て確認する。

「ほら、あん時撮ったじゃん、オレ」

「もう!」

 撮られていた事は知っていたが、入室していきなり、それを見せられもすれば、受け入れ切れない気持ちにもなり、荻野の肩を叩いたりして解消する。

「イタッ。結構強め」

「変なとこ撮んないでよ」

「良い場面じゃん。ほら見て、祈ってるよ」

「バカにしてる!」

 そう言って萌は、もう一度荻野の肩を叩く。

「こら、入室そうそうイチャつくな一年。そういうの禁止だからここ」

「そうだよ、写真部内なんだ。細谷さんの言うことは絶対だぞ」

 細谷の発言を河本がアシストする。

「……はい」

「で、荻野氏、そのコを連れてきた理由は?」

「その、自分が球技大会で撮った写真を見ようって」

「そうなんです。自分もちょうど来るんで」

 荻野の説明を河本が補足する。

「あー、そういうことか。撮った人と撮られた人が来たのか」

 荻野と萌も着席しては、ほぼ、河本ばかりの画像に混じってサッカーに出場した荻野がシュートする場面や萌の祈りのポーズをもう一度見ては一喜一憂したのであった。

 その間に、ポケット内の携帯が振動した河本は、それがファントム・バイブレーションなのかどうか確認すると、その振動は錯覚ではなく、『広報部の打ち合わせ終えたら、待ってるから生徒会室に寄って』という竹清会長からのメッセージなのであった。当然、それを読んでしまえば、河本はすぐに行かなくてはという気持ちが働くのである。

「今日は珍しく、写真部全員いるし、ミーティングでもしよっか」

 細谷が、窓側に固まっている他の写真部のメンバーにも声を掛ける。

「あ、じゃ自分と萌、席外します」

 これは良いタイミングと判断して河本は切り出しては立ち上がる。それを見て萌も倣う。

「あ、ごめん、河本君。すぐに済まして荻野氏帰すから」

「イエ。じゃオギー、そこで待ってるから」

「分かりました」

 それに河本は頷いては、ドアを出る。萌も一礼しては河本に続いた。

「すぐ終わるみたいだからここにいよう」

 ドアを閉めた萌に河本が告げる。

「はい」

 二人はドアの向かいの壁に設置された腰くらいの高さの何にも使われていない棚に体重を掛けた。

「ごめんね、なんか」

「何がですか?」

「いや、なんか急に写真見ようなんて誘ったりして」

「いえ、大丈夫です。オギーの写真、見たかったし」

「……あ、あと、さっきの総会で遥にだけ役目、頼んだみたいな形だったけど、別に変な意味ないよ」

「……はい」

「ほら、バレーってクイックって攻撃パターンあるでしょ。だから遥だったら素早く動けるかなーって思って頼んだんだけど。そのクイックとこのクイックが違うのは承知の上なんだけど……」

「……はい」

「あれ、どうしたの? もしかして具合、良くない?」

「……はい。ごめんなさい」

「あ、ゴメン。すぐに気がつかなくて。大丈夫?」

 河本は遥の方へ体を向ける。

「……ダメかも」

 遥は河本の胸へ顔からもたれ掛かった。

「立つもの辛いの?」

「……ううん。甘えたいだけです」

「そっか」

「さっき遥からメッセージ来ましたよ。河本さんが今言ったことと同じようなこと書いてあった」

「……うん。もし萌が気にしてたらって、遥も言ってた」

「……氷食べたい」

「氷? カキ氷?」

「ううん。普通の氷。無性に食べたい。口に頬張りたい。そんな時あるんです」

「そうなんだ……カキ氷だったら、今度どっかで食べようよ」

「……はい」

 そこで写真部となっているドアが開き、荻野が出てきて、河本の胸に顔を埋める萌を見てしまうのであった。

「あれ、もう済んだの?」

 ドアの開く音に反応して、萌がゆっくりと顔をあげながら荻野の方を見て話す。

「細谷さんが気を使ってくれたんじゃない?」

「はい」

 河本が補足して荻野が返事をした。

 慌てた様子のない二人に、見てはいけない場面を見てしまった訳ではないのだな、と荻野は理解する。

「オギー氏」

「はい? 氏? あ、細谷さんの呼び方を取り入れるんですね」

「ん?」

「すいません。河本さんのご自由にお呼びください」

「フフ」

 萌はそんな男子の先輩後輩のやり取りに心を和ませる。

「萌、具合悪いみたいだから送ってあげて」

「送ってあげて」

 萌がマネをする。

「今日顔色良くないよね、成瀬さん。ってあれ、河本さんは一緒には?」

「まだ生徒会の打ち合わせ残ってて」

「あ、そうなんですか。分かりました」

 昇降口の所で河本だけが生徒会室の方へ向かう為にそこで別れた。

 歩きながらも一度河本が振り返れば、下駄箱で何かを話す荻野と萌を目にし、その二人は、同い年のクラスメイトだから織り成せる青春模様という感じ映り、単純にいいなぁという気持ちになるのであった。

「河本君、お疲れ」

 生徒会室前で出てきた西野有紗と出会う。

「あ、お疲れ様です」

「竹清とみゆき、まだ生徒会室の中にいるよ」

 一緒に出てきた柳田美咲が教えてくれる。

「ありがとうございます」

 と一礼して二人を別れる。楽しそうに会話する声を背中で聞けば、あの二人もなんだかんだ仲の良いJKなんですね、と内心思うのであった。

 美咲から聞いた事もあって、ノックして生徒会室へ入ると、それまで抱き合っていましたというように高橋みゆきが竹清慶治から離れたりするのであった。

「お帰り。広報部の彼との打ち合わせは完了?」

 竹清が確認する。

「はい。大丈夫です」

「うん」

「じゃ、河本君、明日よろしくね」

 竹清と河本のやり取りを待ってみゆきが河本に言う。

「はい、畏まりました」

 河本の返事に微笑んでは、みゆきは自分のバックを持つ。

「有紗と美咲に追いつこう。教室あるから先行くね」

 一度手をふり、みゆきは生徒会室を出て行く。

「ひでと、頼みがある」

「はい。何でしょう?」

「明日定期演奏会で挨拶する内容これでいいか読んでほしい。ひでと目線で率直に意見してほしい」

「はい、分かりました」

「あと、みゆきの機嫌のとり方もレクチャーしとくから」

「助かります」

 竹清と河本は二人きりとなった生徒会室で雑談交じりに明日の準備をするのであった。

 図書室奥の写真部の部室では、榎が細谷にスマフォを見せてはレアアイテムが獲得できたことを報告していた。細谷がそれをオーバーに喜んでくれるから、河本や一年のカップルにようにみえる二人と馴染んで話していた細谷が、身近にいてくれることにホッとするのである。

 駅では、付き合っている訳でもない分、微妙な距離を置いて話しつつも、さっき見てきた写真などについて、それなりに盛り上がって話しながら電車を待つ荻野と萌がいるのであった。

 

 


お読みくださり、ありがとうございます。ご意見・ご感想をお聞かせください。今後の参考にさせていただきます。


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