28 小坂 遥
28 小坂 遥
「そういえばさ、クラスの男子が騒いでたの聞いたんだけど、遥のクラスにすごく可愛いコいるんでしょ?」
「え、誰だろ。私じゃなくて?」
「ちがうと思う。二文字で、イノ? イソ?」
二人だけになった部室で制服へと着替えながら会話をするのは小坂遥と松永梓である。ともに一年生で、バレー部に入部した。
女子バレー部は三年生が三人。二年生が六人で、マネージャーも一人いる。そして、一年生の入部者が今のところ、遥と梓の二人で、合わせて十二人である。
真倫高校の女子バレー部はいわゆる強豪校という訳ではない。大会で一回戦に勝って大喜び、二回戦にも勝とうものなら奇跡というくらいのレベルである。
練習時間も、朝練があるのは、大きな大会前の数日で、ほとんど放課後の二時間きっちりで終わり、体育館の割り当てがない日はトレーニングを小一時間して終わりだったりする日もある。
髪型だって、県の代表を争う高校のようなベリーがつくショートではなく、ほとんど校則に準じているだけなので、みんな、動きに支障がない程度に、自由にしている。
中学でバレーをした経験者もいれば、未経験で高校から始めた者もいる。それらの部員がひとつとなり、勝つ為に、チームワーク、技術向上を目標とはしつつも、それ以外に得るであろう何かを求めて、日々、練習を頑張っている。
練習が、きついだけ、辛いだけということまったくはない。だからといって、弛緩して練習をこなしているだけでもない。楽しい部分もあり、厳しくするところは厳しくしつつ、先輩後輩仲良く、和気藹々と練習をしている。
それは小坂遥にとって無理なく参加できる、身の丈にあったレベルといえた。
「いそ。礒多香子。いるよ、クラスにそんな名前のコ」
遥がブラウスのボタンを留めながら答える。
「可愛い?」
梓はブリーツスカートの左脇のファスナーをあげている。
「確かに、可愛いかも」
「遥ってもしかしてプライド高い?」
「え?そんな事ないよ。でも、なんか負けたくないかも」
「誰にも?」
「ううん、礒多香子に。って嘘、嘘。確かにクラス一緒だけど、まだそんな話したことないし」
一年生である二人は、練習を終えてからの片付けがあるので、こうして最後に着替える事になる。この春にバレー部に入って一緒になり、話すようになったので、まだお互い知らない事ばかりとも言える。だから、こんな風に一緒に着替えながら話す時間は互いを知るには良い機会である。
「……あずさ、のクラスにカッコイイ男子とかいないの?」
まだ、一緒の部活をする隣りにいるコの名前であるあずさを呼ぶのにも、口が慣れていない部分があり、一瞬、相手の呼び名を思い浮かべてからになったりする。
「んー、ちゃんとまだ男子の顔と名前が一致しない段階」
「まだ、そんな経ってないしね」
二人は着替えを終え、身なりを整えている。
「遥は?」
「私はね、とりあえず、背が高い男子とか見ると、いいなって思う。バレー選手目線で」
「うんうん。でも結局いいなって思っても、ほら、先輩が冗談ぽく言ってたけど、一年のうちらは付き合うとか、男子との交際は禁止っぽいよ」
「あ、やっぱあれホントだよね。先輩にさ、男子と手なんか繋いで歩いてる所、見られたりしたら呼び出し食らっちゃったりするかもね」
二人は身支度を終え、ドアの鍵を閉めて部室を後にする。二人で話していた世界から、他の部活を終えた生徒などとすれ違ったりもするので、二人は誰に聞かれても良い話しに切り替える。
駅まで一緒に歩き、ホームで電車を待つ。
遥が持っていた最近発売された新味のお菓子を二人で食べ、その微妙さ具合を笑ったりして話しているときに、あずさの乗る方の電車が到着し、手を軽く振り別れ、その後に来た電車に遥が乗り、その日の学校生活を終えた。
小坂遥は、中学の時もバレー部であった。バレー部の練習を終え、部の友達と話しながら帰り、家の夕飯が用意される十九時くらいの時間に帰宅するのが日常であり、当り前であり、それ以外の事をする自分が想像できなかった。だから、高校にあがってもそのまま、バレー部に入ること以外の選択肢を考えることもなく、こうして入部した。松永梓という、話しのできる、同じ一年生がいるのが心強く、仲良くし、絆を深め、バレーに打ち込むのだと、ぼんやりと思っていた。
次の日。
帰りのホームルームが終わり、部活へと気持ちが向かう中、担任の佐藤先生に前に来るように遥は言われた。
「あのね。小坂さんにね、伝える事があって。週末さ、クラスの代表が参加するリーダー研修会っていうのがあるんだよね」
「…はい」
呼ばれた理由で、自分がクラスの代表であった事を思い出した。
「急だよな?もしかして用事ある?」
「週末って今週ですよね? 部活が確か……」
今週末は確か練習試合が組まれていたとも思い浮かぶ。ただ、理由が学校の行事であるのだから、それを優先して咎められる部活環境でもない。
「ごめんな。先生伝えるの遅れたよな。先週の頭には、これ伝えといてって通達が来てたんだけどさ。無理ならあれだ、クラスの代表は小坂さんだけど、無理なら別の人、たとえば文化祭委員とか、そういうクラスから誰かが参加すればな、良いらしいんだ。あ、礒、礒、ちょっと前にきて」
教室から出ようとした礒多香子を佐藤先生は呼ぶ。
まだ席にいた男子生徒、加藤翔大は、礒という名前に反応を示し、教室の前へと移動する礒多香子のその動きを目で追う。
なんとなく礒の方をみようして、加藤のその動きが目に入った遥は苛立ちを覚える。あいつも礒多香子なのかよ、と。遥は、内心、その長身の加藤翔大が気になっていたのだ。
「礒、急で悪いんだが、週末さ、泊りがけでリーダー研修会っていう、クラスから誰かが出なくちゃいけない」
「大丈夫です。私、出れます」
礒多香子に説明を始めた先生を制して遥は答えた。
礒多香子はキョトンとしている。
「そっか、すまない。ありがとう。礒さんも来てもらってすまない、クラスの代表の小坂さんが出てくれる」
「わざわざ、なんかゴメンね」
遥は軽く、多香子に謝った。目が合う。
「ううん」
多香子はなんとなく、別に出てもいいかもと一瞬思考したところだった。
詳しい内容の書かれた用紙を佐藤先生は遥に渡した。
佐藤先生との話を終え、遥が教室を出ると、外で梓が待っていてくれた。
「今のやりとり、外から見てたんだけど、あの話してたのって男子が騒いでる礒さんでしょ?」
「そう」
遥と梓は教室へと目線をやり、自分の机の荷物を持ち、教室を出ようとする礒多香子をみる。
「確かに美人。あれは美人だよ」
梓が多香子を見ながらつぶやく。
教室のすぐ外にいる二人の前を通る時に礒多香子は遥に気づき、バイバイというような手を振ってくれたので、遥も同じように返す。
「イイコだね」
そんな二人のやりとりを見ていた梓がまたつぶやく。
「まぁ確かに、黒目大きいなとか思ったけど、あれ黒のカラコンしてるよ」
さっき、近い距離で多香子と目があった遥は答える。
「そうなんだ」
「素の目力は私の方が上」
「やっぱ遥、あなた負けず嫌いだわ」
二人は、一度笑い合い、部室へと向かい出す。
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