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micelle  作者: Hyro
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31 滝までの途中

 

 31 滝までの途中



 リーダー研修会に参加している生徒たちが三班に分かれ、順に観光名所にもなっている滝へと出発する。竹清がインスピレーションで班の生徒の割り振りをした。

 平井は参加する先生方を先にどうぞという形で最後の班になった。

 その班には他に生徒会のメンバーの河本と有紗がいた。

 二組目が出発し、最後の班だけになると、平井は気分が楽になる。残った教師は自分だけなのである。

 五分程待って出発する。

「緑の中って歩くの気分いい。全然楽しめる」

 歩きながら、有紗の独り言である。

「ね、景色が良いだけで違うよね」

 そう返してくれる平井に、普段は全然話してなかったけど、平井先生ともっと会話できそうだなと有紗は感じた。二人は班の中でも最後尾を歩いている。

 そんな二人の前を、河本は、さっき清水成美から返された携帯電話に、特に異常がないのを確認しつつ歩いていた。それを見た平井は河本が携帯を見ているなんて珍しいと思い、何か声を掛けようかとした。が、その前に俯いて歩く生徒が、無理をしている、と感じた。

 河本も、ポケットに携帯電話をしまいつつ前を向くと、その女生徒がしゃがみ込んだ。

「大丈夫?」

 気づいていた平井は生徒に近づき、声を掛ける。

「……はい。すいません」

 しゃがみ込んだ成瀬萌は答える。

「さっきから、気持ちが悪いって言ってました」

 隣りで一緒に歩き、今日共に行動していた小坂遥が答えた。

「一度、戻る?」

「……いえ、大丈夫です」

 萌は迷惑をかけたくなかった。しかし、歩くのには少し休憩が必要だった。

 座りこむ萌を他の生徒たちが佇んで見ている。

「先生」

 河本が声を掛ける。

「何?」

「自分が残り、ここで少し休んで様子を見ます。滝の場所への案内お願いします」

 河本の進言があり、平井は考える。

 確かに簡単な道順とはいえ生徒たちに滝まで迷われては困る。

「うん。じゃ、何かあったら連絡して」

「はい」

「私も、ここに一緒にいます」

 小坂遥も答える。有紗は自分も残るべきかと迷っていたが、友達らしき生徒が手を挙げたことで黙って見ている形になった。

「うん、お願い」

 その方が萌も心強いであろうと感じた平井は河本と遥に任せることにした。

「じゃ、行きましょう」

 そのように平井が言い、皆、成瀬萌を気にする様子を見せつつ、歩き出した。

 その再び歩き出した班が見えなくなるまで、残った三人は黙っていた。

「どうだろう? 辛かったら戻る? 戻って横になる? その方がきっと楽だよ。ここに居てもあれだし」

 河本は普段は年上の生徒会のメンバーに囲まれ、敬語を使う事に慣れているので、一学年下の女のコに対しての口調を、自分の中で確認しつつ話した。

 遥は、萌に話し掛ける河本を見つつ、この人、部活紹介でバレー部のウチの主将がマイクで話す時、素早く調節した人だな、と思い出していた。

「その方がいいよ」

 遠慮する萌に遥も補足する。

 二人から、そう言われたので萌も甘えやすくなる。

「……じゃ、戻る」

 萌が決めてくれたので、河本は一度戻ることを平井へ連絡し、遥が萌に肩を貸し、ゆっくり歩き、三人は宿泊施設へと戻った。


 宿泊する部屋も一緒である遥は、萌が部屋のベッドに横になるまで付き添った。

「水、ここに置いとくね」

「ありがとう……このまま横になってれば大丈夫だから」

 少し様子を見ていようとしたが遥であるが、その萌の言葉に、ずっとそばに居られても気恥しいだろうと感じ、部屋を出た。

 一階のロビーに居た河本は、携帯が鳴ったので見る。

『すごいね滝、圧倒されるね。んー、アレ? 三班今着たけど、君いなくない?』

 清水成美と表示される画面に、勝手にアドレス登録されていたという事をその時に知った河本であった。

 返信する内容に迷っていると、遥が階段を降りてきたので、考えるのをやめる。

「様子はどう?」

「バス酔いしたみたいです。隣りに乗ってる時に、ちょっと気持ちが悪くなってきたって言ってました。少し横になれば平気だと思います」

「そっか」

 遥の敬語は先輩に対して、という感じが強く出ていて、河本の姿勢を正させる。

「座ってよっか」

「はい」

 河本は遥をソファーに座る事を促し、設置されている給水機から二つ紙コップへ注ぎ、ひとつを座る遥の前に置く。

「ありがとうございます」

 二人、少しの沈黙があった。

 水を飲んだりしつつ、河本は遥に目をやった。化粧っけのないすっぴん顔なのに目立つくっきりとした二重まぶたが特徴的だと感じた。

「一年生の、あなたのお名前は?」

 何かを話そうと河本は切り出した。

「小坂遥です」

「こさかはるかさん……部活とか、入った?」

「はい、バレー部です」

「あ、ぽい」

「……ぽいですか?」

「うん。なんか運動部の感じがする」

「そうですか」

「バレーだと、ほら、試合中とか、ボールが飛んでくると、はるかっ!って言われるの?」

「まあ、そうですけど、でも三年生にはるかって同じ名前の人いるんで、あ、キャプテンが酒井晴香っていうんです」

 また、河本のあの壇上でマイクの調節をする光景を思い出し、主将の名前を知っているかもしれないと思った遥はそう付け加えてみた。

「そうなんだ。じゃあ、こさかって名字で呼ばれるのかな」

 河本はあの時バレー部のマイクを調節したことを思い出してはいなかった。

「……そうかもしれないですね」

 遥はこの会話の着地点が見えない。

「なら、オレが君をはるかって呼んでいい?」

「え? ……そんなに呼ぶ事あるんですか?」

 遥が困惑の表情をしたので、河本は距離の縮め方を間違えたと感じた。自分がリードして話すのはそんなに経験がないかもしれない。

「ゴメン間違えた。なんか馴れ馴れしかったね」

「いえ。平気です」

 遥は、基本あのマイクの調節の印象だけで河本を信用している。あの時の河本が基準になっているので、今のやり取りは、この人こんな一面も持ち合わせているのだという発見であり、マイナスに感じていることはない。河本先輩はきっと黙っているのも雰囲気が悪くなるので、なにか話題を作ってくれているのだ、とそう思っている。ただ、いきなり遥と呼んでいいか聞かれれば困る表情はしてしまう。

 河本は話題が途切れ為、思案する。

「滝を皆、今頃見てるんですよね」

 今度は遥が切り出す。

「うん、メール着たけどスゴイらしいよ」

「へぇいいなぁ、見たかったなぁ」

 遥の呟くような言い方は、河本に響き、このコにみせてあげたいと思わせた。


 その滝は、今日は普段よりは岩壁を流れる水量は少ないらしく、流れる音も静かであった。が、それが情緒を感じさせた。

 三つある展望台で生徒、引率の教員が各々、好きな位置からその滝を眺めていた。

 最初に出発した班であった竹清は合流した班に河本がいない事に気づいた。

「河本君どうしたの?」

 みゆきは、平井先生から事情を聞いていた竹清に聞く。

「具合の悪くなったコが居て、そのコと一緒に宿舎に戻ったんだって」

「……そうなんだ」

「あー、この景色、秀人にも見せたかったなぁ」

 展望台の少し他の生徒から離れた位置で滝を眺めながら、心底残念がる竹清であった。

「ホントだね」

 みゆきはそんな後輩想いの竹清の腰に手をまわした。




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