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micelle  作者: Hyro
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30 成美は怠屈しない


 30 成美は怠屈しない



「清水成美さんね、これで全員揃ったかな。んっと、座席余裕あるから、あそこの空いてるところで」

 清水成美は、リーダー研修会のバスに乗り込むと竹清慶治にそう告げられる。

 成美は自分が最後なのかと省みつつも、一人で二座席使えることで、移動時間が楽になるな、とも思った。

 その後に、バスに乗ってきた平井先生や河本秀人、西野有紗が席決めを竹清と行っているのも見ていた。

 竹清に笑顔を見せる河本。

 それを見た成美は、乗車前の手続きで、あの河本って男子生徒と大分目が合っていたことがよぎりつつも、バスが走り出せば、成美は外の景色を眺める。

 それでも、不自然な程、目が合っていたとも思えるので、河本とどこかで接触があったのか記憶を辿るが、何も思い当たりはしない。

 では、河本がどんな生徒なのかと考える。同じ学年であるが、クラスが一緒になったことはない。

「――あの、河本君ってさ、ホモなのかな。生徒集会とかでいつも竹清会長の横に居てさ。彼と同じクラスのコに聞いたけど、まったく女の子と絡んだりしないらしいよ――」

 そんな事を確か、クラスの女子が話していた。

「――いやいや、興味あるの? 河本は歌もうまいんだぜ、今度、行くカラオケ一緒に? いつでも呼んであげるけど。一年のとき、良く一緒に遊んでたし。オレあいつとお茶漬け食い合う仲なんだ。っつうか忘れた? あいつの副会長立候補の推薦人オレだぜ?――」

 澤井謙輔という、一年時河本とクラスメイトであった生徒がそんな事を自慢げに話していることも思い出す。そのくらいの記憶しかない。

 別に河本と接触をしたいから、この会に参加をした訳ではない。

 クラスの代表の男子生徒の予定があるというので、文化祭実行委員である成美は、自分が出ても良いと申し出たのである。

 清水成美は、中学の時はテニス部に所属し、ひたむきに毎日の練習に明け暮れていた。部活動を引退すれば、勉強へとその頑張りを向け、この真倫高校へと入学をしたのである。高校では部活には入らなかった。放課後に友達を遊んだり、家で絵を描いてみたり、海外のテレビドラマを一気観したりと中学時代に部活に熱中していた気持ちを違うものへと向けるようになった。どちらも楽しいものだ。

 テニス部に所属し、サーブが確実に入るよう何度も練習をした自分を、飽きもせず必死に良くやっていたな、と振り返ることもあるし、あの頃はテニスに夢中になることで、何か自分の中で得ていたものがあったのだとも思い返す。だから、その夢中になっていた日々を否定する気もないし、今、何も部活に所属せずに、放課後の時間を持て余しているのを、つまらないとも思わない。テニス部であった中学時代と、この今の高校生活を比べることをしていないのだ。すべてを決めるのは結局自分の気持ちでしかない。今楽しいといえば楽しい。それ以外に道があったのだとしても、それは、今の自分と比べてどうか、ということなのだ。今の自分と比べて何か違う事をする自分を想像することのどれほど無駄なことか。今、興味あることに手を出してみる。それでいい。私は今の私がすべてである、と清水成美は考えている。

 そんな自分の中の信念が時に目つきを鋭くさせているのかもしれない。仲良くしている友達ともどこか距離ができてしまう。そのことで考えることはあるが、変えようとは思わない。


 そんな清水成美も乗る大型バスは一時間ちょっと走って高速道路を降りる。バスから見える景色は、自然が作り出す豊かな街並みとなった。真倫高校の所在する地域の計画的にデザインされた街並みとは一線を画しており、目新しさに生徒の目を惹いた。

 目的地へとバスは到着する。

 宿泊施設の近くの景色も新緑に溢れていた。穏やかに流れる川辺の近くにあり、その川水は有名な滝から流れてきたものだという。

 その周りの景色に目を奪われつつも、生徒たちはバスから降りると列を乱すことなく、順に施設内へと入っていった。

 眺めの良い喫茶ルームにて一段落して昼食をとると、まずは救急講習を受ける。

 成美は、バスでは一人で座り、自分の世界で色々思慮していた為、昼食の際も会話をするという事に気持ちが中々追いつかなかった。それでも、同学年の二人の女性が一緒にと声を掛けてくれ、他の参加した二学年の生徒たちも近くに座っていたので、みんなの会話を聞きながら徐々にその場の雰囲気に慣れていった。その際、生徒会役員のメンバーと集まって昼食をとっている河本がふと気になり、何度か目をやったが、今度はまったく目が合わなかった。朝、あれだけ見つめられる形になったのに、今、合わないのも変にも思え、チラチラみてみたが、河本はこっちを見向きもしなかった。

 救急講習では、講師の方に来てもらい、学校にも設置されている一般人でも使えるよう設計された医療機器の使い方の説明を受け、実際にやってみましょうと、学年ごとに分かれ実習となった。生徒会も学年ごとの班に二、三名で分かれ加わった。

 河本と有紗が成美の二年の班に加わった。

 まず、河本と有紗からの実習となった。指名された河本がブレザーを脱ぎ自分の座っていた席に置こうとした。

「持ってるよ」

 といい成美は受け取った。

「ありがとう」

 河本はそう答えたが、成美に目を合わせることはなかった。さすがに不自然であろうと成美は思った。

 皆、講師の方が指示をし、河本と有紗が等身大の人形を相手に操作する姿を真剣に見ていた。

 成美もそうであった。が、河本のブレザーに彼の携帯電話が入っているのを重さで感じると、躊躇も逡巡もなくその携帯を、自分のブレザーに入れた。重さでバレることを危惧し、自分の携帯を河本のブレザーに入れた。深く考えず、ただ、そんな行動を取った。

 実習が終わった河本にブレザーを返す際は互いに目をあわせなかった。

 全員が終わり、講習が終了し、休憩時間になると、成美はトイレの個室に入り、その河本の携帯電話をチェックした。

 通話記録は、友達と思われる名前の中に、生徒会役員の名前や平井先生の名前を見つけ、役員同士、確認事項でもあったのであろう、と思ったくらいで至って普通の使用である。メールも友達と思われる人とのやり取りであり、バスケが好きなんだなくらいが成美の印象に残ったのであった。画像も見てみてが、特に変なものを所持していなかった。ま、こんなもんかなと思った成美は勝手に自分の連絡先をアドレス帳に登録した。

 本人に返そうと、みんなが集まるラウンジへ行ったが、河本は生徒会役員で打ち合わせをしていたので、中々渡せなかった。

 この後は、グループに分かれて、ここから歩いて二十分もかからないで着くという滝を観に行くということで一度、外の施設前に集合となった、

「……あの」

 皆が移動を始める中、成美は河本の近くへ行き声をかけた。河本は成美の方を見るが、顔は見ない。つまり、目はあわせない。

 近くにいた有紗がその様子を見ていたが、あまり気にも留めずラウンジから出て行った。成美は河本と二人きりになるまで少し待ち、携帯電話を出した。

「これ、落ちてたよ。あなたのでしょ」

 携帯電話がまず落ちていることがあっても、それがなぜ自分のと、この清水成美は分かっているのか色々理解不能な点が多すぎて、河本は困惑したが、それを表情には出さずに、確かに自分の携帯電話らしきものを受け取ろうとした。

 河本の手が携帯をつかんでも、成美は離さなかった。

 自分のだといって渡そうとしているのに離さない成美の理由も不明である。朝は細谷さんから見せてもらった成美のパンチラ画像の件で慌ててしまったが、その後は普段どおりの対応の河本であったが、ここはさすがに成美の顔を見て、目を合わせた。

 成美はようやく河本と目があったので笑った。

 鋭さの消えた成美の笑う目。その笑顔が可愛いので、河本は不明な点を忘れてもいいかとも思った。が。

「でね、私の携帯電話、あなたのポケットに入ってるの。返して」

 成美の発言が余計に意味不明だが、いつも通りの携帯の重みを感じるそのブレザーのポケットを確認すると自分のとは違う携帯電話が出てきた。

「ありがと。さ、滝、見に行くんでしょ」

 そういって成美は河本の手を取って歩こうとするので、戸惑いつつも成美の可愛さに負けて歩き出す河本である。

 何も文句を言わない河本を良いヤツなのかも、と成美は笑った。



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