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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役九

「どこかで見たって――」


 ジャースが言葉を切り、喋るなと手で合図をするのを見た何事かと晶も耳を澄ます、すると今度は複数の走ってくる音が聞こえてきたのだ。


 物音立てずジッしてやり過ごす晶、抱えられている子供も何か二人から感じるのだろう、大人しくしている。


「こ……きた……」


「はい……た……は……」


 部屋の入り口まで来たのだろう、話声が僅かに聞こえたその瞬間に子供が飛び出していった、いままで大人しかったのだ突然の行動に晶は反応が遅れる。


「ユウ兄ちゃん!」


 急いで晶が追いかけた先には、子供が嬉しそうに男性に抱きついている姿があった。


「勇?」


「あ、晶?」


 子供を抱えた勇が不思議そうに晶を指差していた、連れ去られた晶が無傷でうろついていたのである、不思議で仕方ないだろう。


「お前無事だったのか? 捕まっていたよな?」


「えーと、あのあと――」


 勇の質問に晶は身振り手ぶりを加えて今までのことを簡潔に説明した、ちなみに魔物を食した事は伏せている。


「そっか……ジャースだっけ? 晶を守ってくれてありがとうな」


 勇が礼を述べながら手を差し出すが、ジャースは一瞥くれると顔を背けるだけだった。


「別にお前達のためにやった訳じゃねえよ」


 ツンデレっぽい台詞だが鼻で笑うその態度と瞳は非常に冷たく、冗談抜きで本当にそう思っているようだ。


 晶には大分心を許しているが、会ったばかりの知らない勇者達に対して警戒しているのは当然であろう。


「ええと、ところでその子は誰なんだ? ユナさんに似ている感じだけど……」


 なんとも重い空気を払拭しようと晶は話を変えるために、先ほどの子供の話を振る。


 子供は髪や瞳の色そして顔つきがユナにとてもよく似ていたのだ、それが晶はこの子供を助けた理由である。


「この子はユナ」


「と勇の子か!?」


 勇の言葉からつなげる晶の顔は驚愕に染まる、自身が知らぬ間に勇の取り合いの決着がついてしまったのかと後悔の嵐が渦巻いていた。


「その通りだ!」


 なぜか胸を張る勇の姿は頭を撫でている子供が、自慢の娘だといわんばかりの親ばかそのものである。


「晶さん馬鹿なこと言わないでください! この子はユナ本人です!」


 そんな二人のやり取りを晶のみハリセンで思い切り張り倒すマリアだった。


「その子供がユナさん本人? どういう事だ?」


 ふざけた雰囲気を晶は払拭しようとするが、タンコブこさえた状態では全くしまらないものである。


「簡単に言うと晶を探して手当たりしだいに部屋を調べていたら、ユナが罠に掛かったんだ」


 真面目な顔して勇が説明する、しかし晶が吹き飛ぶ姿を見たせいかマリアが放ったハリセンの威力に戦慄しているようである。


「ああ、あの罠があったな?」


 思い当たる事があるのだろう、ジャースは顎に手をあて思い出しているようだった。


「知っているのか?」


「詳しいことは知らないさ、けど元からこの遺跡あった罠に、ガキになる煙が発生する場所があったな」


 晶が聞くがジャースは首をかしげながら答えるだけであった。


「直し方……知っている……?」


「いや知らないな、その煙に巻かれる奴は大概侵入者だから殺していたし…… そういえば殺したからか、それとも時間で効力が消えるのか、元に戻っていたな」


 メイが心配そうにユナを撫でながら聴くが、ジャースは肩をすくめるだけである、たしかに侵入者をわざわざ戻す意味は無い。


「マリアさんの魔術は?」


 回復できるのならこういった解呪系の魔術もあるはず、そう考え晶は聞いてみるが反応は芳しくなかった。


「残念だけどだめだったな」


「す、すみません……」


 青ざめた顔でマリアは勇へ謝るが、勇は気にしないと頭をなで慰める。


「時間の経過を待つしかないみたいだな」


 仲間意識の薄いジャースと子供のユナ以外は勇の意見に同意するように、肩を落とすしかなかった。


「ユウ兄ちゃん、この人誰?」


 暗い雰囲気の中ユナの明るい声が聞こえた晶は振り向くと、晶を指差すユナの姿があった、どうやら記憶も子供の頃に戻っているらしい。


「こいつは晶、俺の親友だ」


 ユナを抱きかかえながら勇は紹介する姿はまさに親子である。


「よろしくな」


「うん!」


 晶は笑顔で挨拶する、その姿にユナもにっこりと笑顔を向けて元気よく答えた。


「小さい頃はこんなにも愛嬌があったんだな」


 ユナの笑顔振りまく姿から晶は感慨深げになっていた、会った時から毅然とした態度のユナからは想像も出来ない無邪気で天真爛漫な姿であった。


「初めて会ったときは……すでにああなっていた……」


 頷くメイも同意しているのか何度も頷いていた。


「こんな可愛げある子供がなぜあんなにも堅物な女傑になるのか……」


 晶の不思議そうに漏らす言葉をもらすのだった。






「おい勇者、今から祭壇いくんだろう? だったらオレが道案内してやる」


 突然の意見に勇は眉を顰めるがそれもそうだろう、晶に友好的でも勇達にはそれ程でもない、それなのに道案内するとはどういうことか?


「別にお前達のためにするんじゃない、タウロにお礼参りしてやろうかと思ってな」


 ジャースが黒い笑みを浮かべる、殴られたことも腹に据えかねているのか、腹部に手を当て米神に血管が浮き出ていた。


「どういうことだ?」


 まだ納得できないのか勇は不安げである。


「タウロはお前達が祭壇目指すことを知っていたからな、そこで待っているだろう。たどり着く頃には罠や魔物でボロボロの勇者達を迎え撃つ、そう考えているはずだ。そこで罠の位置も知っていてなおかつ戦力になるオレが案内してやる、それ程労せずにたどり着けるはずだ」


 どうするかとジャースは全員に眼で問う。


「罠に嵌めるために誘導する気か」


「はん! 別に信じなくても構わないさ、オレ一人でも行くからな」


 勇は腕を組んで悩んでいた、それもそうだろう妙に気を許している晶が一緒にいるとはいえまだ信用できない、しかしジャースに案内をさせれば比較てき安全に最短距離でいけるかもしれないのだ。


「だけどいいのか? 襲ってくる奴らにはお前の仲間も居るんだぞ」


 勇達が入ってからは魔物のみならず黒い牙も含まれていた、共に歩くとなると当然襲われるだろう。


「かまわないさ、晶が説明したようにすでにあいつらは仲間じゃないしな、裏切り者に容赦なんぞしない」


 ギラついたジャースの瞳から本気で思っているようだった。


「オレは賛成だ、ユナさんが今子供だからな、少しでも戦力があったほうが良い」


 晶は理由を述べながらも、心の中では何故かジャースと離れがたく思ったことに内心首を傾げていた。


(なんだろうな? こう……友人でもなく仲間か? それもなんか違うな……なんだかもっと大切な感じ……そう……惚れ)

 

 頭を振って無理やり思考を晶はやめる、なにか気が付いてはならないと猛烈に感じたためである。


「それは……言えている……私も……賛成……」


「勇者様の意見に従います」


「よし!よろしく頼む」


 メイもマリアも賛成、断る理由もないようである、よってジャース案内のもと祭壇へと向かう一同であった。






 魔技術で気配を消したジャースが首を切り裂いた、トカゲの魔物からすれば唐突に首をかかれたようであろう。


 後ろから気付かれずに近づき仕留めるジャースの姿はまさに死神であった。


 その死神は次々とダマスカスナイフで獲物を掻っ捌き、死を振りまいていく、だからといって他の魔物達は回りに気をそらすわけにもいかないだろう。


 目の前には暴虐なまでに破壊を行う白い鎧を着た勇と天変地異を起こす悪魔な魔女のメイ、そしてそれらを癒す女神なマリアが居たからである。


 最強と信じていただろう魔物の心を易々と打ち砕き、いままで続いていた命を止める出来事であった。


「終わったか?」


 晶は隠れていた場所からひょっこり現れる、背には荷物、腕の中には大人しくしているユナの姿があった。


 魔物に襲われるたびに物陰に隠れ、ときには壁際でどうかするように息を潜めながら晶とユナは気づかれないように隠れていた。


「大丈夫みたいだな」


「ああ、ユナさんも大人しくしていてくれたからな……ユナさん?」


 無事を確認するジャースに答える晶だった、しかしユナが落とこんでいるようだったので降ろして向き合う。


「どうした?」


「えっとね、その、ごめんなさい」


 突然勇達に謝るユナに疑問を浮かべる一同。


「ワタシ戦う力が無いし、皆さんの迷惑になっているから……」


 気を落とすユナは、足を引っ張るお荷物状態なことが申し訳ないようだった。


「気にするなって、子供は大人しく守られてればいいんだ、というか守らせてくれ、子供に戦わせるのはこっちが情けなくなってくる」


 勇は身を屈め視線を合わせ、優しく微笑み頭をゆっくりと慈しみながら撫でている。


「どうしても守られるだけは嫌だったら、成長して守られた分皆を守ってくれないか?」


 ユナが将来騎士になる確率はかなり高いのだ、騎士になって多くの人々を守れるようになれということだろう、ユナは勇の瞳をジッと見つめ元気よく頷いた。


「わかった、ワタシ大きくなったら、勇お兄ちゃんみたいにカッコよくて強い人になる!」


 天真爛漫に宣言するユナであった。


「み、耳が痛い」


 一方そんな様子をしゃがんで眼をそらす晶は情けなさ抜群である。


「あんな小さい子供が戦えなくて迷惑って思っているのになー」


 見下ろしニヤつくジャースはやたらと楽しげであった。


「オ、オレも申し訳ないと思っているさ」


 晶は反論するもジャースの言葉が痛く勢いが無い。


「ほほう、存在感の無さからのんびりして」


「暢気に戦場覗き込んで」


「緊張感のかけらも無い」


 ジャースの一言一言に押され晶はどんどん縮こまっていく。


「そんな男が申し訳なく思っていると!」


 晶を言葉で攻めるジャースは非常に楽しそうであった。







「よし、いくか!」


 勇の掛け声と共に歩き出す、案内役のジャースが先頭になり続いて接近戦の勇、その後ろには勇を補助するマリアと続き、安全のために中央に子供のユナと荷物持ちの晶、そして最後尾に遠距離可能なメイとなり、魔物の死体が転がる場所を進みだす。


 その時ユナの視界の隅で何かが僅かに動くのを捉えた、一瞬目の錯覚かと思ったが次の瞬間蛇型の魔物が飛び出したのだ。


「危ない!」


 直ぐ後ろを歩いていた晶は危険を促す声をだしながら腕を伸ばそうとし、その声に反応し全員が一瞬のうちに現状を把握した。


 死んだ振りか気絶して今目が覚めたのか、魔物の死体に隠れるように出てきたため先頭を歩くジャース達は気が付かなかったのだろう。


「――!」


 ユナは声にならない悲鳴を上げるが、逃げ出そうにも恐怖で体が震え動けないでいるようだった、周りも守ろうと行動に移すが蛇型の魔物が僅かに速い。


 しかしその凶暴な牙が届くことは無かった、魔物の頭部を貫いた煌く刃があったからである。


 その刃はバスタード・ソード、刃を持つ人物は肩膝を着き、優雅に赤い髪をなびかせながら凛とした雰囲気を携え、先ほどの天真爛漫な無邪気な子供の姿から凛とした女性に変貌していた。


 一瞬のうちに魔物を細切れにした者の名はユナ・キ・ロードであった。


「ユナ!」


 勇、マリア、そしてメイが駆け寄る。


「どうやら、戻ったみたいだな」


 ユナは元に戻った身体を動かしながら見回していた。


「どれぐらいまで覚えている?」


 勇が傍に近寄り子供の頃の記憶があるのか聞いていたが、ユナは緊張で身体の動きがぎこちなくなっていた。


「ああ、ええっと、煙に巻かれた辺りから、き、記憶は無いな、うん、無い」


「ん? そうか、じゃあ説明するな」


 ユナのぎこちなさが勇は気になるようだったが現状を説明し始めるが、その間ユナは緊張しっぱなしであった。


 その後マリアによってユナの体に異常が無いことを確認した一行は先へ進む。


 後ろからの襲撃に備えて、最後尾に回ったユナはブツブツと自分に言い聞かせるように独り言を言っていた。


「まさかあの煙が子供の自分を呼び出すものとは……小さい頃あこがれた騎士様が、す、好きになったお兄ちゃんが勇殿……ど、どうしよう?」


 ユナが騎士になったのは子供の頃に一人の騎士に憧れそして目標にしていたのだ、当時周囲に聞いてもそんな騎士はいないと言われていたがようやく納得しできた。


 実はユナが掛かった罠はかなり特殊で高度な魔術がかけられていたのだ、子供時代の自分を現代に召喚して、本人に重ねるといったものである。


 時間の経過と共に解除されるが子供の時覚えたことは、元の時代に戻っても忘れることなかった。


「どうしようも無いのでは?」


「うひゃあ!」


 誰も聞こえていないと思っていたところに、突然晶が話しかけられユナは盛大に驚く。、その声に何事かと先行する勇達は振り返るが、なんでもないと首を振ったあと晶に顔をむけ声を潜めた。

 

「晶殿! 驚かすな!」


「それは無理だな」


 影が薄い晶がどのタイミングで話しかけても驚かれるのだ、そのことを理解したユナは言葉に詰まるだけであった。


「そんなことより……」


 意味深げに言葉を切る晶。


「好きになったお兄ちゃんが勇、とな?」


 晶に言われ瞬間にユナは真っ赤に染まる、ある意味告白の様なものを聞かれたのだ恥ずかしくて堪らなかった。


「き、貴様聞いていたのか!?」


「ええ、もうバッチリ」


 晶は物凄く楽しげな笑顔であった、しかしその笑顔には何かあら黒いものをユナは感じ嫌な予感がして、脳裏に浮かぶのは晶が自身を伺いながら勇と楽しく話す姿である。


「こ、このことは勇殿にはだまってくれ!」


 勇にばれるのが恥ずかしいユナは必死に懇願する。


「ああ、いいよ」


「ほ、本当か!?」


 願いが通じたユナは喜びにパッと顔が輝く。


「はい、なんだったら勇とうまくいくように色々お教えあげようか?」


「む、それは嬉しいがなぜ其処までしてくれる?」


 晶の言葉を怪しむユナであるが無理もないだろう、ユナから何か報酬をやるわけでも無くここまでやるのだ、なにか裏があると勘ぐるのが当然であろう。


「オレは勇の親友だぞ、親友の幸せになることを考えるはあたりまえだろう?」


「それはすまなかった、晶殿は心から勇殿の親友なのだな」


 真剣な顔で話す晶にユナは納得し、親友の幸せを考えての行動だと感動するのだった。



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