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micelle  作者: Hyro
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45 薫風吹き通る


 45 薫風吹き通る



「巡回に行こう、ひでと」

 そんな声掛けを、生徒会役員が集合するテント本部で行い、竹清慶治は河本秀人を連れては球技大会が行われている校内の各場所を歩いてみることにする。

「ホントさ、けいじは河本君のこと好きだよね」

 テントに残された高橋みゆきは、そんなことを言ってもみる。

「でも、なんかいいよね。後ろを嬉しそうに付いて歩く河本君もかわいいし」

 西野有紗は遠くなった二人の背中をみては呟く。

「なに、腐目線?」

 柳田美咲は自分の分野に入ってきた有紗に食いつく。

「違う違う。そうゆうんじゃない。そうゆうんじゃないよ」

 拒むように有紗は即否定した。


 竹清と河本はまずはハーフグラウンドへと向かっていた。

 球技大会の行われるこの二日間。

 真剣な眼差しでボールを追う生徒たちを見るにつけ、またその応援で盛り上がる生徒たちの活気ある声を聞くにつけ、竹清を満ち足りた気持ちにさせた。

 学校のイベントの成功は生徒会長の立場として、喜ぶべきことなのは当然である。だからといって、その成功を自分の頑張りの甲斐あってのものだと誰かに褒めてほしい訳でない。ただ、生徒たちが本気になる姿が心地よいのだ。勝った喜びも負けた悔しさも、叶うならば一人一人の生徒にとって良い思い出となってほしいのだ。

 そんな事を思いながら、竹清はグラウンドを歩いている。

 ハーフグランドでは一年生のドッジボールが行われており、竹清と河本が訪れた時には決勝が終わった所であった。

 遠目からその様子を眺めれば、気付かれることは少ない。

 勝ったことに喜ぶ一年生たちを見る竹清の目は穏やかであるなと、隣の河本は思う。

 少しの間、その様子を見届けた竹清は、河本にテニスコートに行こうと声に出し、二人は移動する。

 テニスコートでは試合する生徒以外は金網フェンス外で応援している。

 行われているのは竹清と同じ三年生の生徒たちの試合なので、一年生以上に竹清という生徒会長が現れたことに気づく生徒も多い。

 水上亜美もその一人であった。ずっと伝えたいことがあったが、普段は見かけても端正すぎる竹清のルックスは近寄りがたく、機会を失っていった。それでも、今日はみゆきという彼女が隣に居ない分、チャンスだと思えるから、竹清がテニスコートを後にしようとすれば、追い掛けることにする。

「会長」

 その声に竹清は立ち止まっては振り向く。

 近付いて見る竹清の存在感に圧を受けるが、幾分、優しい雰囲気も感じ取れるから亜美は安堵する。

「定期演奏会に出席して頂けるということで、ありがとうございます」

 同じ歳ではあるが、竹清の容姿の前には敬語になってしまう。

「うん。吹奏楽部の演奏、楽しみにしているよ」

「はい。演奏前に、ニ、三分のご挨拶の方もよろしくお願いします」

「了解」

「ありがとうございます」

 一度、頭を下げた亜美が見上げると、少しの笑みを浮かべた竹清が頷いてもくれる。

 二人の会話を邪魔しないように伏し目で傍にいただけの河本も、そこではじめて亜美の方を見て頷いた。

 あなたのお望み通りになったでしょう、というような、その河本の頷きを視界の隅で認識した亜美は、河本にも一度目を向けると、またテニスコートの方へ戻った。

「何、会長に話しかけたの?」

 亜美の所に寄ってきた、同じ部の前田楓希にさっそく内容を聞かれる。

「定期演奏会に出てくれるからさ、先にお礼しといた」

 亜美は、試合をフェンス越しみては、楓希の問いかけに返答した。

「あの会長と話せるなんて、役得だね」

 楓希はそんなことをいう。

「……うん」

 それをうまくいなせないのは、どこかまだ竹清と話したことに興奮しているからだと、亜美は自分で分かった。少し落ち着きもすれば、竹清と話したということを友達の浅村恵里奈にメールしようと、そう思いはするのであった。


 グラウンドから校舎へ入った竹清と河本は昇降口で靴を履き替えては、体育館へと向かう通路を歩いている。

「河本君」

 会長に今度は名字で呼ばれたと河本は思う。

「はい」

「嬉しいね、あんな風に感謝されて……必要とされるって」

「はい。竹清会長の魅力あってのものだと思います」

 河本のその言葉に世辞のつもりは一切ない。

 竹清は半歩下がって歩く河本の顔を一度見てはまた前を見て歩き出す。

「生徒会長をしてなかったら、まず接点のないコとは話すことないし」

「……はい」

「この球技大会も……適当にカッコつけて、視線とか声援とかうっとおしそうにしてさ」

 その返事に困りつつも、河本は少し前を行く竹清を見ている。

「誰もこないような所みつけては、寝たりして時間潰すような……そんな感じだったんだよ、きっと」

 そこまで話した竹清は立ち止まって河本の方を向く。

 河本も、そんな話をしてくれる竹清と顔を見合わせる。

「オレは、生徒会長をやって良かったと思っている」

「はい」

 河本も竹清が会長をしてくれていて心底良かったと、そう思っている。

「……生徒たちが楽しそうにしている姿を見ると、不思議なほど、嬉しいんだ。歓声がオレの体の中を心地よく通り抜けていくんだ」

 そういって河本の肩を掴み揺すったりした。自分で話しておきながらも大げさにも感じてしまい、照れ隠しで、そんな行動を竹清はしてしまうのである。

「はい。会長の、そのお気持ちは、生徒たちに、伝わっていると、自分はそう思います。だから、自然に、生徒たちも、応えようとしているのだと思います」

 河本は肩を掴まれたまま、言葉を選んで感想を述べた。

「ありがとう」

 竹清が満面の笑みを浮かべて言う。

 その言葉に身震いをする河本であった。

「とんでもないです。感謝すべきはこちらです」

「いいんだ。こんな話を聞いてくれてありがとう」

 そういうと竹清は体育館への通路をまた歩きだす。

「竹清さん」

 河本は、珍しく苗字だけで呼んだ。

「どうした?」

 竹清が振り返る。

「……生徒会長に……立候補して頂いて……ありがとうございました」

 そういって河本は深く頭を下げた。

「それ言うタイミングって今?」

 竹清が笑って空気を軽くする。

「……すいません、このことをまだ言ってないことに気づきました」

「いいよ」

 そういうと竹清は前を向き歩きだす。

 みゆきにも、誰にも、まだ自分の中でもまとまっていないことを、ただ、口にしてしまったと思う竹清であったが、河本の真摯に理解しようとしてくれる態度には、この人物になら本音で言っても大丈夫だと思わせるものがあった。そして、それ以上に、河本も思いを返そうとしてくれる。こんな快い気持ちになる人との付き合いも、中々そうない、と実感をする竹清であった。


 体育館に二人が入ればすぐに、一年生のバスケの試合が声援とともに、目に耳に飛び込んでくる。

 その試合をする生徒の中に、河本は自分の後輩といえる荻野靖貴を見つける。

「もう決勝くらいかな」

 竹清が進行具合を気にする。

「自分、聞いてきます」

「いや、いい。オレが聞いてくる」

 竹清は自分の方が、得点係をする体育委員に近いこともあって、河本を制して確認に向かう。

「河本さん!」

 竹清の姿を目で追う河本は声を掛けられビクっとしてしまう。

「あ、ごめんなさい。そんな、驚かすつもりなかったんです」

 元気な声の主は成瀬萌である。入ってきた二人に気づいたのである。

「あ、メグミー」

「昨日見ましたよ、河本さんのバスケ。超ウマいじゃないですか!」

「観てたんだ? ありがとう」

 周りの生徒は試合に集中しているので、会話する二人はそれほど目立ってはいない。

「オギーと観たんです。あ、オギー、河本さんの写真たくさん撮ってましたよ」

 萌は試合中の荻野を一度鋭く指差ししては説明する。

「オギーが? そうなんだ。どんな写真撮ったのか一度部室にでも行って見せてもらわないと」

「フフ、ですよね。そんとき、私も一緒に行きますよ」

「うん、そうだね。行こう」

 はにかむ萌が可愛いので、自然と河本も、微笑みになる。

 その河本の柔和な表情は、いつもよりももっと優しいように萌には映り、キュンと胸にくるものがあった。

 それでも河本は竹清が気になるので目で探せば、バレーの方へと行ってしまっているのを発見する。

「あ、じゃ行くね」

 表情はそのままに、河本は去り際に小さくではあるが萌に手を振った。

 昨日のバスケの活躍も目にしている萌は、そんな河本がヒーローのように映った。

 

「あ、会長スイマセン」

「いいよ。なんか良かったよ。あのコと話す河本君。甘酸っぱくて」

「それはもう。機会を作っていただいた、会長のおかげです」

 そういう河本に、一度頷いてから、よし戻ろうと、二人は体育館を後にする。


「放送委員の方の堂に入った案内のお陰で生徒たちがスムーズに球技を行えたよ、ありがとう」

 放送室にも寄り、その労を竹清は称えた。

 そんなお礼も当たり前のように言える竹清を尊敬しては、グラウンドに戻りながら、河本は考える。

 自分の方こそ、こうして生徒会にいるから、充実した毎日が送れていて、もし、入っていなかったら、ただ、机に座っているだけの、それでも、それをつまらないとも思わないそんな生徒のままであったろう。今、当たり前のように女子役員と親しく会話できるのも、自分も役員だからであり、萌のような、遥のような、二人と知り合えたのも生徒会での行いの中での事である。生徒会以前は異性と会話する自分など、とても想像もできなかったであろう、とそう河本は思う。そして、竹清さんが立候補したから、自分も役員へ立候補したのです、とさっきあの時に伝え切れなかったこと思い返すが、あの場でそれは重過ぎる気もするから、またの機会にと、胸に秘めるのである。

 

 グラウンドではサッカーで三年生の一位を獲ったクラスと、男性教諭たちのチームによるエキシビジョンマッチが行われていた。

 体育教師以外の先生がサッカーをするという普段は見られない一面ということで、生徒たちは盛り上がっていた。

 テント本部からは平井がその試合の様子を見ていた。

「あ、先生もグラウンドに降りていらしたんですか?」

 本部に戻った河本は、こんな美人教師と話せるもの生徒会にいるお陰だと、そう実感しながら平井に声をかける。

「うん。あ、西野さんから聞いたよ。河本君、バスケ大活躍だったんだって? やる前に先に言ってよ、観に行ったのに」

 そういって、平井は河本の腕あたりを押す。

 ホントに観たかったというように残念がってくれる平井の様子が今の河本にはとても嬉しく思えた。

「……ボクも先生に観てもらいたかったな」

 ポツリと呟いたそれは正直な気持ちがこもっていた。

「……うん。じゃ、来年、ね」

 そんな河本の姿に、平井は思いつきのように約束をする。

「先生、それ言っといて絶対忘れますよね」

 急に明るく河本がそんなことを口にする。

「君さ、時々、私をバカにするよね? こっちは教師だからね、そのこと河本君、分かってる?」

「分かってます。平井先生。先生は生徒会の顧問でいらっしゃいます……」

 その後に平井先生が顧問で良かったと、そう続けて言いそうになるが、それを言うのは今ではないと思うから、河本は試合に目をやった。

「うん、そう。分かってればいい」

 そういって平井も河本のように試合の方へ目を向ける。

 同じテント内にいる有紗や綾は二人のじゃれ合いを目撃するが、その二人のやり取りがあまりに自然なので、口を挟めないでいた。二人の関係を気にしていた綾は、自分の入る余地のないほど強固なものになりつつあるのを感じるのであった。

 美咲は、戻ってきた竹清がみゆきと話す姿に嫉妬をし、堀洋介は、関われば無駄に疲れるような気がするからテントではなく、クラスからその試合を見学しているのであった。


「生徒諸君の超本気、確かに見せてもらった。本気だから勝てば嬉しいし、負けたら悔しい。シンプルで単純なことだけど一番盛り上がる。皆のそんな姿に、昨日今日、自分はとても良い気分で過ごせました。ありがとう」

 竹清の生徒会長として締めの挨拶があり、球技大会は二日間の日程を終えた。



お読みくださり、ありがとうございます。ご意見・ご感想をお聞かせください。今後の参考にさせていただきます。

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