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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役二十五

「部下になれって事か!?」


 意表を突かれた問いだったのだろう、マーガレットの誘いにことのほか勇は驚いていた、此処まで来て魔王に勧誘されるとは思っていなかったのが見て取れる。


「ふふふ、違うわ、私と対等の一生涯を共にする契約よ」


 笑みを浮かべ続けるマーガレットの問い、それに対する勇の返答に辺りは静まり返る。


 そんな状況ゆえだろう、晶のポツリと囁いた声がやたらと響いた。


「一生涯を共にするか……まるで自分と結婚しろというような話だな」


「あら? 私はそう言っているのだけれど?」


 笑みを深くしたマーガレットの言葉の後に又も沈黙が続く、勇達は何を言われたのか一瞬理解できていないようだった。


 一分ほどの時間の経過と共にようやく脳に染み渡ったのか、マリア、ユナ、そしてメイが激昂した。


「だ、駄目です! そんな、勇者と魔王が! け、結婚するだなんて!」


「その通りだ! そんなもの認められない!」


「駄目……そんなことさせない……」


「ふふふ、それを決めるは勇さんよ?」


 喧々囂々の女性陣、魔王との婚姻はいけないと言っているが、その真意は勇との結婚が認められないのが嫉妬に染まった瞳から分かる、ようは自分が勇の相手になるためである。


「良かったな、4人もの美人にもてまくりだな」


「……」


 勇の肩に手を置き、ニタリと笑う晶は勇を巡る言い争いを見てかなり楽しくなっていた。


 それに対し肝心の勇は肩を落とし脱力している、物凄く緊張した重苦しい雰囲気だったのが、晶の一言からあっという間にぐだぐだになったからであろう。


「で? 結局魔王はどうするんだ? 殺すのか? 生かすのか?」


 ジャースが呆れ顔で全員に問う。


「そうです! 魔王は倒さないと世界に平和は戻りません! 勇者様と戦わないといけないけません! だから結婚なんてとんでもない事ですし出来もしません!」


 ジャースの言葉に此処まで来た理由を思い出しマリアは身構える、心なしか先ほどよりもやる気満々なのは気のせいであろうか。


「残念だけれど、私を殺しても何も変わらないわよ?」


 頬に手をあて微笑むマーガレットの言葉に一同は困惑した。


「ふふふ、 魔王も魔物の一つなのよ」


「どういうことだ?」


 マーガレットの答えが上手く理解できない晶は問う。


「私も王城まで行ったからわかるわ、世界中に魔物が異常発生するのは魔王の所為だって事になっているけどそれは違うのよ、異常発生している中で魔王が生まれる、そもそも魔物も元は普通の野生動物なのよ、それが空気中の魔力に侵され、異常をきたした状態が魔物と言われているわ」


「それじゃあ……まさか……」


 メイがあることに気が付いたのか目を見開く。

 

「そう、私も元々は普通の人間です」


 驚愕の真実だった、しかし倒すべき者が人間というのが信じられないのかユナは問いただす。


「な、なんでそこまで魔王のことが詳しい!? 自然発生した様なものならそこまで詳しく無いはずだ!」


「魔王というのは元が人間だからか少し違うの、魔王になった際、魔王としての知識も受け継がれるのよ、もしかしたら私たちが知らないだけで他の魔物も同じかも知れないわね、意思疎通が出来ないから分からないけど? そういう理由があるから魔王としての知識はあるわ、その中に勇者のこともあるわね」


「勇者のことだと? それは私達の神官が受け継いできた書物に書かれていることが全てではないと?」


 マリアが疑問をぶつける。


「書物にはどんな事が書いてあるか分からないから、そうだとは言えないわね」


 真実かどうかは分からないが、違いを知りたいマリアは内容を手短に話す。


「私の書物には、魔王が現れるとき召喚の魔方陣で勇者を召喚せよ、さすれば魔王を討ち取るであろう、大体そのような内容です」


「あら? だいぶ私の知っている召喚理由が違うわね?」


 首を傾げるマーガレット。


「私が知っているのは、その召喚の魔方陣は魔王の旦那さまを呼び出すものなんだけど……」


「なんだよその一点集中な魔法陣」


 思わず晶はつっこんでしまう、自然と手の甲で隣を叩く動作をしてしまうあたり呆れ具合が激しかった。


「そ、そんな召喚の魔法陣あってたまるものですか!」


 マリアとしても認めたくないのだろう激しく否定する。


「そう言われてもね……私が作ったのではないし」


 頬に手をあてマーガレットは何処と無く困った感じである。


「誰が……作ったの……そして……理由は……?」


 いつのまにかメイは自分が相応しいとばかりに、勇の傍に寄り添うように立っていた。


「作ったのは最初の魔王ね、なんでも魔力の大きさから迫害されて、当時無人だったあの城。王城に逃げ込んだらしいのよ、そこで誰も入って来られないように結界をはって一人で暮らしていたけど寂しくなったのよ、でも皆から嫌われているから自分のことを嫌わない人を召喚しようってことになって、だったら理想の人がいいなと色々付け加えて今の召喚の魔方陣になったみたいよ」


「そんな記述はありません! 初代様は魔王と相打ちになって世界を守った方なのです! 歴代の勇者様達も同じです!」


 マリアとマーガレットの記憶と記述の違いで言い合っているなか、勇がなにかひらめいたのか手を叩く。


「もしかしてその初代勇者、本当は二代目なのかもしれないな」


「どういう……こと……?」


 メイは首を傾げ、同じく全員も困惑しているようだった。


「たしか初代が二千年前で俺が五代目、一定の間隔で魔王が復活するから大体四百年間隔かな? 本当の初代と二代目の間は四百年もあるから初代勇者も魔王も居なくなり、何らかの理由でその城を中心に人が集まり国が出来る」


 此処まで良いかと勇は全員に視線を巡らせる。

 

「あるとき一人の人間が魔力の高さや引き継いでいく知識の豊富さ、魔物が多く発生するという状況から魔物を率いているからと魔王といわれ、国を挙げて討伐される、しかし戦ってみるが敵うはずも無く、そんな時に召喚の魔方陣を発見したのかもしれないな?  召喚してみたらそいつはやたら強くて魔王の討伐に向かわせた。理想のかつ自分を嫌わない人だったから当然好きになって、二人仲良く結婚したかなにかで召喚した人は帰ってこなかった、結果相打ちとなったと周囲は思い込んで勇気のあるものから、勇者と呼ばれるようになったのかもしれないな」


「ちなみに魔王と勇者の二人が結婚したあと、辺境の村で幸せに暮らしたのよ」


 二人の意見をまとめて推理した勇の説明はマーガレットの補足があったとはいえほぼ的を射ていた。


 人間側と魔王側の言い分なので違いがあるなかで推理して当てる勇は本当に天才であった。


「で、ではミノタウロスやヴァンパイヤはどう説明するのですか!?」


 口にするマリアは戸惑いを隠せない様子である。


「勇者がどんな人か知る為ね、先の封印で戦う力を、後の封印で知恵を、そして龍になっても受け入れる精神力を知る為に初代の魔王と勇者で考えたそうよ、通過儀礼みたいなものかしら?」


 勇さんは私から見て合格よとマーガレットは付け加えていた。


「ということは……召喚された勇はマーガレットさんのことが好きなのか?」


 今まで黙っていた晶がふと思いついたかのように口にする、その言葉にマリア、ユナ、メイの三人は衝撃を受けたようすで、マーガレットは頬を染めて嬉しそうに微笑むばかりである。


「え、えーと……」


 間違いではないのか勇は言葉に窮していた。


「では、マリアさん、ユナさん、メイさんは嫌いだと? どうでもいいと!?」


「そんなわけないだろう! 」


 晶の言葉に勇は反発する。


「ほほう、皆のことはどう思っているんだ?」


 手にマイクを持つような素振りで追求する晶は勇を弄くるのが非常に楽しくなっていた。


「さあ、さあ、さあ!」


 晶はズイズイと近寄り迫る。


「す……だよ……」


 晶の執拗な追及に根負けし勇はポツリと呟いた。


「あん!? なんだって? 聞こえねーなー」


 何処の不良だと言いたくなる様な顔で晶はなおも迫る。


「好きだよ、全員好きなんだよ! 優柔不断で悪かったなこんちくしょう!」


 こんな事を全力で叫ぶ勇は真に勇者であった。


「ふむ、やはりそうか……」


 考え出した晶はジャースに視線を向ける。


「基本結婚は一人だけだよな?」


「ああ、そうだ」


「王族や貴族は?」


「王族? 貴族?」


「ああ、子を残すために妾というものが居ると思うのだが?」


「ああ、確かに居るな、少ない奴はせいぜい一人、多い奴は百いくとかいかないとか?」


「勇者の血も残さないといけないよな? しかも魔王を討ち取ったから、報酬として貴族に認めてもらえば全員囲えると思うのだが?」


 その発想はなかったと全員感嘆の声を上げる。


「あらあら、だったら誰が正妻になるのかしら?」


 マーガレットの一言で空気が圧迫された。


 勇と晶が視線を向けると、そこには当然私と気合が物凄い三人の女性達であった。


「マーガレットさんは倒されるので余り関係ありませんよね? それに魔王ですから回りも認めてくれませんよ」


 マリアは最も強敵となる可能性が高そうなマーガレットを牽制し始めていた。


「いや、途中から一緒に旅をした仲間といえばいいんじゃないのか? 誰も居ない魔王城みせれば倒したと誰もが思うだろう」


 勇のハーレム候補を逃したくない晶は一つ提案する。


「なるほど、王都であったときも誰も気が付いていなかったからな、見た目も服装を変えれば普通の人間だし、魔力の高さもそれで仲間にしたといえばいいのか?」


 これ幸いと勇は晶の案に便乗するがその瞬間二人に強烈な威圧感が襲い掛かる。


 マリア達三人が余計なことと言わんばかりに睨んでいた。


「そ、そういえばなんで王都に居た時魔王と分からなかったんだ?」


 晶は危機感から話を変えようとする、しかし威圧感はあまり変わることは無かった。


「あれは隠蔽する魔術をかけていたからよ、あまり気に留めない普通の人と認識させる魔術ね、長時間使える魔術じゃないから買い物と、勇さんと話したいときにしか使えなかったけど……これを開発するまで大変だったわ、魔王としての雰囲気から相手に恐怖心を与えるみたいだし、おかげでなかなか買い物もいけないし、生まれ住んでた村では村人全員から追い出されるし……」


「そこのあたりは……勇者として絶対に安全だと言い張ればいけると思う、というか強引にでも通す!」


 気落ちしたため息を吐くマーガレットを気の毒に思ったのか、勇は元気付けるかのように声を張り上げた。


「ふふ、私のためにそこまで考えてありがと」


 流し目をしながら礼を述べるマーガレットは物凄い色気を放っており、思わず男二人は赤面する。


「お前もなに赤くなっているんだ!?」


「ちょ、痛い! 千切れる!」


 ジャースが不機嫌な顔しながら晶の耳を引っ張っているのだ。


「くう! なんですかあの動作!」


 マリアは自分には出せない色気に悔しがり。


「あれが大人の魅力というものか……」


 ユナは向上心からか感心し。


「ババアが……!」


 メイは自分と真逆な性能にやさぐれていた。


「はいはい、マーガレットさんをどうするかは王都に戻ってから改めて決めたらどうだ?」


 手を叩き全員に伝える晶の片方の耳が真っ赤に染まっている。


「魔王ですから討ち取ります!」


 マリアは声も高らかに宣言し、それにメイとユナも同意するように頷いていた。


 まあまてと晶はマリア達とマーガレットの間に入り片手を上げて止める。


「マーガレットさんは国を襲うつもりもないよな?」


「ええ、もともと襲ってもいないし、魔物が活発なのは私が行っている訳じゃないわ」


 マーガレットの返答に晶は頷き、次は勇に視線を向ける。


「勇は殺したくないのだろ?」


「もちろんだ」


 真剣な顔で勇は返答する。


「そういうことで三人は討伐を諦めたらどうだ?」


 晶に言われマリア達は躊躇するが再び構えた。


「無実の民を殺すのか……」


 晶は悲しげに視線を逸らし罪悪感を煽り、戸惑う三人に更に追い討ちをかける。


「倒したら確実に勇に嫌われ――」


「討伐は止めましょう、理由もありませんから」


 晶の言葉を遮り即座にマリアは中止を宣言し、ユナとメイも同意する。


「そういうわけで魔王は討伐されたと言うことで、いいな!」


 強敵だとか女性として負けられないとかアリア達が鼓舞するのを尻目に晶は勇の肩を叩いて同意を求め、勇は嬉しそうに頷いた。


「なあ、魔王との対決がこんなのでいいのか?」


「いいんじゃないか? 誰も死ななかったからな」


 呟くジャースの声が聞こえた晶は振り返り、勇を巡って激しくなりそうだと楽しくなり、笑顔で答えるのであった。



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