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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役五

 砂漠特有の水分を飛ばす高温のなか、人間と同等の巨体をもったサソリ型の魔物が鋏を勇へ振るう、愚直なまでに単純な攻撃だがなかなか速度があった。


 元から有る運動神経を使い、素早くかつ最小限で避け、一足飛びで間合いを詰めよる。


 太陽光を反射するレイピアが深々とサソリ型の頭部へ突き刺さった。


 昆虫ながら連携という頭脳があったのか、はたまた偶然かは理解できなかったが攻撃の体勢から戻っていない勇の背中目掛け、別のサソリ型が特有の毒針を持つ尾で襲い掛かる、しかしながらその一撃が届くことは無く空へ舞った。


「させるか!」


 ユナがバスタード・ソードで切り落としたのだ、甲高い奇声を上げながらサソリ型がユナへ反撃する、しかしそれが魔物の致命傷となった。


 重いものを叩きつけた鈍い音が響く、一瞬停止するサソリ型の上には輝く白い鎧姿の勇がいた。


 レイピアの先端を真下に向け一気に振り下ろす、体重が乗っていたのだろう、頑丈そうなサソリ型の外皮を突き抜ける、奇声を上げ振り落とすかのように身体をねじるが瞬く間に動きが止まり、力なく地面に伏すのだった。


 晶の視界に数人の青い少女が冷気と共に流れてきた、視線を向けると砂漠という場所にはそぐわない氷の彫像が乱立している。


 ぺたぺたと青い少女が触っている分厚い氷の中には、先ほど勇達と戦っていたサソリ形もいれば周囲に溶け込むような黄色い猪も閉じ込められている。


 微動すらしないのは既に命の灯火が消えたのかはたまた動けないだけなのか、晶には判断はできなかった。


「相変わらず魔術はすごいな」


「当然……」


 勇から賞賛され、メイは小さくピースサインを向けていた。


 砂漠に凍土の世界を作ったのはメイであった、彼女いわく砂漠に出没する魔物は水属性の魔術に弱いということだった。


 それを証明するかのように氷の塊はメイが放ったのはたった一発の魔術である。


「皆様大丈夫ですか?」


 勇達の安否を気遣うマリアだったが、戦いぶりを見て傷は少ないと思ったのだろう、さほど心配している様子は無かった。


 晶から見ても先ほどの戦闘は余裕を持って対処しているのが分かったのだ、心配するだけ無駄であろう。


「俺達大丈夫だ、晶は?」


「大丈夫だ」


「うお! そんなところに居たのか?」


「いや、そんなところって、一歩も動いていないからな」


 勇が周囲を見回すほどに存在感の無い晶は戦闘のときどうしていたかというと、実は殆ど動かず黙って立っていただけである。


 当然此処へくるまでに何度も魔物に襲われており、晶も最初は真っ先に襲われていたが、一度野宿しているときに魔物の奇襲を受けた。

 

 闇夜にまぎれることが得意魔物であったため見張りの隙を突かれいつの間にか接近されたが、最初に襲われるはずの晶は無傷であった。


「しかしなぜそこまで気づかれないのか分からないな」


「なんとなく予想はつくさ」


 神妙な顔つきなユナだったが晶の予想外の返答に感心し続きを促す。


「影の薄さ、存在感の無さというのもあるだろう、しかし一番の理由は勇だ」


「俺?」


「そうだ、勇の近くに居るとかなり意識が勇に集中する、こと戦闘の場合だとそれが顕著になるな、存在感ありまくりでかなり強いんだ、当然だろう」

 

 本能に従って行動し、弱肉強食の世界なら弱いものから襲っていくはずだが、隠れる場所の無い砂漠でさえジッとしていれば見向きもされなかった。


 非戦闘員という自覚があり、節約のために様々な鍋や水筒などの旅の道具を背負い、目立ちそうにも拘らず素通りされるのだ、運搬用につれている駱駝には襲うのだから気づかれていないのが明白である。


「それだけ感知されないなら、暗殺行為が出来そうだがどうだ?」


「残念だけど無理だな……こっちから行動を起こせば気付かれる可能性が高い」


 勇の意見に晶は首を振る、動かないでいれば背景に溶け込みやすいが、動けばそれなりに目立つからだと晶は実験から分析していた、その上に殺すという動作では殺気も混じってより気づかれやすくなると予測できていた。


 ちなみに実験とは一時期どこまで気づかれないか試したことがあったのだ、気配に敏感な人物――その人物は勇なのだが――に擦り寄ったり、背後からそっと近づいたりそのまま動かずに隙を窺ったことがある。


「お、お前まさか!」


 その説明をすると何かを思い出したように勇が唐突に声を上げた、ありえないと言いたげに目を見開き、身体を震わせながら晶を指差している。


 その答えとして晶は親指を立て、輝かしい笑顔を向け肯定した、勇と一緒に居る時にそのその辺にたむろしている不良っぽい人物に石を投げつけ、喧嘩をおこさせていたのだ。


「やたら絡まれやすい時期があったけど、お前のせいかよこのやろう!」


「まあまあ落ち着けって、そのおかげでかなり魅惑な体つきの美人と知り合えたからトントンだろ?」


「ぐ! それは……」


 晶の答えに押し黙る勇であった。


「それにしても役立たずですね」


「ぐふぅ」


 勇を実験対象にしたせいか冷徹なマリアの辛辣な言葉に思わず晶は胸を押さえる、事実だけに言い返せなかった。


「だから言っているだろう、もっと鍛えろ!」


「これでも頑張っているのだけれど……」


 ユナが一喝するが晶は恨みがましく口にする、実は逃げ惑っていた晶に見かねユナが少しでも使えるように、ナイフの戦い方を教えたのだ。


 残念なことにまったく接近戦の才能が無く、いくら頑張っても精々無防備な状態の相手に一太刀入れる程度である。


「はあ……弓矢さえあればな……」


 嘯く晶にもマタギの技術があり、獲物を仕留めるすべはある、しかし基本猟銃の狙撃であった。


 運悪く魔術が発達し多くの人が使用できるこの世界では遠距離戦は基本魔術で行われる、故に弓矢の発達が遅く、有ったとしても太目の枝に紐を括りつけた粗悪なもの、とても使えるとは思えず唯一猟銃に近いクロスボウも当然無かった。


「しかし流石砂漠だな、暑すぎる」


 力なく口にする晶は砂漠の熱気に大分やられていた、砂漠に入るまえに光を遮る白い布を購入し、全員頭からかぶっていたが、現状では仕方あるまい。


 日がそれなりに下がっているが、砂漠のど真ん中である。


 見渡す限りの砂と容赦なく照りつける太陽、焼き殺されそうな気温、幸いなのは湿度が殆ど無いことであろうか。


「がんばれ……」


「メイさん……ありがと……」


 メイもマリアも普段に比べ大分元気が無かったがまだまだ歩けるようであった、魔術師と神官とはいえ従軍するための体力があるのだろう、ユナはほとんど疲れをみせておらず、戦闘もこなしながらその程度とは流石騎士ということだろう、歩く姿もいまだきびきびしている。


「晶、もっとしっかりとしろよ」


「お前は化け物かよ……」


 そんな中ユナと同等の疲れしか見せていないのが勇であった、元々フェンシングをやっていて体力が高かったというのもあるだろう、それでも騎士という常日頃から鍛えているユナと同等とはどういうことか? 勇の完璧ぶりにあきれ果てるばかりの晶であった。


「見えたぞ!」


 太陽が地平線に隠れそうになるほど歩き続けたときユナの声が上がる、晶は顔を上げると少し先を先行していたユナが前方を指差してた、まだ大分先ではあるが茶色い川が流れており、周囲には草や木が生えているのが見受けられる。


「蜃気楼だったら最悪だよな」


 勇がとんでもない一言を発する、その瞬間晶はやめてくれと言いたげに勇を見据える、なまじ冗談ではない可能性があるのが悲しいところであった。


 見つけてから数時間あるいてようやく町へと到着し、その瞬間全員が安堵のため息を吐いていた。


 日が沈み幾分涼しくなった町に人が多く歩いていたが、かなり体力を消耗していたため判断が鈍ると情報収集は翌日からとなった。


 女子と男子に別れ寝床を二部屋頼み各自部屋へ移動する、限界にきていた晶は即行でベッドへ倒れこみ睡魔へと誘われるのだった。


 しばらくのあと喉の渇きを覚えた晶は大分疲れがとれた身体を起こし、水を貰いに一階の入り口のカウンターに向かう、夜の萱が落ち、蝋燭の明かりで揺らめくなかに先客が居た。


「勇と……ユナさん?」


 片手には水が入った木製のコップを掲げ仲良く隣あって座っていた、晶は新たな展開かと目を輝かせながら物陰に隠れつつ移動を開始する。


 蝋燭のみの明かりのためカウンターのみ明るく、周囲の闇に紛れながら聞こえてなおかつ明かりが当たらない椅子に座る、来たばかりのようで勇は伝承などを店主に話を聞いているところであった。






 勇が最近聞いた噂や御伽噺なども聞きだしていたためユナは首をかしげる、伝承などなら分かるがなぜ最近ことである噂まで聞くのか疑問であった。


「噂も聞くのか?」


「もしかしてこれを取った時に反応して入り口が出現とか、そんな仕掛けがあるかも知れないからな」


 勇が懐から出した宝玉を取り出すのを見ながらユナも検討がつく、宝玉の周囲には勇者選定のような魔術が掛けられていたのだ、同様になにかしら封印の場所にも仕掛けがあると考えたのである。


「ガキのころに聞いた話しだからしっかりと覚えいる訳ではないが……」


 勇の言葉に促され、店主がポツポツと思い出しながら喋りだした。


 要約すると、砂漠で迷った青年が砂嵐に巻き込まれ、それでも突き進むと突然見知らぬ建造物が出現、そこで砂嵐が収まるのを待っていると、奇妙な人影が現れ出て行けといわれる、不気味思った青年は素直にしたがってい砂嵐の中を歩くのか思ったが、不思議と止んでおり無事に村へと戻るという話であった。


「それぐらいしか知らないな、年寄りとかの方が詳しく知っていると思うぞ、大概川の近くで涼んでいるな」


 少し禿げ上がった頭と、暑い地域特有の褐色肌を伝う汗を拭いて座りなおした。


「此処に泊まった人とか街の人から聞いた噂はなにかある?」


「噂か……」


 勇が尋ねると店主は首をかしげる、しばし考えたあと何か思い出したのかポンと手を打った。


「そういえば最近黒い牙とかいう盗賊団が出始めたらしいな」


「盗賊か」


 王国に仕える騎士のユナは守るべき民が魔物と同様に、襲っているということに思わず眉をひそめる。


「そんなものは残念なことにいくらでもいるが?」


 魔物が跳梁跋扈するこの世界でも、やはり人を襲う盗賊といった輩は多く居る、盗賊団が出るなどなんら不思議なことではなく、噂になるほどでもないのだろう。


 「それがな、少し特殊なやつでオキ砂漠限定で名が広っているんだ、しかもそのなかに幽霊がいるんだとさ。なんでも戦闘中いつの間にか近くにいるといった具合でな、行き成り集団で襲いかかってきて暴れるのはそこらの盗賊と同じだが、逃げ出そうとした者の傍に、気が付いた時には見知らぬ人間に首を切り裂かれるんだとさ」


 噂が広がるということは、襲われながらも生き残った者がいたのか、生かして返したのだろう、もしそうならばその理由は一体何かとユナの頭に疑問が次々と浮かびあがる。


 盗賊行為を行うなら余り有名になるのはまずいだろう、例えばこの道に凶悪な盗賊団がいるとなると誰も通らなく、そのうえ通ったとしても優秀な護衛を付けるだろう、下手すると討伐隊が結成される可能性が高くなる。


 それなら密かに活動した方が利点は多い、皆殺しにしておけば噂になる速度もおそくなり、場合によっては魔物がやったとされるだろう、もちろん死体を検分し傷跡などからどちらがやったかわかることも多い


「ありがとう」


「こっちこそ礼をいいたいさ、ここ最近客が少なくてな、こうやって話をするのも久しぶりさ、ところで」


 勇が礼を言いユナは口を潤すために水を含む、瞬間店主の顔がニタリとするのが分かった。


「そちらのお嬢さんが本命かい? 他に客が居ないからってあまり激しくせんでくれよ」


 瞬間驚きで水が気管に入りユナが咳き込んだが、勇は平然としたままであった。


「本命ってそんなわけ無いだろ、たしかに美人で凛とした輝きをもった女性だけど俺がつりあうはず無いよ」


「勇殿! 何を言っているのだ!?」


 真っ赤になって立ち上がるユナは褒められなれていないため羞恥心からか体を振るわせていたが、どこと無く嬉しさも感じていた。


「何って、思ったことを言ってるだけだ、特に変なことは言ってないだろ?」


 自然体で口にする勇は本気で言っているのがユナにも分かり、怒るわけにもいかず、また言い返せることも無く真っ赤になりながらおとなしく席に座る。


「つりあわないってお前さんも結構な上物じゃないか」


「いやいや気のせいだろ、ユナは髪も肌も綺麗だし、背筋も伸ばして威風堂々としていて威厳があってカッコイイ、でも時々みせる女性らしいちょっとした仕草とかが魅力的だろ」


 女性ながら騎士になった故かきつい印象を与えるためか、もしかした両方かもしれないがほとんど男は寄り付かず、また近くにいた男性も堅物なものが多かった、そのため女性として褒められることに慣れていないユナは終始真っ赤に染まりながら水を口にすることなく、下を向いているのだった。






 朝になり全員で近くの食堂で朝食を済ますため外に出た晶は昨夜は良いものが見れたと感慨ぶかげに周囲を見渡す、砂漠にある町だったが木もそれなりに生えており、草も膝ぐらいまで伸びている、もちろん熱帯雨林のように茂っている訳ではない。


 ユナの説明によると砂漠が直ぐ近くに広がっているが此処は川も流れており、意外と地下水とかもあるそうだユナの説明に納得しつつ再度周囲を窺う、暑い地域ゆえに褐色の人が多く、主に暑さ対策なのだろう白い服を着ている。


 伝統衣装なのか、男性は腰に一枚布を巻き、女性は元の世界でいうサリーと似た形の服をまとっている姿が多い、まだ朝早いが気温が上がる前に活動しようということなのだろう、人によっては既に働き出していた。


「実は昨日、宿屋の店主に聞いた御伽噺がある、結構それっぽいからな、後念のため噂も何かヒントになるかもしれないから、皆も聞いてくれ」


 勇が話を皆に聞かせる、晶は知っていたが盗み聞きしていたことは秘密である。


「奇妙な人物はもしかしたら……鎧を着た勇者……? そう考えると砂嵐のなかに何か建造物がある……?」


「その可能性は高いな」


 メイの推測に晶は同意する。


「まだ他にも聞いてみないと分かりませんよ」


「そうだな、まだ情報が足りないからその話だけで決めるのは早計というものだ」


 マリアとユナは二人に忠告する、かなりそれっぽいが一つの話で決めるのはまだ情報が足りない。


 まだまだ話は聞けるだろうということで解散し、昼頃に又ここの食堂で集合ということになった。


「さて何か面白い話があったか?」


 食堂に集まり各々好き勝手に座る、昼という時間帯だからか賑わっており、日が高く熱い時間帯だけに直射日光があたる道には殆ど人が居ない。


「色々聞いた……でも一番それらしいのが……店主から聞いた話だった……」


「そうだな、噂の方も黒い牙ぐらいだったな」


 マリアの意見にユナは同意するように頷き勇達も同じ反応であった。


「当て推量で砂漠を歩き回るのは自殺行為だろ?」


 勇がどうすると言い含める、それとともに晶がため息と共に丸テーブルに突っ伏した、砂漠を渡ってきた時のことを考えてぐったりしたのだ。

 

 その時黒い少女が漂っているのを目で追っていると、何処かで見た人が席を探していた。


(あれって……えーっと……だれだっけ?)


 頭をひねくり回しなんとか思い出そうとするが思い出せない、晶が上体を起こし記憶を呼び起こそうとして自然に女性を目で追う。


「もしかして、マーガレットさん?」


 同じく見ていたのか勇が席を立ち晶が見ていた女性に近づいていく。


 振り返った人物の顔と勇の言葉から晶は思い出していた、王都で会ったマーガレットで暑い場所だからだろう、半袖で膝辺りまでのスカートをはいている。


「あらあら、お久しぶりです」


 マーガレット変わらず頬に手を当て笑顔である。


 王都での事を思い出したのだろう、マリアの眉間に皺が寄る。


「久しぶりだな、こっち座れよ」


「マーガレットさんはこっちで良いですよね!」


 勇も笑顔で答え隣の席に促すがマリアが強引に割り込み自分の隣に座らせた、勇から右回りにマリア、マーガレット、ユナ、メイ、晶となっている。


「勇さん達こんな所でどうしたかしら?」


 マーガレットは相変わらず頬に手を当て微笑んでいた。


「このあたりで伝承とかを聞いて回るところだ」


「伝承ね……」


 勇の台詞にマーガレットは首をかしげる、その様子に何か知っているのかと全員が注視した。


「そうね、砂漠のどこか祭壇があるって聞いたことがあるわよ」


「本当か!?」


 思わぬ情報だった、身を乗り出しユナは聞き返していた。


「えーと、なんだったかしら? たしか昔力が試される祭壇があって今でも砂漠のどこかに眠っているという詩みたいなのを聞いたことがあったわね」


「もう少し詳しく話せる?」


 大きな情報だと感じたのだろう、勇が促しいわれるままにマーガレットが歌うかの様に話し出した。


「勇気有る者、月に導かれ進むは砂の世界、砂と風に守られし祭壇、守りしものに挑み打ち勝つ者のみ大いなる力の雫を得るだろう、だったかしら?」


 マーガレットの詩は予想以上に有効な情報に晶は思えた、お年よりや色んな人が集まる食堂で聞いても宿屋の店主と似たような話しか聞けなかったのだ、全員同じ思いだったのだろう顔を突合せ相談し合った。


 勇気有る者は勇者、月に導かれ進むは砂の世界から月を目指して砂漠を突き進む、砂と風に守られし祭壇から砂嵐の中に祭壇があると予想がついた、そしてそれが最も納得いく結果になった。


「よし、それで一旦進もう、月を目指すからやっぱり夜出発ということか」


 勇判断に晶は同意する、これ以上情報が得られない可能性が高く、足踏みしているよりは進んだほうがよいだろう。


「しかし月を目指して本当にたどり着くのか?」


「どういうことだ?」


 勇が続きを促す。


「月も太陽と同じように移動するのだろ? 東の地平線に顔を出した時から頭上を経て西に沈んでいく、ただ単に月のあるほうに進めばいいのか?」


もっとも他に何かあるのかといえば晶には思い浮かばなかった。


「そうかもしれない……でも勇者関連だから……月を目指していけば……たどり着く魔術が掛けられているかも……」


「そうですね、神殿の泉にも選定するような魔術がかかっていましたから、その可能性は高いと思います」


 メイの意見に同意するマリア、結果やはり月を目指して進む事になった。


「そうだ、いい話聞かせてくれたお礼に、此処の食事代おごるよ」


「あらあら、偶然知っていたってだけだから気にしなくていいわよ、それにこの前もお金を出してくれたから、お礼なんていらないわ」


 勇がお礼に奢ろうとするがマーガレットは遠慮しているようだった。


 お互いに譲らずお礼させてくださいとか、いえいえそんなとか言い合っている、その姿は晶から見てもまさにいちゃついている様にしか見えない。


 突然テーブルを叩きつけた音が響き渡る、二人の様子に嫉妬したのだろう、マリアが机を叩き立ち上がっていた、そしておもむろに声を張り上げた。


「借りを貸したということでいつか返せば良いじゃないですか! そうしましょう!」


 余りの迫力に思わず頷く二人であった、その一連を見てユナとメイは勇になにをやっていると呆れた視線を送り、そしてやっぱりニヤニヤと勇の修羅場を楽しむ晶であった。





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