21 カメラ男子細谷
21 カメラ男子細谷
「あ、細谷君、今日の放課後、生徒会室にきてって会長から」
お昼休みの終わり頃、教室の自分の机で過ごす細谷稜へクラスメイトの柳田美咲が話し掛けてきた。
「……了解」
そう答えた細谷稜は珍しく女子から話しかけられたと思ったら、生徒会室への呼び出しかよと内心思った。
写真部である。といっても部活動として認められる人数にここ数年は達していないので非公式扱いになっている。
部室も立派な一室という訳ではなく、図書室の奥にある、この真倫高校の歴史などが記された書物などが置かれている、なんと呼んでいるのか分からない部屋にパーテーションを置き、一応の部室としての使用は許可されているような状態なのである。幸い、図書室に設置してある無線LANが受信できる状態の為、ネット環境が良好なことくらいの利点はあった。とはいえ、肩身は狭い。
生徒会長からの呼び出し。
細谷稜には思い当たる節が、まぁ、あった。あったが、授業中はその事はあまり考えないようにし、今期ハマってるアニメの事などを考えて五限、六限と過ごした。
放課後になり教室を出ようとすると、美咲の視線を感じたので、「ええ、分かっています。いきますよ」というへつらいの表情を浮かべてから、教室を後にした。
とはいえ直接は向かわず、部室扱いになっている図書室の奥のスペースへ行き、ノートパソコンに電源を入れ、フォルダ内の画像を確認する。
「これのことだよな、多分」
そう、細谷は独り言をつぶやく。
生徒会室へノックをし、中からの返事が聞こえたので細谷は入室をする。
まだ照明を点けていないその部屋は、その日が曇り空だった事もあり、薄暗かった。
生徒会長である竹清と、最近の行事で竹清の横に居ることを目にすることの多い副会長の河本の二人しかいなかった。
「どうぞ」
河本がイスへの着席を促すので細谷は腰掛ける。会議用であるから大きいそのテーブルの向かい側に竹清が座している。
細谷が入室し終えた後、扉を閉めた河本はそのまま入り口付近に立ったままである。
「……細谷稜君だね」
「……はい」
竹清に名前を確認されただけだが、細谷は軽く引け目を感じてしまった。
「早速なんだけど、……入学式と、その次の日の始業式の日に、正門で君が写真を撮ってたみたいで。そういった報告があって……」
「…ええ、……桜、撮りたくなって」
「まぁ、そうだよね。桜綺麗だし。ただその日、結構風もね、吹いてたよね。それでね、女子生徒たちの何名かが、自分が登校する姿をカメラに撮られたっていうね。後姿も絶対撮られた気がするっていうね。盗撮的にね? 許可無い状態でね? そういうクレームみたいな感じにね、なっちゃってるんだよね。生徒会室の前に設置してある、意見箱にね、多数それがあってね。だから、こうして確認せざる得ない状況なんだよね」
竹清は例え、クラスメイトであったとしても細谷のようなタイプとはまず話す事はないので、どんな話し方をしていいのかいまいち分からず、少し棒読みな感じになってしまった。
「……撮った時に偶然入っちゃったっていうのはあるかもだけど……」
細谷は言い訳をする。
「まぁそうだろうね。……ただ、結構な人数が桜じゃなくてスカート的なことをね」
「そんなの、同じヤツが大量に書いていれたんじゃないの?」
細谷が論点をまげてきた。
竹清はこの細谷と口論をしたいとなど微塵も思わないので飽きを覚えていた。
「ここで読みあげることはしませんが、氏名の記入がされたものもあります。明らかに筆跡は別です。これは訴えです」
竹清のそれを察知した河本が立ったまま答える。
「じゃあ、これオレが何か処分をされるって事なの?」
細谷は河本に聞く。
「二日後に部室に確認に行くんで」
それは竹清が答える。
「……二日後」
細谷は確認の意味で口にした。
河本が扉を開ける。もう話は済んだということなのである。
細谷は立ち上がって帰ろうとするが、河本の前で立ち止まる。
「お前二年だよな?」
「はい」
いまさら学年の確認をした細谷の真意は不明瞭であったが、すぐさま河本が努めて冷静に睨むように答える。
「だよな」
といって細谷は生徒会室を去って行く。
河本は細谷が立ち去ると扉を閉める。
「どうしますか? ……廃部にしますか?」
河本の瞳からは本気しか感じ取れないと分かるから、竹清は、いま、廃部にしようと返せばこの副会長の河本は本当にそう持って行ってしまうだろうと思われた。
それはさすがに可哀想だとも思う。
「それは可哀想だとも思う」
竹清は思った事を口にした。
「はい」
「……きっとカメラで写真を撮るっていう趣味はあの生徒には必要不可欠な、そういう存在なんだと思うから。それを無しにするのは横暴だと思う」
と竹清は考えを述べた。
「……優しい会長にあの細谷さんは感謝すべきですね」
河本の表情が緩む。
「河本君に何か良い考えは、ある?」
「考えます。お任せください」
そう河本が答えるので、竹清はもう、この案件は解決したような気すらした。




