26 写真部の面接
26 写真部の面接
「ここの部分なんていうか分かる?」
「……レンズ……ですか?」
「正解! 合格! 入部決定」
細谷稜がカメラを手にクイズを出し、荻野靖貴が答えた。
写真部の部室扱いの図書室の奥のいつものスペースに二人きりでいる。
「……一問でいいんですか?はやくないですか?」
「そう? じゃ、もう一問、ここのボタンは?」
「……シャッター?」
「正解! 素質あるよ、君。合格だよ」
「……はあ」
荻野はこのやり取りに困っている。
「簡単すぎて不安なの? じゃ難しいのいくよ? これは何眼レフ?」
「あ、それはホント、分からないタイプの問題です」
「いやいや、考えたら分かるって。レンズ何個あるか言えばいいんだから。これ何個? 数字を言って」
「……イチ?」
「正解。やっぱ君、合格に揺ぎ無いわ」
荻野がこんなやり取りを細谷としているのには訳がある。
あの日。荻野が河本に、この真倫高校で初めて会い、挨拶できた日のことである。
図書室を出たところでようやく河本に追いつき、挨拶をし、話しが出来たのである。
「河本さん、もうバスケ、やってないんですか?」
「……あ、最近は全然やってないなぁ」
「またプテラノで、一緒に……たまにはやりませんか?」
「うん。そうだね……プテラノって、懐かしいね」
「今、自分も久々にプテラノって口にした気がします……河本さん、生徒会なんですね?」
「あ、うん、そうなんだよね」
「何か手伝えることあれば言ってください。自分、あの……河本さんの後輩ですから」
「うん、ありがとう。あ、委員会とか入った?そういう入ると生徒会と関わること多いよ」
「あ、そうなんですね。この間、クラスで決めたんですけど、しまったなぁ。知っていればなぁ、何か入ったんですけど」
そんな談笑を河本と荻野がしていると、図書室から写真部二年の榎が出来てた。
「あ、いたいた。まだ居て良かった。さっきさ、君に言うの忘れたんだけど、明日、ここ来てね」
「…はい?」
「希望者集まってもらうから。よろしく」
榎はそういうと、荻野が話していたのが、河本だというのを確認するかのように、河本に視線を一度合わせ、図書室内へ再び戻った。
「あれ、写真部に入るの? そういうの興味あったんだ?」
「……あ、いや、なんか手違いで。さっき河本さんを待っている時になんか話し掛けられて……入るつもりはないんですけど」
同じ高校で河本と一緒にバスケをする事をどこかで期待していた荻野なのではある。それは叶わなくても、まず写真部に入ることはないと言い切れる。
「いいんじゃないかな?」
「え?」
「写真部、入ってみるのもいいんじゃないかな、仮入部でも」
「……そうですかねぇ。でも自分、全然、写真とか」
荻野は意外な河本の提案に戸惑うしかない。しかし逆らうつもりはない。
河本としても、あの細谷を野放しにしておくのは危険な予感もするから、偶然、荻野が入部するのなら、それもいいのではないかと思いついたのである。
「すこし、歩いて話そうか」
「はい」
河本は考えながら荻野に話そうと、その場を二人で離れた。
昇降口付近の自販機で、河本は自分の分と荻野の分のドリンクを買い、中庭のベンチで話した。
荻野は河本から言われた事を自分の脳にインプットした。河本とまたこうして話せている事が嬉しかったし、協力できるのなら、する、と決めた。
次の日、荻野が図書室の奥へ行くと、細谷稜だけがいた。
「ちょっと、二人で面接しようか」
「……はい」
荻野は一礼し、パイプイスに着席した。
「自分は写真部の部長の細谷稜。三年生。よろしく」
「はい、一年の荻野靖貴です。お願いします」
「うん。確認していい?」
「はい……」
細谷の物言いにすこし、緊張した。
「君からはさ、リア充臭が漂ってる気がするけど。写真部入るつもりホントにあるの?」
「……リア充ではないです」
「ホントに? 友達といる時は、はしゃいですぐに、うえーいとか言っちゃう系なんじゃないの?」
「うえーいとか言ったことないです」
「そうなの? でも大体さ、こういう部にいるのって、オレみたいに少しぽっちゃり系かモヤシみたいな痩せノッポって相場が決まってるんだけどさ、君、結構がっちりしてない? 運動部系だよね? 顔も精悍だし?」
「そうでしょうか?」
「うん。まぁいいや。ホントに写真部入るの?」
「……はい」
雰囲気が自分と合わないと思ったら無理に入部をしなくてもいいと河本に言われている荻野である。このときは少し、入部は辞めようかな寄りの気分であった。
「なんで写真部入ろうと思った?」
「写真とかあまり知らないんですけど……河本さんに……もし入る部活がないなら見学だけでも……」
荻野は、嘘は言っていない。
「やっぱり!」
細谷がパンと手を叩いた。
これはマズイ状況なのかと一瞬荻野は焦った。昨日河本さんとの会話を見ている榎が告げ口しているからこんな不思議な面接をしているのかとも思える。
「……やっぱりとはどういう?」
「いやあ、写真部は入部者が少なくて。ぶっちゃけ、君以外いないからね、今年。存続だって怪しい。この現状に河本君が勧めてくれたのだろう? あいつ良いやつだと思ってたんだよ」
「はい、河本さん、良い人です。自分、中学の後輩なんです」
荻野は、嘘は言っていない。
「うんうん。よし分かった。じゃ、簡単な問題出すから答えて」
そして冒頭のやり取りが行われ、細谷は荻野に合格を出した。
「つーかさ、君、河本くんの後輩なら話早いよね? 色々聞いてるんだ?」
「え? あ、はい」
「よし、分かった。もう君は同胞だ。こっちへ来たまえ」
そういって細谷はノートパソコンを操作する。
荻野はそのノートパソコンが見える位置へとパイプイスごと移動する。
「一年だよな?」
「え? あ、自分は一年です」
「何組だっけ?」
「デルタです」
「デルタね。……これだ」
そういって入学式、体育館に整列する写真を開いた。
「あ、これウチのクラスです」
これはどうやって撮影したのかがまずは気になる荻野ではあった。
「言いたい事は分かる。キャットウォークって言うと所に潜んで撮ったのさ。それはいい。でさ、このコとか可愛いよね? 名前は?」
細谷は、画像を拡大する。
「そうですね。名前ですか……寺本さんですかね」
荻野はスイッチの入った細谷に押され気味にも、自分の間で答えた。
「寺本? 下の名前は?」
「利沙ですね」
「ほう。なるほど。なんか情報ある? 彼氏がいるとか?」
そう言いつつ、細谷はパソコン上で名簿ファイルも開いて確認する。そして、今言った名前を色で塗る。その手際の良さには感心すらする荻野である。
「すいません。まだ、会話もしたことないので」
細谷の動きに、何も答えられないのが、なぜか悔しい気持ちになった。
「いいよ。あ、じゃ、このコは?」
「あ、そのコは成瀬萌……活発なコでこの間、クラスの代表に立候補して、なりました」
「へぇ、なるほど。いいね、そういう情報。このコが君のクラスの代表か」
「はい」
細谷は荻野が言ったことをパソコン上にタイピングする。
「なんかさ、こういうの無駄に知りたくなっちゃう性なんだよねぇ。学校の生徒の情報に長けてるオレ、みたいな。あ、キモいって思わないでくれ。そういうの、自分で一番判ってるから」
「……公開とかするんですか?」
「しないよ、こんなの公開したらここに居られなくなるし、自分の中で楽しむんだから。あの可愛いコは誰と付き合ってるとか。こないだ別れたとか。あ、たとえば、逆に荻野君が知りたいこととかある?」
「……じゃあ、生徒会とか」
荻野は本当に河本が所属している生徒会について知りたいと思った。
「生徒会ね」
そういって細谷は体育館壇上で横に一列に並んで写る生徒会役員の写真を開いた。
「顧問が平井紀子先生。今年で二十四。国語教師。あ、この先生の授業受けてる?」
「いえ、受けてないです」
「うんとね、この先生、美人なんだけどね、二年の時の現文の授業この人だったけど、すっげー淡々としてる。眠くなる。笑ったりすることもほとんどない。しかもガードも固くてさ、いつもパンツルックなんだけど、ラインが全然透けない。Tバック履いてるのかなぁ」
細谷はそう言うと、平井の後ろ姿の画像を何枚か開く。
「スレンダーですね」
「オレ的にはもうちょっとむちっとしててもいいかな。あ、現文の授業、誰?」
「現文は南淵先生です」
「マジか。当たりじゃん。巨乳で最高じゃん」
「でも、なんか先生って感じしないですね」
「それもポイント高いじゃん。オレのクラスなんておっさんの先生で何も面白くない」
「それは確かに」
荻野は普通に細谷と会話をしていると思った。
「生徒会に話しを戻すと、このイケメン生徒会長が竹清慶冶。雑誌とかでたまにモデルもしてるっぽくって、そりゃ、女子人気は高い。高いだけに、同じ役員の高橋みゆきともう長いこと付き合ってるんだけど、結構、陰では女子たちから早く別れろって思われてる」
「そうなっちゃいますね」
「会計の堀洋介。今は彼女いないけど男とでも女子とでも気さくに話してる姿を目にする。まぁ、リア充だね」
「っぽいっすね」
「同じく会計の西野有沙。大学二年の彼氏がいる。彼氏もここ出身で今真倫大。付き合いだしたのは彼が三年の時、でこのコが一年の時ね」
「この人もスタイルいいですね」
「うん、なんだかみんな良いんだよな、生徒会の女子。ってかこの柳田美咲って書記が同じクラスなんだけどさ、ヲタクでさ、女同士でアニメの話しとかしててさ」
「見えないですね」
「そう、見えないんだけどさ。アニメの話しとか聞くと、話し掛けたくてさ」
「話しかければいいじゃないですか?」
「そんなことしてみ? 蔑んだ目でシカトされてさ。きっと陰でさ、あのキモいの話し掛けきたよ、マジ草不可避なんですけど、とか言われて。そんなんオレ一週間は立ち直れないわ……」
「別に細谷さん、そんなキモいと思わないですけどね」
「いいよ、そういうの」
細谷がため息をつき、視線を落として黙ってしまい、気まずい空気になったので、荻野はノートパソコンの近くに置いてあった腕章に触れてみた。
「これ、なんですか?」
「それに触るな!」
と、細谷が荻野の手を払って腕章を自分の方に寄せる。
「……すいません」
少しの沈黙が流れる。
「……いや、声を荒げて済まない。生徒会から広報をやってくれって頼まれてさ。その証なんだ、これは。生徒会広報としてちゃんとしないとな……」
「……はい」
細谷という人物について、テンションの上がり下がりの大きい点など、まだ不明な点が多いが、悪い人ではないと荻野は感じている。それは、河本から聞いていたのと同じ印象である。
「カメラ持ってないと思うから。ここにおいてある、このカメラ、使いたい時、使って良いから」
「……はい」
「別に毎日顔出せともさ、言わないし、たまにでいいからさ、掛け持ちだって良いし、ホント、形だけでもいいから、入部してみてよ」
「……はい」
細谷先輩、この人は今日のまとめに入っている、と荻野は思う。
「荻野君だったら女の子も写真部に引っ張って来れそうだな」
「……それはあんまり期待しないでください」
「生徒会の続きはまた今度でいい? 普段さ、こんなに人と会話しないから疲れちゃったよ」
と、細谷が俯いて、またひとつため息をつく。
荻野は立ち上がって一礼し、その部屋を後にした。
罪悪感まではいかない何かが荻野の中に残った。
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