22 図書室の奥で
22 図書室の奥で
「ちぃ、やっぱねぇよなぁ」
と、細谷稜は言葉で舌打ちをして残念がった。生徒会室での詰問を受けたその足で部室に戻り、ノートパソコンであの日に撮った画像を確認したのだが、桜だけが写っているものはなかった。
少なくとも写真部を名乗っている身なのだから、なぜ桜だけの風景を写真に収めなかったと、あの日の自分を悔やんだ細谷である。被写体が女子生徒ばかりなのである。
二日後に生徒会の人間が来る。猶予があるのだから、せめて自分が発言した入学式や始業式で撮ったという桜の写真くらい用意しなくては話しにならない。「だいたい桜を撮るならその日じゃなくてもいいよなぁ?」と自分でも思うが、『真倫高校の入学式の桜』と題名をつけて撮ったということにしなくてはと思い直した。
「トリミングして誤魔化すしかないか」と写真に写る女子生徒をなんとかして、桜だけを撮ったことにしようとまでの考えに辿り着いた。
「細谷氏、細谷氏、なんだか妙に深刻な顔でどうしたでござるか?」
話し掛けてきたのは同じ部である三年生、塀内渉である。
「すまぬ、拙者一大事にて集中を要するでござる」
「それはそれは大変なご様子で。何事かは存じ上げぬが無理は禁物ですぞ」
二人には会話のルールがあるらしい。
「すまん、今日明日、オレ忙しい。もし一年生が部活見学に来てもここにはいれないでほしい。んー、図書室の喫茶コーナー辺りで対応してほしい」
それは素で伝える。
「……わかった」
塀内も細谷のテンションに合わせる。
「あと、二日後に生徒会の人間がオレを訪ねてくるから。ここマジで立ち入り禁止ね」
「生徒会が? 何で?」
「今はまだいえない。全部終わったら話す……そう、全部終わったら……」
細谷は余韻を大切にした。
「うん、わかった」
塀内は同じ写真部の二年生の二人にも伝える事を任され、今日は部室を後にした。
細谷は一心不乱に画像編集に取り組んだ。
二日後の放課後。
生徒会副会長の河本秀人が左腕に赤色に白抜きで生徒会とかかれた腕章をつけて、写真部へとやってきた。
「あれ、君、一人なの? 会長は来ないの?」
細谷はとりあえず、一人で来た河本に確認をする。
「はい、今日は自分が一人です。では、早速見せていただきましょうか。お願いします」
それで、細谷はパソコン内の画像を見せることになるのだが、河本がパソコンを触ったりすることはなく、操作をするのは細谷であった。
細谷が頑張って加工した写真を数点見せると、河本は頷いてくれた。
「大丈夫みたいですね。……疑ってすいませんでした」
「え? いいの? もうちょっと疑わないの? ハードディスク潜ってみたりしなくていいの?」
まさか謝られるとは思っていない細谷は驚きを隠せなかった。とはいえ、携帯メモリにそういう画像は移して対策はしてあるので、このパソコン内はいくら見られても平気なようには当然してある。
「大丈夫です。問題ありません」
河本は断言した。
「……お、おう」
逆になんだかなぁという細谷ではある。
「ちょっと聞きたいのですが」
「ん、何?」
「細谷さんは、パソコンは得意ですか?」
「……まぁ人並み、か、それ以上」
そういう自負はある細谷である。
「ではお願いしたいことがあるのですが」
「お願い……?」
「はい、単刀直入にいいます。今後、生徒会のサイトの更新をお願いしたいのです。あの日、入学式と始業式の日、貴方は生徒会のサイトに載せる写真の撮影のために正門に居たのです。そういうことにしませんか?」
「……もう少し詳しく」
「生徒会からの依頼で貴方は生徒会広報部として写真を撮っていたのです。ただ、腕章を付けるのを忘れてしまった。だから、今後は誤解されないよう、必ずこの腕章を腕につけて広報活動を行ってください」
そういって河本は自分の腕の腕章を外すと、細谷に差し出した。
「……そっか。だからか。この腕章、そういうことか」
「これはすべて竹清会長のご意向です」
「……うん」
細谷は腕章には納得をして受け取った。
「自分の方から、意見箱に氏名を記載して投書した方には説明しておきます。今後、広報活動、よろしくお願いします。生徒会費として微々たるものにはなりますが、部活動費以外にも支払うことは可能になります。損はありません。正式に後日竹清会長より任命されます」
「……わかった」
急な展開ではあるが、了承しといた方がいいというのは理解できる細谷である。
「では、これで失礼します」
と河本は立ち上がろうとする。
何かを細谷は思い出した。
「待った!見せたいものがある!」
細谷はそういい、メモリをパソコンに挿しマウスの操作を始める。
河本が今度は戸惑う。
「二年だよな?」
「ええ。はい」
何回学年を確認されるのだろうと河本は思った。
「このコ可愛いよなぁ。二年で可愛いっつったらこのコだよなぁ。清水成美って知ってる?」
そういって画像を河本にみせる。
「……クラスが違うので、見たことはあるかなっていう程度でして」
「見たことはあるんだ。可愛いよね? このどSな視線がたまらなくよくない?」
確かにキツイ視線がカメラに向けられている。
「これ、目線、こっちですけど撮ってるのバレてるんですか?」
河本も普通に質問した。
「いやいや、気づいてても平気なコもいるんだなぁ。このコのパンチラみたい?」
「は?いやそれはさすがに」
「はい。これ見て」
そういって河本の返事は無視して細谷は画像を開いた。
確かに見事に撮影はされているが、これは問題だろうと河本は思う。
「これこの間の風の強い時、偶然撮影できてさ、誰かに見せたくてさ、この奇跡を。うちの写真部の二年の二人はさ、女の子は二次元限定とかいってつまんないの。この間河本君が二年生って確認してさ、見せたくてさ」
「……あ、なるほど」
「これほしい? あげるよ」
「いやいや。ほしいとかって別に……っていうか何も持ってきてないですから」
「スマフォに送ってあげるよ。解像度をひとつも落とさずにさ」
「すいません、本当に今日は大丈夫です」
「あ、そう? いいの? ほしかったらいつでも言ってね。あ、あとこれみて。これだけはみて。今年の一年生で一番可愛いコ。とびきりの美少女だよ」
そういって細谷はまた画像を河本にみせる。
桜が舞う中を登校するその姿は絵になっていた。
「……確かにキレイですね」
ホントに美少女だと思った。
「だろ? 名前は……礒多香子って言ったかな。もうチェック済みだから大抵の可愛いコは」
「……あの、それは分かりましたので。今後はどうか派手な行動は気をつけてください」
河本はこの人を広報部にすることはとっくに間違いのような気がしている。
「大丈夫だよ、この腕章があるんだからさ。うそうそ、大丈夫、こういう役職を与えられると、人は変わるもんだよ」
「どうか、お願いします」
「……ホントはさ、すごい剣幕で、会長と河本君がやってきたら、様子を見てこの清水成美のパンチラ写真で逆に許してもらおうと思っていたのだよ」
それは絶対逆ではないと思う河本である。ただ、この人はスケベではあるが根はいい人だと思う、そう思いたいと願って河本は部室を後にする。
河本が去ると、残りの写真部が細谷の元に来る。
「細谷氏、なんですかその腕章は」
「いやぁ、生徒会の? 広報部? っていうの? 頼まれちゃってさー、頭下げられたら断れないよなー」
「さすがっすね」
「あの無口で無表情な河本と会話しただけでも充分凄いっす」
二年の二人の写真部の生徒は細谷を称えた。
「ああ、河本君ね、あいつ、良いヤツだよな」
そういいつつ、細谷はメンバーに誇示するよう、腕章を見せ付けた。
「河本さん、お久しぶりです」
図書室の奥から出てきた河本に一人の男子生徒が声を掛けた。一年生である。河本が奥に消えるのを見ていたので、ずっと、出てくるのを待っていた。
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