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脇役  作者: 柑橘ルイ
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脇役二十四

「ついにここまできたな」


 コーヒーもどきを口にしながら勇は気合を入れて話しだす。


 強敵を倒しながら全ての封印を解き、残りは魔王を倒すことのみである。


 宴から一日経ち、町も日常生活に戻りつつある中、勇達一行は初めに立ち寄った飲食店で今後どうするかを話し合うところであった。


「最終目標の魔王だが、何処にいるかわかるか?」


「はい、場所は分かりますが……」


 勇の問いにマリアが答えるが困惑した様子で眉を顰める。


「魔王のいる場所は絶海の孤島で、船で近づこうにも周囲の海域に生息している魔物は非常に強く、獰猛なので近づけずにいます」


 魔王が打ち落とせない理由がそれであった。


 大量に兵士を送り込んでも船ごと一網打尽にされては意味が無い、故に王国は手をこまねいていたのである。


「船に皆で乗って、俺が魔物を排除しながら強引に行くか?」


「それだと……勇に負担が……かかる……」


「それに魔王の島周辺の魔物は異常に群がっている、全て対処するには無理だな」


 勇の提案にメイとユナが否定的な言葉を口にした。


「そうか……陸路もだめだし海路も駄目、となるとあとは空路か……空飛ぶ船とか無いか? あと魔術で飛ぶとか?」


「残念ですがありません、魔術も研究をされてはいるのですが、一向に成果が出せない状況です」


 駄目もとで尋ねるが否定されるだけだったので勇は額に手を当て悩み、またマリア達も同じようであった。


「いっそのこと勇に乗って突貫したらどうだ?」


 沈黙を破り、口を開いたのは晶であった。


 それに対し全員何を言っているのだと疑問の視線を投げかける。


「だから龍の姿の勇に乗って、乗り込むのはどうかと言ったんだ、勇に一度は乗ったんだしな」


 おお! とばかりに全員手を打つ。

 

 善は急げと町を出て行き、人気の無い所までいくと勇が龍へと姿を変える。


 いくら勇者とはいえ街中で行き成り龍の姿に変われば住民が混乱をきたすこと請け合いである、よって町から離れた所でおこなったのだ。


『じゃあ、マリア案内頼む』


「はい、任せてください」


 全員勇の背中に乗り、首の辺りにマリアが乗って魔王の場所まで案内することになった。






「なあ、正直魔王の姿は見たことが無いが、本当にその島に魔王は居るのか?」


 ジャースがそう疑問が浮かぶのも無理は無かった。


 ミノタウロスやヴァンパイヤの言葉から魔王は実在しているようだったが、実際に見たことが無い、それなのにそこに魔王が居ると分かるのはおかしな事である。


「あの島歴代の魔王が根城にしている場所です、魔王が居ない間は危険なだけの島ですが魔王が出現すると島全体が黒い霧に覆われます、その黒い霧が出現したというのが確固たる証拠です」


 マリアの答えから新たに疑問が浮かんだ晶は続いて質問する。


「その島に兵士は常駐させないのか? それだけ重要な場所なら王国が厳重に監視しそうだけど?」


「本当は兵士を常駐して置きたいところだがな、世界で一番危険な場所でそこに居続けることが出来るのは世界でも一握りだ。それ程優秀なら王国の騎士になってもらった方が良い、だから魔王が現れる周期に合わせ、見える位置まで近づき観察するだけに留まっている」


 ユナの返答に納得する晶であった、そのとき勇が声をあげた。


『あれか……』


 晶が前方に視線をやると遠くに黒いものが見えた。


 海は不自然に荒れ、上空には分厚い雲がかかっている、そして何よりも孤島全体が半円上の黒い霧に覆われているのだ、おかげで島ということしか分からない。


『流石にこのまま突っ込むのはやばいな』


「そうだな、何処か島の端から進入しよう」


 ユナの同意をえた勇は海面ギリギリまで高度を落とし速度を上げて島を目指した。


「あそこしか……無いみたい……」


 メイが指差す先には岬のように突き出た場所、そこはうまい具合に黒い霧にも覆われておらず、結構な広さがあった。


「少し罠のように見えますけど、他に見当たりませんから」


 岬の他は全て霧に覆われ、なおかつ飛行する魔物が一匹も居ないという不自然さがさも罠に誘っているようにしか見えないため、マリアが不安げに口にするのも仕方が無いことである。


 無理やり突入することが出来たかもしれないが、黒い霧にどんな効果があるか分からない、まして魔王がいる場所なのだ、迂闊に触れることも出来ないため、霧に覆われていない岬にから進入することとなった。


「これまた不思議だな」


 晶が霧の目の前に立ち観察していた、そう、霧の目の前である。


 徐々に濃くなっていくのではなく、透明な壁に遮られたかのように唐突に霧が発生しているのだ。


「どうやって入るかだが……」


 勇が周囲を見渡すが、霧の壁があるだけである。


「この中を突っ切るしかないみたいだな」

 

 ジッと霧を見つめるユナの眼に気合が込められていた。


「そうだな、手始めに俺が入ってみるか」


 鎧姿の勇が手を伸ばす、マリア達は止めたかったが他に方法が思い浮かばず、この中で一番防御能力が高いのが勇だったため、黙って見るしかなかった。


「入って来いということか?」


 霧の中に手を入れると勇が警戒しながら呻く、その視線の先には一本の獣道が見えた。


 勇が手を入れた瞬間霧が部分的に晴れたのだ、大きさは人一人入れるぐらいである。


 一斉に入って行きたいところだったが道はこれしかない無いため、全員警戒しながら一人ずつ入っていく。


「こういう場合は最後の一人だけが入れなくて、一人になった所を多対一で襲い掛かると思ったけど……」


「たしかに……そういう手がある……」


 晶がポツリと言った言葉と同意するメイ、その方法を取らなかったのは余裕の現れであろうか。


「思ったより明るいですね」


 マリアに釣られ晶も空を見上げる、中が見えないほどの黒い霧に覆われていたにも関わらず中は明るかった。


 太陽光が直接降り注ぐほどではないにしろ、薄い曇がかかったぐらいには軽かった。


「アレが魔王の城か?」


 暫く進むと木々の間から大きな城が晶の視界に入ってきた。

 

 その城は蔦がいたるところを這いまわり、外壁はすでに崩壊しかかっており、どうにか保っているといった感じである、しかしそれにより不気味さが増していた。


「そうかもしれません……とりあえずあれを目指しましょう」


 マリアも城が見えたのだろう、魔王の城とは断言できなかったが、目標とした。


 そもそも魔王城を見たのは先代の勇者達ぐらいなものである、適当に歩き回るよりもそれらしい物を目印として歩いたほうが良いだろう。


「しかし気持ち悪いほどに何も起きないな」


「ああ、そうだな」


 ジャースの言葉にまったくユナは同意していた。


 全員周囲を警戒しながら歩いてきたが、この島に入ってから魔物に襲われたということが無いのだ。


 普通に考えれば魔王がいる場所ゆえにありえないことであり、それがまた不気味さを増徴させている。しかし引くことは許されず、このまま前進し続けるほか無かった。


「……」


「……」


「何事も無く着いたな」


「だな」


 勇と晶は目前の城を見上げ他の皆も後ろにいる、島に入ってからずっと獣道を歩いて城を目指していた勇達だったが、途中で魔物に襲われることも無く、物理的、魔術的な罠も無くたどり着いてしまったのである。


 何かあったとあえて言えば何も無い事に怪しみ、進むにつれて警戒心が強くなり、普段よりも周囲を気にすることで無駄な体力を消耗したぐらいであろう。


「よし! 入るぞ!」


 勇が気合と共に重厚な門を押し開く、その先に綺麗にされたロビーがあった。


 外観からは想像もつかないが、外を這い回っていた蔦や植物は一つも見当たらず埃も無い、正面には真っ赤な絨毯が敷かれた階段があり、吹き抜けの二階窓には罅が入っていないステンドグラスが見えた。


 全員が予想外に清潔なロビーを見回しながら入った途端、門がひとりでに大きな音と共に閉まる、閉じ込められたかと最後尾にいたジャースが門に手をあて押すと、あっさりと門は開いた。


「どうにも拍子抜けするな……」


 勇は想像と全く違う内装に唖然とするほか無いようであり、晶達も同じ反応である。


 その時何処からとも無く走ってくる音が聞こえ、全員体勢をととのえ向かえうつ。


「あらあら、初めてのお客様ね」


「マーガレットさん!?」

 

 勇が驚きの声を上げる、それもそのはず現れたのはなんとマーガレットであった。


「なんで……ここに……?」


 居ないはずの人物におどろいたのだろう、メイは目を見開きながら問いかける。


「ふふ、此処に私は住んでいるのよ」


 頬に手を当て微笑むマーガレット、一瞬なにを言われたのか理解できなかった勇達は呆然とするばかりである。


「え?ではマーガレットさんは魔王の手下なのか?」


 晶が驚きの連続で上手く回らない頭でなんとか答えを出す。


「いいえ、違うわ」


 しかしその答えを否定するマーガレットの口から続いてはなった言葉は衝撃的であった。


「私が魔王よ」


 マーガレットは相変わらず表情は笑みを浮かべるだけである。







「そ、そんな……」


 勇の顔色が悪くなる、町で会うたびに親しくしていた女性が魔王そのものであり、そして倒すべき敵とわかり精神的衝撃は凄まじいものであった。


「ふふふ、ここではなんですから玉座へ来て、正面の階段を上って真っ直ぐ行けばたどり着くわ」


 言葉を残し、虚空に消えうせるマーガレット、そんな様子を一同は見つめるしか無かった。


 足取りは酷く重く、一言も喋らず進む勇達、特に勇が一番酷かった、それもそうだろう、自身が倒すべき敵が親しかった人、しかも女性でどう見ても人間にしか見ない、それを己が手で殺さなければならないのである。


 ミノタウロスやヴァンパイヤは見た目からして人外だったため心の負担が少なかった。


 一直線に続く広い廊下を突き進み、そして際奥に絢爛豪華な両開きの扉の目の前にたどり着いた。


「ここか……」


 勇が力なく声を出す、そんな様子をみたマリアが勇の手を取る。


「勇者様、お気持ちは分かります、私も正直信じられませんでした。しかしこれは紛れも無い事実です、諸核の根源である魔王が現れた以上、倒さないと世界に平和は戻りません」


「マリア……」


 マリアは勇の手を胸元に抱きしめる、本人もつらいのかその瞳は潤んでいた、その様子を見た勇は自分だけが辛いのではないと思い出した。


「そうだよな、辛いけど、俺は勇者でマーガレットさんは魔王、それなら戦わないとな」


 勇は仲間を見回して覚悟をきめる、そして扉に手を掛けた。


 開いた扉の向こうはとても広い空間が広がっていた。


 天井は高く、二階ほどの高さに窓がはめ込まれ光を取り込み明るく、地面には入り口から続く赤く長い絨毯が伸びている、そして最奥、一段高くなっている床に一脚の椅子、装飾は少ないが頑丈なつくりの玉座があり、そこに座るのは全身黒ずくめの衣装を着たマーガレットであった。


 深緑の髪を後ろに流し、同じ色の瞳を細める、身体を覆うのは大きなマントであり、その内側の着衣は胸元から踝まである身体のラインが分かるドレス、膝辺りから下は広がっている形になっているそれをマーガレットは完璧に着こなしていた。


 装飾品も胸元に光る宝石一つだが、それがまたアクセントとなっており、全てが調和され、マーガレットが魔王であると知らしめていた。


「改めて、ようこそ皆様、私のお城へ」


 椅子から立ち上がり両腕を広げるマーガレットの表情はやはり笑顔のままである、しかし勇達にとって魔王という存在と認識したせいか、笑顔には何処と無く恐怖心をあおられるものであった。


 身構える勇達だがそれを見ても自然体なマーガレットは魔王としての余裕の表れであろう。


「ふふふ、では勇さん、お答え願いますか?」


「答え?」


 微笑みながら問いかけるマーガレットに訝しげな視線を勇は送る。


「ええ、私の元へ来てください、そうすれば世界の半分は貴方のものです」


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