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micelle  作者: Hyro
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36 亜美のタスク

 36 亜美のタスク



 水上亜美がクラリネットのパート練習を行っている音楽準備室へ同じ吹奏楽部の前田楓希がやってきた。

「ねぇ亜美、今大丈夫?」

「うん」

 駄目などと言ったらややこしいことになることは分かっている亜美はそう答える。

 もう練習の終了時間は過ぎていたので、楽器を片付けている生徒もいる。

「生徒会費からの割り当てられた部活動費見たでしょ?」

「うん」

 やっぱりその事かと理解する亜美である。

「あれじゃ去年と変わらないじゃん。言ったんでしょ亜美? 上げてくれるように?」

「……言ったよ」

 確か、隣りのクラスの会計の堀洋介君にお願いした記憶はある。

「一年生だって二十人以上入部してさ、六十人以上いるんだし、楽器だってもっとあるに越したことはないでしょ。皆だってリードは部費で賄ってほしいよね?」

 そういってクラリネットのメンバーを唆す。

「ええ、まぁ」

 二年生の生徒が曖昧に返事をする。

 そりゃ私だってそうだ。と言いたい亜美である。

「もう一回さ、ダメ元でも良いから言ってよ、会長に。あ、あとさ、定期演奏会にもさ、会長に参加してもらって、冒頭で挨拶でもして貰えるよう頼んでよ。あの会長来るのと来ないのじゃ、絶対客足違うから」

 そんな風に言いたいことを言うと楓希は去っていった。

 亜美は自主練習する気もなくなり、楽器を片付けると、学校を後にした。

 水上亜美は、吹奏楽部部長である。

 部長になってからは色々負担が増え、大人数をまとめるのに汲々とし担当楽器の練習にも今ひとつ集中できていない状態である。

 先程の前田楓希は、自分が部長に任命された事にやっかみでもあるのか、パート長であり、幹部としての責任感なのか、いちいち何かと言ってくる。定期演奏会で行う曲目やら、新入生のパート分けやら。幹部同士、組織の風通しを良くする為にも、思った事や不満ははっきりと言い、話し合って解決しよう、とこの体制になってから言いだしたのは彼女だ。それは確かに必要な事だとは思うが、絶対、割を食わされていると思うのは亜美である。

 だいたい、部活動費だって少なくされた訳ではない。去年と同じでなんの文句があるのだ。文句があるのなら、自分で言いに行けよ、と言いたい。が、言った所でそれが部長の仕事でしょ、となるのは分かるから、黙っているしかない。

 しかも、あの会長に定期演奏会にご臨席の上、ご挨拶賜るよう願い出るのも私の役目ときた。無理に決まっている。外には吹奏楽部内での権限や雰囲気など通用しないのを分かっていてそれを頼めと私に言うんだ、と考えると亜美は荷が重くなる。

「亜美、久しぶり」

 地元の駅で降り、バス停に並んでいると、小、中学が一緒で高校では別になった同級生の浅村恵里奈に声を掛けられる。

「あ、エリ、今帰り?」

「うん、ピアノ教室帰り」

 家が近所な二人は幼馴染とも言える関係であり、部活内では必須の気遣いはそこまで用いることはない。

 バスがロータリー内に入り、バス停の前へと停車する。

「どう、演奏会の準備忙しい?」

「部内もそうだけど、外交っていうの? それが大変」

「うわ、メンドそう」

 乗車口のドアが開き、他の乗客に混じり、二人も乗り込むと、真ん中よりやや後ろの席に並んで座る。

「あー、明日、生徒会長にお願いしに行かなきゃ」

「アミの高校の会長って超イケメンで有名なんだよね」

「うん」

「雑誌に載ってるの見た事あるよ」

「うん。そう。人気あるから定期演奏会に出席して貰うようお願いするの」

「あ、良い案だね、定期演奏会、来月だよね?」

「うん、来て」

 亜美はそう言い、恵里奈の顔を覗く。いつ見ても、その長いまつげが瞬きに合わせてパチリと音を発するかのようで羨ましくなる。

「行く行く。会長も絶対呼んでね。生で見てみたい」

「うん、でもそれあんま期待しないで。分かったら連絡する」

「私のピアノも、夏にコンクールがあるから見に来て」

「うん」

 亜美は中学に入ると習っていたピアノを辞め、吹奏楽部に入った。恵里奈は部活には所属することなく、今もピアノを続けている。二人がそれぞれ決めたその選択を、互いに尊重し合い、どちらの選択が良かったのかなどは口にしたことはない。二人は、ずっと、友達で居たいから。

 バスを先に降りるのは恵里奈である。

 走り出したバスの窓から亜美は手を振り、歩きながら、恵里奈もバスの亜美に手を振った。


 次の日。

 亜美は一限目の休み時間になると、隣りのクラスの会計の洋介の所へ行く。簡単に話して、もう用事を済ませてしまおうと思ったのである。

「堀君」

 教室へ入ると、一番前の席に洋介を見つけたので声を掛ける。

「あ、あれでしょ、部活動費の件でしょ?」

「うん、何度もごめんね。なんとかならないよね? 別に個人的には去年と変わらないし構わないんだけど」

 その教室には吹奏楽部に所属する生徒もいるので、その亜美と洋介の会話を見ている。亜美は、こうしてちゃんと生徒会の人間とコンタクトを取っている、という姿勢を見せているのである。

「うん。ごめん、オレ権力ないんだよー。会長と話す?」

 もっともな事を洋介が答える。

「あ……うん」

 やっぱりお願いすべき事もあるので、会長と直接に話しをすることになるよな、と亜美は考える。

「あ、今日会長休みなんだ」

「……そうなんだ。じゃ別の日だね」

 そうやって何事も簡単には済まないので面倒な気持ちになる亜美である。

「今日で、大丈夫、話しができる人間が、放課後聞きに行くよ。どこに行けばいい?」

「あ、えっと、音楽室の隣りの部屋で練習してるんで」

「うん。了解」

 話ができる人間という言い方が気になりもするが、短い休み時間なので、見ていた吹奏楽部の生徒に軽く手を振り、自分の教室へと戻る亜美であった。


 その日の放課後。

 生徒会の人間がやってくるという事はどこか頭の片隅に置きつつも、亜美はクラリネットのメンバーで集まり、練習を行っていた。

 一曲演奏を終えた所で、ノックの音がして、来たんだな、と思う亜美は皆には練習を続けるように言いつつ、楽器を置いて立ち上がり、扉まで行き、開ける。

「生徒会の河本です」

 亜美が扉を開けると同時に丁寧にお時儀をしたのは河本秀人である。顔をあげた河本と顔を見合わせた亜美はこのコが話しのできるコなのか、と思いつつも、なんだか納得させられてしまう部分もあった。

 一度、室内へ入り、中庭に面しているサッシ扉から二人は出て、上履きのままなので、出てすぐの床タイルになっている所で話をすることにした。それならば、サッシを閉めているので話は聞こえずとも、練習する他の部員から姿は見えるので、亜美にとっては生徒会と話しているアピールができて良いのである。

「部活動費の件、洋介さんからお話を伺いました。吹奏楽部さんは部員数も多く、また熱心に練習をしている姿も拝見しています。生徒会として、大会でのご活躍を期待しております。会長も増額を第一にと考えていたのですが、他の部との折り合いがつかずに、去年と同じと言う事で、吹奏楽部部長におかれましては満足のいくものではないと思います。申し訳ございません」

 そういって河本は頭を下げた。

「いや、うん」

 部活動紹介の時にやり取りした際の河本の淡々と用件を伝える感じを思い出し、このコってこういうコだよなっと思い出すのと同時に最近のうっ憤からサディスティックな気持ちが亜美に湧いてきた。

「んっとさ、増額してもらったら、ホルンとかの人数増やしたりとか、パートを増やして厚み出したかったんだけど」

 顔をあげた河本に亜美は言う。

「はい、申し訳ございません。今年度はどうかこれで」

「今年度って三年の私には今年が最後だけど?」

「はい……ですが、吹奏楽部は来年も、再来年もと続いて行きます。ですよね? 今までの積み重ねがあり、今があるのです。それとも今年だけの話でしょうか?」

「あ、わかった、わかった」

 この生徒と余計な話をするとマズい気がしてきた亜美である。

「ご納得して頂けたのでしょうか? 今回、我慢して頂いた分は来年お返し致します」

 また一礼する河本である。

「来年って……」

 そこで亜美が口を噤むのは来年、生徒会長を務める河本を想像できるからである。それは先の話であるが、今の亜美は片付けなければいけない事がある。

「条件がある」

 再び顔を上げた河本に亜美は言う。

「なんでしょうか?」

「私、水上亜美は吹奏楽部部長として、来月に行う定期演奏会に竹清会長に出席して頂き、挨拶を賜りたく存じている」

 亜美は最大限尊大な態度を取る。

「はい」

「会長が出席してくれるなら、部活動費の件は了承する」

「かしこまりました」

「……会長に伝えてくれるの?」

 そこで普段のモードに戻った亜美である。

「いえ、会長は定期演奏会に出席致します」

「本人に確認取ってないけどいいの? 急に他の人間が出ても駄目だよ?」

「大丈夫です。竹清会長の出席をお約束します」

 この河本がそこまで言うのなら出席は守ってくれそうなので、今日の練習を終えたらエリに知らせようと思う亜美であった。


 話を終えた河本は生徒会室へと戻った。ドアを開けると、美咲が一人パソコンの画面を見ていた。河本がドアを開け入ってもまったく微動だにせず画面を見ている。

「あ、美咲さん、残っていらしたんですか」

「うん。お帰り。大丈夫だった?」

「あ、はい。大丈夫です」

「ホント、ズルいよね。面倒なことは河本君に任せて。みゆきも今日休みだし。二人で何してるんだろう」

 美咲は画面を眺めたまま呟く。

「あ、これ知ってます。これあれですよね。マンガが人気でアニメも放送してて。こないだ映画化して」

 話を替えたい河本は、美咲がなんとなく見ていたアニメのサイトに触れた。

「え、河本君知ってるの?」

 河本の投げかけに目を輝かせた美咲が、そのアニメについて熱く語り出すので、その後しばらくの間、美咲の気が済むまで聞かされる羽目になる河本であった。




お読みくださり、ありがとうございます。ご意見・ご感想をお聞かせください。今後の参考にさせていただきます。


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