20 静かな生徒会室
20 静かな生徒会室
お昼休みである。
窓際の壁までイスを移動し、そこに座る竹清慶治の隣りに同じ様に高橋みゆきが並んで座っている。みゆきは頭を竹清の肩に預けている。
最近の竹清慶治と高橋みゆきの二人は昼休みを生徒会室で過ごしている。
昼食を終えると、そんな風に窓際に二人寄り添うように並んで座り、携帯プレイヤーで再生させた音楽を片耳ずつワイヤレスのイヤホンで共有して聴く。
二人には共通の音楽が流れていようとも、その二人しかいない生徒会室内は静かである。
竹清が目を閉じれば、みゆきがその竹清の顔にキスをする事があっても、同じように目を閉じだすのでほとんど音のない室内なのである。
生徒会室に入室するカードキーを役員である二人は持つ事を当然許されているので、こうやって自由にいつでも出入りできる。無論、他の役員たちもキーを持ってはいるが、二人がここでお昼休みを過ごすのを知っているので、それをわざわざ誰も邪魔をしたくはないので近づく事はない。
そんな気遣いもあって二人は人の目を気にすることなくべったりと寄り添って生徒会室で休憩をしているのである。
室内は静かでも、昼休みの生徒たちの喧騒は生徒会室にも届く。
竹清が空いている方の耳でそれを聴いても、それをまったくうるさいとも思わない。むしろ、嬉しく感じるのだ。生徒会長としての立場が、生徒たちの楽しそうな声を歓びと思わせてくれるのだ。そんな感覚を持つとはまったく思っていなかった事でもある。
そんな事を竹清は考えながら目を瞑っているのである。
みゆきは目を瞑っているのに飽きると、頭を竹清の胸辺りまで移動させ、竹清の顔を見上げる。
竹清は色々と別の事を考え出し、瞑想を続けている。
イヤホンをする為に髪をかけている方の竹清の耳にみゆきはそっと指で触れる。
最初は人差し指一本で触れてみる。押してみたり、撫でてみたり。指は親指や中指に替わったり二本の指で触れたりもする。耳たぶも摘まんでもみる。また顎のラインに沿ってみたり首筋にその指を移動させたりする。
愛おしいのだ。
それを竹清は分かっているから、されるがままでいるのである。
みゆきは、二人が付き合いだしてからの日数などを考えながら、竹清に触れていたのだが、こみ上げる愛おしさに体勢を戻すと竹清の唇にキスをした。
それが軽くのものではないとわかると竹清も応え始める。
「今週の土曜日の午後、みゆきは水泳だっけ?」
キスの合間に竹清が質問する。
「うん。ケイジも一緒に行こうよ」
「うん。オレも泳ぎたくなった所だったんだ」
「よし。ママに送ってもらおうかと思ってたけど、じゃ、公共の機関を使って一緒に行こう」
「うん。決まり」
竹清はもう一度、みゆきに唇を重ねた。
「話替わるんだけどさ」
竹清はみゆきを見つめて言う。
「何?」
急に真面目になった竹清にみゆきはドキリとする。
「みゆきの事はみゆきって呼んでるし、他のメンバーたちだって、洋介、綾、有紗、美咲って下の名前で呼んでるのに河本君の事だけ、河本君だよな」
「うん」
みゆきはちょっと拍子が抜けた。
「みゆきも河本君の事を河本君って呼ぶだろ?」
「うん」
「河本君、それちょっと気にしてないかな。なんかちょっと距離あるっていうか。他人行儀っていうか。同じメンバーなんだからさ」
「……そうだね。……じゃ、下の名前で呼ぶ?名前は秀人君だよね? それとも秀人って呼び捨てして呼んじゃう?」
「そうなんだけどさ、いきなり秀人君とか秀人とか周りが呼びだしたりもさ、河本君反応困るんじゃないかと思ってさ、どうしようかとさ、さっきから考えてたんだけど」
みゆきにはどうでもいいことに思えたが、鷹揚に構えている事の多い竹清がそんな事に悩む姿は可愛く思えた。
「ちょっとみゆきの前でだけ試しで秀人って呼んでみる。そんで口が慣れてきたら本人に呼び掛けてみる」
そう決心した竹清に「それでいいよ」とみゆきはキスをする。




