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micelle  作者: Hyro
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29 縺れ合いながら

 29 縺れ合いながら



 平井紀子は九時になる前には職員室を出て、今日の集合場所の正門前に向かい、集合時間にはまだ少し早いがきっちりと揃っている生徒会役員のメンバーを確認すると、ありがたいと思った。生徒会役員は各クラスからの参加者とは異なり三十分ほど早く集合する。

「おはようございます、平井先生」

「おはようございます」

 竹清が、平井の姿を発見すると、大きな声で挨拶をするので、他の役員たちも平井の方を向き挨拶をする。

「おはよう、皆、全員いるね」

「はい」

 平井が一人ずつに目線を送り、河本とも目をあわせる。

「もう、バスも来てるね」

 リーダー研修会は、この真倫高校からバスで二時間ほど走ったところにある宿泊施設にて行う。

「じゃ、簡単な説明をしとくね」

 校務分掌で、平井の割り振られている仕事は生徒会も含めた特別生徒活動部と呼ばれている部になる。その名の通り、主に、授業以外の生徒活動を管轄している。文化祭や体育祭の行事のこの中に含まれ、担当になっている先生がいる。今回のこのリーダー研修会はこの部が取りまとめて行っているので特別生徒活動部の部長であるベテランの先生や文化祭の担当の先生も参加をしている。さらには南淵明日香が担当しているボランティア活動もこの中に含まれており、新任で勉強という意味もあり、今回、南淵も参加をしている。

 その平井以外の先生が正門に集まる頃、まず目に留まるのは、平井が生徒会顧問としてきっちりと生徒会役員のメンバーにディレクションを行っている姿である。

 普段は生徒会の顧問としては、役員の自主性を尊重し見守るくらいのもので、平井に私用があれば、会議に顔を出さずとも、竹清のそのリーダーシップもあって、順調にいっている。そんな生徒会のメンバーだけに任せていることも多々ある平井であっても、同じ分掌の人たちに見られているとなっては、力の入り方も変わる。ちゃんと顧問をしている、いつもこんな感じで生徒会のコたちとやり取りしています、というのをアピールしなくてはならない。ましてや南淵という、自分より後輩も見ているので余計である。

 それを、その平井の張り切る理由を感じ取り、空気が読める生徒会のメンバーたちは、平井の言っている事は、もう既に理解していたとしても、初めて聞くような、もしくは改めて深く理解したような、大きく頷くようなリアクションをみせるのである。

「もうバス乗っちゃおうか、竹清君が前の方に座って、来た生徒にバスの席順割り振ってあげて。高橋さんも隣りでサポートしてあげて。これ座席表と名簿」

「了解しました。みゆき行こう」

「うん」

 その座席表と名簿は自分のバックにもう持っている竹清だが、そんな事は言わずに素直に受け取る。それがこの生徒会の人間なのである。

「皆もバスに乗っちゃって」

「はい」

 他の役員も自分の荷物を持って乗ろうとする。

「あ、ちょっと待って。あ、いいや、河本君と、えっと西野さん、一緒に外で来た生徒を一回チェックしよっか」

「はい」

 河本と有紗は冷静に返事をする。

 平井が考えをまとめずに話して、少しテンパろうが、それを嘲笑するようなメンバーはここにいない。平井が良い所を他の先生方に見せたいのなら、誰に言われる訳でもなく教わったわけでもなく、自然とそのバックアップに努める生徒だけが生徒会役員としているのである。

 ただ、それとは別に。

 綾は今、自分は呼ばれなかったので、洋介と美咲とバスに乗り込みつつも、平井先生ってこういう時絶対河本君なんだよな、という感じるものがあった。


「生徒会のメンバーで席、前列と後ろに分かれよっか」

 竹清はバスの一番前の列の席にみゆきといる。平井が近くにいなくなったので、いつものように自分が仕切って提案をする。

「けいじ、オレ前でいい? 実はこう見えて酔うかもしれないタイプでさ」

 と洋介が言うので、竹清は洋介を自分とみゆきとは通路は挟んだ反対側の席にした。

「私も酔う気がして不安になってきた。前がいいな。洋介君隣りでいい?」

 なんとなく、後から乗ってきた河本と隣同士で座る事を避けたい気分になった綾は、洋介の隣りに座る事を希望した。

「いいさ。もしもんときはさ、そんときは道連れさ」

 洋介の明るさは、綾の気分を助けてくれた。

「美咲は後ろで平気?」

「うん」

 竹清の優しい問いかけに顔を合わせず美咲は後ろへ向かう。

 美咲はこないだ竹清とキスしてからうまく顔を合わせられない。それにみゆきと楽しそうな竹清を見るのも辛いので、席が離れられてどこかホッとした。

 大型バスの一番後部差席、五人がけの真ん中に一度座ってみては、平井たちが気になって正門が見える側の端へと席を移動した。


「この用紙に、来た生徒をチェックしてね。大丈夫よね?」

 河本、有紗は平井から用紙を受け取る。

「はい、わかりました。大丈夫です」

 その河本の返事は、まだ焦りの見られる平井を落ち着けるかのように穏やかであった。

「うん。お願い」

 平井はそんな河本に微笑みかけることになる。そんな二人を有紗は特に気にする事なく名簿を見たりする。

 平井は他の今回参加する教員方にバスに乗るよう丁寧に話し、こうして大型のバスが止まり、前もって話しをしてある正門以外に集まる生徒は居ないだろうと思いつつも、まさかの場合を考え、他の門を見てくると河本と有紗に話し、小走りで掛けていった。

「なんか今日の平井先生頑張ってるね」

「ホントですね」

「教師の世界も大変なんだろうな」

 有紗は周りに人がいなくなるとそんな事を河本と話して生徒を待った。


 集合時間が近づけば、参加する生徒が順調に集まってくる。

 河本と有紗は、その生徒たちに挨拶をし、名前を確認してバスに乗車をしてもらった。初めて参加する生徒ばかりで、大型バスをみると、ずいぶん大掛かりなものなのだな、と言葉にする生徒もいた。

 参加する生徒の中には一年生の小坂遥もいた。成瀬萌という生徒と一緒にバスまで来た。

「一年ベータ組の成瀬萌です」

「一年エータ組の小坂遥です」

「はい。よろしくネ」

 二人は有紗にチェックをしてもらい、バスへ搭乗する。

 今日の小坂遥は、電車から降りた時点で見掛けた真倫の生徒である成瀬萌に声を掛けた。

「一年生ですよね? 今日、あの泊まりの研修会参加する人ですか?」

「はい。あなたもそうですか?」

 遥は、バレー部の練習試合を休み、この会への参加を自分で決めたものの、一年生の女子で参加するのは自分だけだったらどうしようかと考えたりもした。それは萌も同じだったようであり、二人とも、自分以外に同性が居たということで心強くなり、歩きながら話し、真倫高校に着くまでに仲良くなっていた。

 そんな二人を当然、竹清は隣り同士の座席にした。


 別の門まで行き、誰もいないのを確認して平井は正門に戻ると、河本と有紗より前方に立ち、あそこで、名前を言ってバスに乗ってと来た生徒ひとりひとりに声をかける。

 その河本はチェックという事で、来た生徒の顔を見ることになるのだから、ひとりひとりの生徒と目を合わすことになる。普段はまず知らない生徒と目を合わせることなどない河本であるが、今はそんな場合ではない、生徒会の任務である。自分の方から挨拶をすることも苦でもない。

「ね、河本君、もう大体来たよね」

「そうですね」

 二人は参加者名簿を照らし合わせる。

「ん、あと一人かな。あ、あのコで全員だね」

 河本は、その歩いて来た女生徒の顔を見た。目が合い、睨むように感じ、キツイ視線だな、と思いつつ、あれ、あのコ、どこかで最近見ている、とよぎった。それがいつだったかと考えている、そのひととき、ずっとその女生徒と目を合わせたままの形になってしまった。

「二年ゼータ組、清水成美」

 あ、あの写真部の細谷さんがこのコのパンチラ写真を見せてくれたのだと、名前を言われるタイミングで気づいた。本人にそれを言うわけにはいかないので、バスへの乗車を促がしつつも、不自然と思われるほど目は合ったままであり、あの肉感的なパンチラ写真が浮かび、これで全員という意味でも、バスの階段をあがる成美を眺めたくもなり、よっぽど見てしまおうかと思ったが、平井と有紗の視線を気にして自重する。

「これで、みんな来た?」

「あ、大丈夫です、全員揃いました」

「よし、みんな優秀だ。私たちもバスに乗ろっか」

 平井は、まず第一段階はクリアしたと思った。


「あ、平井先生、席どこにしますか?」

 平井が乗車すると竹清に聞かれる。

「あ、平井先生、ここ、どうぞ」

 南淵が自分のバックをどかしつつ、隣りをと勧めてくれるので断りづらくなる。その後ろの座席には教員が二人が座っているのを一瞬確認する。うわと思いつつも、それは顔に出すわけにはいかない。

「じゃ、南淵先生のとなりで」

「了解です。河本君と有紗は、後部座席ね。美咲がひとりでさびしそうにしてるから行ってあげて」

「はい、わかりました」

 竹清に河本は笑顔で答え、後ろへと行く。

 バックを荷台へあげよとしていた平井は、自分の後ろを通って後部座席を向かう河本と有紗を目で追う。

「後ろ、先生誰もいないね、じゃ私も後ろにいくよ」

 南淵にも聞こえるように、もっともらしい言い訳をし、平井も後部座席へ行く。

 その今の一連を、洋介と会話しつつも見ていた綾は、ほら結局、平井先生はまた河本君の方へ行くんだと内心、苛立った。

「えー、では、時間通りに全員揃いました。本日、リーダー研修会へ参加をする皆さん、改めまして、おはようございます。生徒会長の竹清です」

 竹清が挨拶を始め、参加する生徒たちがおはようございますと返した。

「これからバスで二時間走ります。この時間は特に何もありませんので、近くの方と歓談しても、足りない睡眠の補充をしていただいても構いません。どうぞご自由に。では今日明日よろしくお願いいたします」

 それには皆がよろしくお願いしますと返し、竹清が運転手の方へ出発をお願いする。


 後部座席では美咲が自分のバックを真ん中の席に置いたまま、端の席で窓に寄りかかりながら既に寝ていたので、その隣りに有紗が座り、真ん中を荷物置きにし、河本の隣りに平井が座わることになった。

「先生のジーンズ姿初めて見ました」

「今日、向こう着いたら歩くんだよ」

「えー、疲れるのヤだなー」

 有紗と話している平井が有紗の方を向きながら着席したので、河本は平井のジーンズ姿のお尻をおもいきり間近で見てしまった。

「ジーンズも似合いますね」

 とりあえず、河本はその姿を褒めておいた。

「ありがとう。フフ、前の先生方の近くじゃ気疲れしちゃうから」

 それを平井は河本だけに聞こえるような声でいった。

「先生の今日の髪型可愛い。その編みこみカチューシャどうやるんですか?」

 ひとつ席を挟んだ隣りから有紗がそんな質問を投げかけ、平井も説明を始めるので、女子の話題についていけない河本は眠ることにした。

 バスは宿泊施設へ向け動き出す。



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