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micelle  作者: Hyro
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34 立ち込めるもの


 34 立ち込めるもの



 今回のリーダー研修会のメインと言える会議が十九時より始まり、竹清、みゆきが議長を務め、年間の主な行事を順に説明をする。文化祭や体育祭などはその担当となっている先生も時間を割き、各クラスの代表へ心構えを説明した。いつからその準備を始めるのか知り、何を準備しなければいけないのか考えるのである。それは各代表へ責任感を意識させ、心地よい緊張感を与えた。

 一時間程で一度休憩を取り、その後は、ボランティア活動についての説明が行われる。長期的なものや単発的なものも含め、地域社会と交流し、真倫高校がどんな貢献をしているのか学校の公式サイトや文化祭などでアピールするのである。今までの実績も踏まえ今後の展開を南淵が説明する。

 夕飯を取り二十時を過ぎたこともあり、睡魔に襲われる生徒もいたが、南淵が生徒たちの前で話しをする姿は少なくとも男子の目は覚まさせた。

 河本の座る位置からは南淵の奥、会議室の隅で前を見据えている平井が目に映ることになる。ボランティア活動の生徒会としての関わりを説明する際に、平井は発言したが、必要な事を生徒が理解できるように抑揚なく粛々と伝えるものであった。それは、授業を受けている生徒たちには、いつもの平井であるのだが、南淵が不慣れながらも懸命に伝えようとする姿勢な分、大分対照的に映った。

 二十一時が近づき会議はお開きとなる。各自部屋に戻り、眠るまでの語らいの時間で今後の意見交換を行ってほしい旨の説明が竹清からあり解散となった。生徒たちは席を立ち部屋へと移動を始める。

「河本君はさ、ここの準備してくれたから、片付けは綾とやっとくよ」

 竹清から部屋の原状回復の説明を受けた洋介が、河本の席まで来てそんな事を言ってくれるので、河本は自由にできる時間となる。

 その様子を見た萌は声を掛けようとしたが、河本の後ろの席の成美の睨みを感じ、

「先輩、おやすみ」

 と手を振り、会議部屋を遥と出て行った。

 洋介と綾がテーブルを戻そうと後方へ行くのを目で追おうとした河本は、座ったままの状態で後ろを振り向くと成美がこちらを凝視していた。

「……清水成美さん」

 至近距離で成美に見据えられた河本は、何も言う事が浮かばずに思考が停止してしまい、彼女の名前は知っていたので、とりあえず、呼んでみた。

「はい」

 成美はそのままの表情で答える。

「メールくれたのに、なんか返せなくて、ごめん」

 成美のその瞳にとりあえず謝ってしまった河本である。

「……うん。ちゃんと届いてたんだ?」

 河本の顔色をうかがう言い方に、成美は素直に表情を緩ませる。

「あ、うん、届いてたんだけど。あ、なんか飲みながら話す?」

 その顔色の変化を見た河本は立ち上がり、成美に提案する。

「うん」

 実際、成美がどんな人間か分からないので、周りに他の生徒がいない方が良い気がする河本は成美と部屋を出る。その際、先生方と打合せをしている竹清に会釈をすることだけは忘れない。

 平井は、年配の先生が明日の流れを竹清に話すのを聞きつつも、部屋を出ていく河本が後姿となってから一度目視した。


「君の姿見えなくてさ。メールの返信もなくて。寂しかったな」

 歩きながら、そんな事を成美はいう。

「……うん」

「うん?」

 成美はもうちょっと良い反応がほしかった。

「清水成美さんは……」

 一緒に歩いていて河本は感じることがあった。

 滝を一緒に観に行った萌と遥の二人は一年生ということもあって制服のブレザーもスカートも初々しくきちんと着用していたが、成美は室内という事もあり、グレーのカーディガン姿である。リボンを緩め、ブラウスのボタンも上の二つくらいを開けている。スカートの丈も短い。紺のハイソックスがスラリとした足を強調する。着こなれている。そういうこなし方をする生徒は普段も学校で目にするが、こんな初めて来た宿泊施設の夜の廊下をこうして二人で歩くと淡く艶かしい印象を受ける。睨まれても嫌な印象を受けないのは、このコが可愛いからだと思う。

 成美は、河本が自分の名前をまた呼び、その後に何かを言おうとして考えている様子なので言葉を待っている。

 そのままラウンジの自販機前に着いた。河本は硬貨を入れる。

「好きなのどうぞ」

「ありがと」

 成美はコーラのボタンを押す。そんな気分であった。

 続けて河本が黒のコーラのボタンを押した。

 河本がプルタブを開け飲み出す姿をみて、成美はこのまま待っていても無駄なような気がし、さらには言いにくい事を言おうか迷っているのだと分かる。言いにくい事。それはあれだろうと成美は思い浮かべる。

「ねぇ」

「ん、何?」

「さっき何か言おうとしなかった?」

 もう促がしてしまう成美である。

「あ、うん。そうだね……」

 今度は河本が成美のコーラを飲む姿を見る。凛としている。缶の付く唇、顎のラインが妙に色っぽくて目を奪われる。

 蠱惑的なのだ。その自分の魅力が男に通用するのかを試しているのだ。こんな風に身近な手頃な男に。

「違うよ」

 成美が否定する。

「違う? 違うって?」

 河本は心では色々思ったが、何も口には出していないのに否定される不思議。

「ブレザーから君の携帯取ったから、そんな風に警戒してるんでしょ? でもあんな事普段しないし、初めてだし、そんな癖ないし。だからそんな危ない女じゃないよ。誤解してるよ」

「……あ、そうだね」

 河本はその事かと納得する。

「確かに誤解されるような事したけど。ちょっと、君の事、いいな、って思って。ちょうどブレザーに入ってた君の携帯に気が付いて、自分のと交換して。それは勝手にだから悪い事かもしれないけど。メールしてもシカトで。だからなんか怒ってるのかなとか。そんな事考えてた。でもずっとほっとかれて泣きそうだった」

「泣くの?」

 泣くの部分に反応してしまう今の河本である。

「うん。泣くとめんどくさいよ、私」

 答えつつ、ようやく会話らしくなってきたと思う成美である。

「なんで?」

 河本は、その理由が知りたい。

「え?」

「なんで泣くの?」

「なんでって。それは……悔しいから? 思い通りにならなくて」

「……そっか。悔しい。思い通りにならない、か……ありがとう」

 そういって河本はコーラを飲み干す。

「ねぇ、ありがとうっておかしくない?」

「ん? え?」

 河本は平井の涙の理由を考えてしまっていたのである。

「今の会話の流れでありがとうはおかしいでしょ」

 成美は飲みきるにはまだ量が残っている。

「そっか? ごめん」

 とりあえず謝る河本に、キツイ視線を送りながら成美はコーラを飲む。その姿に、細谷さんが二年の可愛いコと言ってこのコの画像を見せてくれたことをまた思い出した。

「そんなときはこっちはどうしたらいいんだろう?」

「え?」

「泣いた相手に対して……」

「それ私に聞くの? でも私泣いてないよ。泣きそうだったの」

「あ、そうだね。でも、もし泣いてたとしたらどうすれば正解だった?」

「……そんな時は優しく、こっちの気が済むまで構ってくれたらいいよ」

「そっか」

「だから、今、こんな風に一緒の時間を過ごしてくれてありがとう」

 それを言う成美の瞳は優しかった。

 河本がその成美に対して何か言おうと言葉を探すそのきわめて少しの間、二人は見つめ合った。

 そこへ竹清とみゆきが通りかかる。

「これから、ちょっと、星空を眺めてくるよ」

「はい、承知しました。お気を付けて」

 そう姿勢を正し答える河本に、へつらいや媚というものが一切なく、ただ竹清を心から慕っている様子が見て取れる成美である。

 成美は、朝、バスに乗り、その後に河本が竹清にみせた姿もこれだったと思い返す。

 バスに乗る前に意味ありげに目が合いつつも、その後はまったく何もなかったように無視をする、この河本の心を少し奪ってみたいと思って私は行動し、気を惹こうとしたのだと理解する。


 その頃。

 綾、有紗、美咲の三人は自分たちが宿泊する部屋にと戻った。

「綾さ、普段は河本君と同じことしたがるのに、今日は全然一緒に行動しなかったね。避けてるの?」

 ベッドに横になった有紗が、携帯をチェックしながらそんな思いついた事をいう。

「うん、なんかね」

 綾は窓側のソファーに座っている。

「なんで? なんかあったの?」

 向かい合う美咲が問う。

「ない。……嘘、なんか、ぶっちゃけていうと……一緒にいると好きになりそうで恐くなった」

「そうなの!?」

 有紗は彼氏への返信に集中している分、リアクションだけは大きかった。

「恐いって?」

 美咲は確認する。

「河本君、イイコだけど年下だし、好きになるの恐い。それに……あ、有紗はさ、一緒に今日行動してどうだった?」

 綾はその気持ちを分かって欲しかった。

「河本君? うーん。なんとも思わない。あ、でも二年のカワイイ女のコが話しかけてたね」

「なんかモテてるよね河本君」

 美咲も感想を述べる。

「平井先生は?」

 綾は心にある気になる事を言ってしまおうと思った。

「え、平井先生? あ、なんか今日結構話したよ、色々。がっつり話したの生徒会入って初めてかもってくらい」

 話しつつ、有紗は送信を終えてベッドから起き上がり、窓側にいる綾と美咲の方を見る。

「それってさ、河本君がさ、いるからなんだよ」

「ん?」

「どういう事、綾?」

 有紗と美咲は疑問に思う。

「河本君となんかしてるとさ、いっつも平井先生が来るんだよ。そんで普段は見せない笑顔で河本君と話してる。この先生、河本君の事、好きなんじゃないかなとか思っちゃう。今日だって、バスも滝に行く班も河本君と一緒だし」

「えー、それは考え過ぎだよ。河本君が頼りになる所あるから、っていうのはあると思うけど」

 成瀬萌が具合の悪くなった滝への移動中のやり取りを思い出し、有紗はそう思う。

「まぁ偶然ではないと思うけど、一緒に居ても男として河本君をみてはないでしょ」

 美咲はそう思う。

「そうかな?」

 綾は揺らぐ。

「うん。だって、今日聞いたけど、大学時代から付き合ってる彼氏ともずっと上手く行ってるっぽいよ。ゴールデンウィークには夢の国に行くんだって。一年前からホテル予約してて。その部屋からはパレード見れるって楽しそうに話してくれたよ、ねぇ美咲も聞いたよね?」

「うん。聞いてた。きっとあれだよ、好きとかじゃないよ。河本君しっかりしてるからだよ。それにあの会長とみゆきの二人に気を使ってるんじゃない? ペアで動くから。いまも二人でどっか行ってるじゃない。だからそういうのもあるから、あのカップルじゃなくて河本君の方へ行っちゃうんでしょ」

 四人で泊まるこの部屋に、今、不在のみゆきの事に触れつつ、美咲は言う。分かっていても竹清とみゆきの関係に嫉妬しているのだ。

 その美咲の言い方にトゲを感じても、それを指摘すると機嫌が悪くなるだけだと感じる有紗はシャワーを使う順番を決めようと提案し、無難にじゃんけんで決めようとなった。


 竹清とみゆきの二人は宿泊施設の最上階へ行き、そこの窓を開け、星空を眺めていた。まだ肌寒さを感じるのでぴったりとくっついている。

「きれい」

「うん、きれいだ」

 みゆきにそう言いつつ、竹清は、この星をもっとはっきりと見たいと、そう思っていた。




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