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micelle  作者: Hyro
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37 のどかに歩けば


 37 のどかに歩けば



 学校近くのコンビニから竹清慶冶が買い物袋を持って出てくる。その後を追うように、温めて貰ったものを受け取った河本秀人が色の違う袋を持ち出てくる。店先の交差点のところで待っていた竹清は、歩いてくる河本をただ穏やかに眺めていた。

 この日は祝日であったが、生徒会は集まっている。息抜きに二人はコンビニに買い出しに出かけたのだ。

「ひでと」

 竹清が河本をそう呼び、袋からひとつ取り出したシュークリームを河本へふわりと投げた。

 河本は戸惑いつつも、袋を持っていない方の手で受けとめる。

「食べよう」

「はい」

 竹清は自分の分も袋から取り出し、歩きながら二人はそれを食べた。良い感じに冗談っぽく秀人と下の名で呼べたな、と内心思っている竹清である。

 河本は、今の一連の行為を軽い青春ごっこのように受け取ったが、そんな事をしてくれる竹清が嬉しかった。

 午後の時間。陽光は緑の増した街路樹を鮮やかに照らしていた。

「この調子なら、戻ってチェックを終わらして明日から配れそうだ」

「はい」

 河本は横を歩きつつも、シュークリームを細い指で持って食べる竹清の姿に魅せられていた。かじり付く様子もエレガントなのだ。自分はクリームがはみ出してしまい、恥ずかしくなる。

「二日間くらいで各部へ配って、それを見た主将なり部長なりに何か意見があれば言ってくるだろうし。それに対処すれば良い」

「はい」

「たださ、木曜はオレいるんだけど、金曜午後から撮影だから、学校休むつもりでさ」

「そうなんですか」

「もし、その日になんか言われたら話を聞いてといてくれる?」

「承知しました」

 河本は返事が良いだけでない、ちゃんと伴っていると知っている竹清は任せても大丈夫だと安心する。

 リーダー研修会を終えた生徒会一同は祝日の一日を休むと、次の日からの放課後は、六月に行われる生徒総会への準備を進めている。

 生徒会から各部に割り当てる部活動費の草案を作成し、それを各部の代表に配布し、予め了承を得、当日の生徒総会では発表するだけの状態を目標として準備している。各部の代表にヒアリングを行うようなことも、意見交換の場も設けては居ない。竹清会長がなぜしないかと言えば、それをしてしまえば、上手なアピールやプレゼンができた部を優遇してしまうような気がするからである。そんな所に部の代表に神経を使ってほしくはない、またそんな面をみるのは忍びないというのが竹清会長の気持ちである。すなわち、竹清は去年の実績を確認しつつも、自分のひらめきに頼っているのである。

 五月に入っての連休も、生徒会活動は午後からだけと決め、負担にならない程度に学校に集まっていた。 

 そんな風に効率良く集中し根を詰めて頑張った甲斐もあり、明日からは各部へ配布できそうな形が見えても来た。

 竹清と河本は学校に戻り、昇降口で靴を履き替える。

「この練習はこれに向けてかな」

 下駄箱の横にある掲示板に貼ってある定期演奏会のポスターを見つけて竹清が言う。

 吹奏楽部の演奏する音色がそこまで聞こえていた。

「でしょうね」

 竹清の近くまで来て何の話か理解した河本が答える。

「楽器って値段するだろうしね。少し上乗せしてあげようか」

「はい」

「この演奏会も興味がある。絶対有意義なものだよね。ぜひ出席したいな。六月八日、河本君、一緒に行こうか?」

「はい。自分は大丈夫です。みゆきさんもですよね?」

「みゆきは絶対行かない」

「そうなんですか?」

「吹奏楽とピアノは相容れない部分があるとかないとかで。だから、これにオレが行くっていうと嫌な顔すると思う。ちょっと今の保留で」

「分かりました。難しいんですね」

「むしろ、吹奏楽部から参加要請でもあればいいんだが……」

「そうですね……吹奏楽部の方にうまく確認を取ります」

 そんな吹奏楽部に興味が湧いた竹清であったが、生徒会室へ戻る際に、出入口にあった意見箱を確認すると、天文学部からの、『昼間に黒点の観測できる天体望遠鏡を購入したいです』という投書を見つけ、天文学部が今は夏と冬の合宿くらいしか活動してないのを知ると手助けしたくなり、少し自由にできる予算を天文学部へ組み込むことへとなったのである。

「うまく行けば感謝をされて合宿に参加できたりするかもな。こないだ研修会の夜に見た星空はきれいだった。夏は天体望遠鏡で河本君も一緒に見よう」

 と竹清は、すでに合宿に参加する気満々になっていた。


 次の日の放課後、各部へ割り振る予算の草案を有紗とペアで配布を行った河本は、定期演奏会の事もあり吹奏楽部を担当したのであるが、吹奏楽部の練習する音楽室へ行った所、部長が不在で、有紗が顔見知りで副部長という肩書の前田楓希に渡した為に定期演奏会の参加の意思をその日伝える事ができなかった。


 金曜日となった。

 顧問の平井紀子が生徒会室隅の机の上に、切り花を透明な花瓶に挿し飾った。

「ハートの形してる。可愛い」

 有紗が花びらの形を言葉にする。

「ホントだ。ハートにみえる。なんていう花なんですか?」

 河本が平井に質問する。

「アンスリュウム」

「へぇ、耳初」

「はい、初めて聞きました」

 有紗と河本がそれぞれの相槌を打つ。

「ここに飾ったらキレイかなと思ってね」

「はい、この空間が華やぎます」

「フフ、私が来れない時は河本君が水を替えてね。長持ちさせよう」

「はい。かしこまりました」

 平井の微笑み混じりの依頼に河本は答える。

「今日は何かするの?」

「いえ、今日は特に。お仕事あるのでしたらそちらを優先して頂いて」

「じゃ、職員室戻る」

 そういって平井は生徒会室を出ていく。

 パソコンの画面に向かう美咲は作成したファイルの誤字脱字の確認に集中しつつなので、今のやり取りに参加しなかった。

 平井と入れ替わるように洋介が入って来ると、「吹奏楽部部長が部費の件で話しあるみたいなんだよねぇ」と皆に伝える。

「わかりました。自分が行きます」

 と答えた河本はすぐにも出て行きそうなので、洋介は「音楽室の隣りの準備室にいるって」と付け加える。

「ありがとうございます。時間が掛るかも知れません。みなさんは先にお帰りください」

 河本はそう言うと生徒会室を出て行った。

「河本君ってすごいよな、今ので把握して解決しちゃう気だ。話しのできる人間だな」

 洋介が呟く。

「ね、なんだかこわいくらい」

 平井にはへつらうような姿勢であったのに、一瞬で切り替える河本の姿を見た有紗もそれに同意する

 そんな二人の会話も短く終わると、洋介は先輩に遊びに誘われてという、有紗も彼氏とデートという、それぞれの理由で帰って行った。元々、今日は集まりの予定ではないので、綾は来てもいない。

 生徒会室に一人になった美咲にとってそれらはどうでもよかった。

 ただ、美咲は今日ここに来た時に有紗から聞いた竹清とみゆきが二人揃って学校を休んだという事になんだか強く嫉妬してしまい、許せないような気持ちで、ただパソコンを眺めていた。

 パソコンで作成するファイルには『生徒会長竹清慶治』と入力を何度も美咲がしてきた。おそらく本人よりしているだろうとそれは思われる。そのパソコン画面上でその名前を見ると今日はとてもムカムカしてしまい、チェックも面倒な気分になり、ファイルを閉じるとブラウザを開いて好きなアニメのサイトをぼんやり見たりしていた。

 少しすると河本が戻ってきた。

 サイトに意識がいっていた美咲は河本の方を見る事はなかった。

「あ、美咲さん、残っていらしたんですか」

 河本が話し掛けてくれて、そこで誰が入ってきたのか気付いたような所である。

「うん。お帰り。大丈夫だった?」

「あ、はい。大丈夫です」

 そう事もなげに答える河本に、美咲は思っている事を言いたい気持ちになる。

「ホント、ズルいよね。面倒なことは河本君に任せて。みゆきも今日休みだし。二人で何してるんだろう」

 美咲は竹清とみゆきの愚痴を言う。

「あ、これ知ってます。これあれですよね。マンガが人気でアニメも放送してて。こないだ映画化して」

 河本がその話題を嫌がるようにすり替える。

「え、河本君知ってるの?」

 ならばと、美咲はその得意分野の話をとことん聞かせてやろうという気持ちになった。

 話しをしつつ、パソコンの電源を切ると、河本に帰ろうと促し、学校を一緒に出て駅へ向かえば、「お腹が空いた」と駅隣りの商業ビルの一階にある舞鶴うどんというお店に二人で入り、そこでうどんを食べることにした。

 腹ごしらえを終えると、その上の階にあるゲームセンターで、お気に入りのアニメのキャラのフィギアを取ろうとクレーンゲーム機をやるのも付き合ってもらった。

 一人では抵抗があり、友達にも付き合っても貰うのも悪い気のすることを、河本はそれなりに笑顔を見せて付き合ってくれ、自分の話しにも理解を示し聞いてもくれ、さらには、ひとつ狙いのフィギアが獲得できたのもあり、美咲は大分、気分が晴れてきた。

「河本君、なんかいきなり付き合ってくれてアリガト」

 機嫌の直った美咲は駅のホームへ着く頃には、急に振り回したお礼を言いたくもなる。

「いえ、新鮮で楽しいですよ」

 と平気な様子で河本は言ってくれる。

「じゃ、今度はヒトカラに二人で行こうよ」

 そんな河本に新たな提案をしてしまう美咲であった。

「はい、アニソン聴かせてください」

 二人でヒトカラにつっこむ事を河本はしなかった。

 それでも、反対の電車に乗る美咲がフィギアの袋を持ち、こちらへ手を振る姿は可愛いと思った。

 

 電車を降り、自宅までもうすぐという歩きの途中、竹清から連絡を貰った河本は、吹奏楽部の件を報告する。

「ありがとう。面倒かけたね。お礼に今度会った時に香水を渡すよ。今日サンプルで貰ったんだけど。フリオ・バレンタインといって女の子がキスをしたくなっちゃうような香りらしい」

「すごいですね」

「甘い香りでね。ちゃんと寄ってきてくれたコにキスをしてあげるんだよ」

「分かりました」

 電話を切ると、河本は竹清がいつも強い香りを漂わしてる事を思い出し、自分もそんな一面があっても良いな、と夕暮れの地元を歩きながらウキウキした。


 


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